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Demonic Days  作者: 白川脩
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第14話


第14話

"変化と成長"


「ねぇ、脱出場所に行く前に装備を整えた方が良いんじゃない?」


茜が歩きながら、先頭に居る有紀奈に訊く。


「後は脱出するだけじゃない。戦闘はもう…」


「しない、とは断言できないでしょ?念の為、準備した方が良いと思うわ」


「賛成だ。こっちも弾が切れかかってたんでな」


武司も賛同する。


有紀奈は自分の所持弾数を確認すると、進路方向を変えた。


「わかったわ。それじゃあ、私達のトラックに寄りましょう」


「また行くの?結構距離あるじゃん…」


溜め息を吐く風香。


すると、茜がいきなり後ろから抱き付いて来た。


「おんぶしてあげよっか?それとも抱っこがいい?」


「いや、結構です…」


その様子を横目で見ながら、有紀奈が一番後ろに居る武司の隣に行って訊く。


「そういえば、私達と合流する前に1回寄ったの?」


「あぁ。弾も無かったし、お嬢ちゃん達の武器の事もあったからな」


有紀奈は風香の持つアサルトライフルを見て言った。


「…自分であれを選んだの?」


「なんでも、強そうに見えるとか何とか…」


「あの年でよく使いこなせるわね…」


次に、2人の視線が美咲に向かう。


「彼女も信じられないわね。冴島の銃を平然と使うなんて」


「あのお嬢ちゃんだけじゃない。全員、射撃能力が格段と上がってきてる。短時間でここまで成長するとはな」


武司の言葉を聞いた有紀奈は、少女達4人を見て呟いた。


「仕方ないとは言え、何だか申し訳ないわね…」


「何故」


「銃の性能を知ってしまった人が、進む道を間違える事って多いじゃない…」


有紀奈が不安そうに言うと、武司はそれを聞くなり笑い出した。


「バカだなお前は。この子達が道を間違えるわけ無いだろう」


「…あんたらしい偏見ね」


有紀奈は笑いながらそう言った。


中間地点とも言える緑木公園の前に来たとき、瑞希がある事に気付いた。


「さっきから、患者が居ませんね…」


「このパターンは…」


風香が辺りをきょろきょろ見渡して、盲目の患者が居ないか確認する。


「いや、居ないでしょ…」


そう言いながらも、一緒になって見渡す美咲。


晴香は不思議がりながら風香に訊いた。


「パターンって何?」


「前にもあったの。患者が1体も居なくて、しばらく歩いてたら盲目の奴が来るパターン」


「どんなパターンよ…」


しかし、2人の警戒は無駄な物だった。


「何も来ませんけど…」


怯えながら辺りを見渡す瑞希。


「もう、バカやってないで行くわよ」


有紀奈が場を治めるようにそう言うと、茜が立ち止まって呟いた。


「あら、本当にそのパターンみたいよ」


「え?」


茜の視線を有紀奈が辿ってみると、病院で戦った巨大生物が徘徊していた。


全員の動きがぴたりと止まる。


「…どうする」


武司が蚊の鳴くような声で訊くと、有紀奈は音を立てないように後退りながら静かに言った。


「まだ気付かれてないわ。迂回しましょう…」


来た道を戻る7人。


巨大生物が見えなくなる所まで戻り、別の道を探し始めた。


「いっそのこと、仕留めるってのはどう?」


茜が冗談半分でそう言うと、風香に頭を軽く叩かれた。


「その時は、あんた1人で行ってね」


「冗談冗談…」


「だが、奴は早いところ何とかした方がいいと思うぞ」


武司の言葉に、有紀奈が不気味な笑みを浮かべながら答えた。


「そうね。それなら、徹底的にやりましょうか…」


「有紀奈さん、顔が怖いです…。徹底的にって、どうするんですか?」


晴香の質問に、有紀奈は歩き出しながら答えた。


「ロケットランチャーを使えば粉々よ」


その言葉を聞いた武司が、焦りながら止めようとする。


「待て、あれ1つで幾らすると思って…」


「うるさいわね。邪魔な物は全て粉砕するのよ」


「だがな…」


「黙りなさい。蹴るわよ」


そのやり取りの後ろで、有紀奈を見て呆然としている4人に、茜が小声でささやいた。


「いい?みんなはあんな風になっちゃダメよ?」


結局、武司が口論に負け、トラックに積んであるロケットランチャーを使うことになった。


巨大生物を避けて、再びトラックがある森林地帯へと進み始める7人。


幸い、到着するまで巨大生物と遭遇する事は無かった。


「さて、どこだったかしら」


上機嫌でトラックの中を探し始める有紀奈。


「さぁ、みんなも準備するんだ。弾の種類は教えてやる」


晴香、風香、美咲の3人は、それぞれ使用している弾薬を持てるだけ持ち、瑞希は武司の勧めで比較的扱いやすいサブマシンガンを手に持った。


茜は病院の中で男から奪った銃の弾だけ持って、トラックから降りる。


風香が茜の持つハンドガンを見て訊いた。


「それだけでいいの?」


「両手持ちの銃は嫌いなのよ。体術が鈍るからね」


「かっこいいなぁ…」


美咲が尊敬の眼差しで茜を見ていると、彼女は寂しい表情になってこう言った。


「…私は弱いわ。少女1人さえ守れなかったんだから」


「少女って…?」


晴香の質問に対し、茜は笑って誤魔化した。


「何でもないわ。ほら、さっさとこんな街から脱出しちゃいましょう」


風香が更に訊こうとするが、茜は逃げるようにしてその場を離れる。


「茜、私と会う前に何かあったんだ…」


「言いたくないようだし、訊かない方が良いんじゃないかな…」


瑞希が呟く。


4人が見た茜の背中は、どこか寂しげだった。


「全員準備できたな。行くぞ」


「脱出のヘリは?」


茜が武司に訊く。


「現地に着いてから呼ぶ事になってる。安心しろ、全員乗せられるからな」


すると、美咲の顔色が一気に真っ青になった。


「ヘ…ヘリに乗るんですか?」


「美咲、高所恐怖症だっけ」


風香の言葉に、美咲は大袈裟に首を縦に振る。


しかし、有紀奈は対して案じていないようだった。


「困ったわね。ま、何とかなるわよ」


「ふぇぇ…」


しばらく歩いた後、茜が辺りを見渡しながら呟く。


「庁舎はまだなのかしら?」


有紀奈は茜に顔だけ向けて答えた。


「もうすぐよ」


「決まり文句ね…」


「本当にもうすぐよ」


「あと何分ぐらい?」


「10分ぐらい」


「…本当でしょうね」


それから10分歩くと、有紀奈の言った通り正面に10階建ての建物が見えた。


「きっちり10分だったわね…」


「言ったでしょ?」


庁舎の中に、茜と有紀奈の2人が入っていく。


他の5人もそれに続いた。


ロビーは電気が点いていなかったが、窓から差し込む陽光によって、なんとか視界は確保できた。


「エレベーターを探すわよ」


散らばってロビーを捜索し始める7人。


しばらく探していると、武司がエレベーターを発見した。


しかし、ボタンを押しても反応が無い。


「電源が入ってないか…」


「という事は…」


美咲が階段に視線を送る。


有紀奈は平然と階段に足をかけた。


「仕方ないわね。行くわよ」


「はーい…」


階段を登り始める7人。


複数の足音が鳴り響く中、茜が突然立ち止まった。


「…待って」


その声を聞いて、他の6人も立ち止まる。


静寂の中、上の階段から足音が近付いていた。


「2階に逃げましょう…」


「戦わないの…?」


風香が茜に訊く。


「敵の正体もわからないのに戦うのは危険よ」


風香は頷いて、2階への扉に手をかける。


「………」


「どうしたの…?」


突然硬直した風香を見て、晴香は嫌な予感を感じた。


「開かない…」


「え?」


予感は的中し、扉のドアノブはいくら力を込めても回らなかった。


どんどん近付いてくる足音。


「一旦戻るわよ…!」


有紀奈の指揮によって、足音の正体との遭遇は避けられたものの、7人は再び1階に戻ってきてしまった。


ロビーまで戻り、微動だにせず階段の方をじっと見つめる。


しばらくすると、足音の正体が姿を現した。


「よりによって、あいつなのね…」


目の前に現れた巨大生物を見て、茜が息を吐き出すように呟いた。


「どうするんですか…?」


不安そうに訊く瑞希。


有紀奈はいたって冷静に答えた。


「粉砕するわ。外におびき寄せるわよ」


「ちょ…」


晴香が止めようとするその前に、有紀奈は背負っていたロケットランチャーを取り出した。


そして、壁を思い切り蹴って音を立てる。


巨大生物はゆっくりとこちらを向いた。


「走って!」


有紀奈の号令と共に、7人は外に向かって走り出す。


巨大生物の走るスピードはかなり早く、追いつかれる寸前で外に出た。


「速水!今だ!」


「わかってる!」


有紀奈が武司に言われ、巨大生物にロケットランチャーを構えて引き金を引く。


発射された弾頭部分は、巨大生物に向かって真っ直ぐ飛んでいった。


誰もが当たると思ったその瞬間、巨大生物がその弾頭を爪で弾き飛ばす。


弾頭は庁舎の4階部分に命中し、爆音と共に炸裂した。


「そんな…!」


ゆっくりと有紀奈に近付いてくる巨大生物。


すると、茜が巨大生物の背中に跳び蹴りを放った。


「私がお相手するわよ?」


巨大生物が振り向き、茜に爪を振りかざすが、彼女は爪が振り下ろされる寸前に巨大生物の腹部を右足で蹴りつけて、攻撃を止める。


蹴りつけられた巨大生物は一瞬怯んだが、素早く茜の右足を掴みかかった。


そしてもう片方の凶悪な爪が付いている手を引き寄せて、茜に突き刺そうとする。


しかし、茜は左足を使って飛び上がって攻撃を避け、そのまま巨大生物の延髄を蹴りつけた。


巨大生物は思わず茜の足を離し、その場から走り去っていった。


「賢明な判断ね」


「撃退しちゃったよ…」


呆然としながら呟く美咲。


茜は得意気な顔で有紀奈を見た。


「…助かったわ」


「あら、素直ね」


「…悪いかしら?」


「とんでもない」


7人は再び庁舎の中に入っていった。


巨大生物は居なくなったが、警戒を緩める事なく階段の元へ向かう7人。


幸い、階段に着くまで敵と遭遇する事は無かった。


階段を登り始めた時、風香がある事に気付く。


「…音がしない」


「音って?」


茜が訊くと、風香はわざと大きな足音を立てた。


「足音だよ。さっきと違って、響かなくなってる」


「確かに…」


茜も自分の足音を確認して、風香の言う事に納得した。


「…もしかして」


有紀奈がそう呟いて、階段を登る足を速める。


4階部分まで到達した彼女は、目の前の光景を見て深い溜め息を吐いた。


「やっちゃったわね…」


さっきの戦いで発射したロケットランチャーの弾頭が階段の壁に着弾して、大きな穴がぽっかりと開いていた。


「あら、風通しの良い階段だこと」


茜が苦笑する。


それだけなら支障は無いが、崩れた瓦礫によって先に進むことが出来なくなってしまっていた。


瓦礫を見ながら、風香が有紀奈に訊く。


「どうすんの?」


「…ぶっ壊す」


「速水、落ち着いてくれ。…頼むから」


手榴弾を投げようとしている有紀奈を必死に止める武司。


「何よ、迷う事なんて…」


「俺達が危険な目に遭うだろ」


「そこのドアの向こうに居ればいいじゃない」


「鍵が掛かってる」


武司が4階への扉を指差して言うと、有紀奈は武司の持つショットガンを奪って扉のドアノブに発砲した。


「鍵なんて掛かってないわよ」


「あ…あぁ、そうだな」


有紀奈の威圧感に負けた武司を先頭に、有紀奈以外の6人は扉を開けて4階の内部へ入っていった。


「…おじさん、有紀奈さん怒ってるんですか?」


晴香が有紀奈に聞こえないように、小声でささやくように武司に訊く。


すると、武司は溜め息混じりに答えた。


「平常だ…」


「平常!?」


階段の瓦礫に向かって手榴弾を投げ込んだ有紀奈が、扉を開けて入ってくる。


「耳、塞いで」


「え?」


美咲が訊き返すと同時に、手榴弾が爆発した。


「わぁぁぁ!」


爆音を直に聞いてしまった美咲を、風香が耳を塞いだまま見る。


「大丈夫?」


美咲は風香の口元を見て答えた。


「しばらく聞こえません…」


「本当に?」


「………」


自分の声が美咲に聞こえてない事を確認した風香は、下らない事を思い付いていたずらっぽく笑った。


「美咲のバーカ!」


「………」


「実はちょっと太り気味!」


「ごめん、聞こえてる」


「!?」


階段を塞ぐ瓦礫は無くなったが、今度は違う事が原因で通れなくなっていた。


手榴弾の爆発により、階段の真ん中部分が崩れてしまっていたのだ。


「きいぃ!次から次へともう!」


有紀奈が頭をかきむしりながらそう言うと、茜が突然彼女に抱き付いた。


「ちょっと落ち着きなさい。…あら、以外と小ぶりなのね」


「ちょ…、やめなさい!胸を触らないで!」


「落ち着くまでやめなーい」


「お、落ち着くから離して!」


その様子を見て、美咲が苦笑しながら武司に訊く。


「有紀奈さんって、本当に貧乳なんですか…?」


「俺が知るわけ無いだろう…。ただ…」


武司は美咲と一緒に苦笑いをしながら、じゃれている有紀奈と茜を見て言った。


「あんな速水を見るのは初めてだ…」


「そんな事よりどうすんの、これ」


風香が役目を果たしていない階段を見て呟く。


すると、瑞希がこんな提案をした。


「橋みたいな物を架ければいいんじゃないですか?」


「橋?」


晴香が聞き返す。


「はい。頑丈な板みたいな物を架ければ通れるじゃないですか」


「板…か。よし、手分けして探そう」


武司の言葉で、7人は4階の捜索を始めた。



「頑丈な板…ねぇ…」


「かなり大きめの板じゃないとダメね」


茜と有紀奈が廊下を歩きながら、崩れた階段を思い出す。


「長方形の大きい机とかなら、良いんじゃないかしら?」


有紀奈がそう言うと、茜は腕を組みながら答えた。


「…それじゃあ折れない?風香ちゃん達ならまだしも、あなたなら…」


「…どういう意味よ」


「そ、装備が重いから…って意味よ」


「ふーん…」


「な、何…?」


「別に」



一方、晴香と美咲の2人は、物置のような部屋を見つけて中を調べていた。


「晴香~、何か見つけた~?」


「…堂々とサボんないでよ」


椅子に深く座り込んでいる美咲を、呆れた様子で見る晴香。


美咲はだるそうに立ち上がって、辺りを見渡し始めた。


「そんなに都合良く橋になるものが見つかるわけ…」


美咲がある物を見つけ、いきなり静かになる。


晴香が彼女の視線を辿ってみると、そこにはかなり大きなハシゴが立てかけられていた。


「それだ!」



同時刻…


「ねぇ風香ちゃん。…本当は寂しがり屋さんなの?」


「殺すよ?」


「ご、ごめん…」


風香と瑞希は、捜索している場所に気になる部屋が特に無かったので、ただただ廊下をぶらついていた。


「…どうせ、お姉ちゃんに何か言われたんでしょ」


「ふぇ!?そ、そんな事ないよ!?」


「分かり易いなぁ…」


「うっ…」


風香は瑞希を見て、小さく笑って言った。


「ま、私だって人間なワケだし、寂しいって思うときぐらいあるけどね」


「学校に居る時も…?」


「たまには思うよ。でも、クラスの連中と話しても、どうせつまんないから別に良いけど」


鼻で笑ってそう言う風香に、瑞希は俯きながら寂しげにこう訊いた。


「もしかしてさ…、私が話し掛けた時も、そう思ってたの…?」


すると風香は、瑞希にわざと聞こえないように小声で答えた。


「そんなワケ…ないじゃん」


「…え?」


「何でもない!」


そんな2人をこっそり後ろから見ていた茜が、隣にいる有紀奈を小突いた。


「あの2人、デキてるわね」


「は?」


すると、風香が後ろに居る2人に気付いて振り向いた。


「何か見つけた?」


風香の質問に、有紀奈は首を横に振る。


「いいえ。ただ、大きな机があれば、それを橋として代用できるはずよ」


「机…ですか」


瑞希は有紀奈の言葉を聞いて、今まで見てきた所に大きな机が無かったかを必死に思い出す。


しかし、それらしい物は思い浮かばなかった。


「すみません…。見なかったと思います…」


「謝ること無いわよ。ゆっくり探しましょう」



その頃…


1人で探索していた武司が、ふらっと入った部屋である物を見つけていた。


「(ファイル…か)」


手に取って、特に何も考えずに適当に中身を読む。


武司の想像とは裏腹に、ファイルの中身には重大な情報が入っていた。


「("和宮病院での実験について"…だと?)」


その時、武司の背後に忍び寄る影があった。


第14話 終




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