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Demonic Days  作者: 白川脩
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第13話


第13話

"病院からの脱出"


女性陣が1人1部屋使って汗を流している間、武司は壁にもたれていびきを掻いていた。


一番先に廊下に出て来たのは風香。


「あれ、みんな遅くない?」


少し遅れて、他の病室から美咲が出て来る。


「風香ちゃん、シャワー早いね…」


「普通こんなもんでしょ」


すると、続けて晴香と瑞希も出て来た。


晴香が風香の濡れた髪の毛を見る。


「風香、ちゃんと乾かしなさいって、いつも言ってるじゃない」


「自然乾燥するから大丈夫」


「風香ちゃん。髪下ろすと印象変わるね」


瑞希がそう言うと、風香は恥ずかしそうに窓の外を眺め始めた。


「雨、降ったんだ」


所々に出来ている水溜まりを見て風香が呟く。


「丁度、お嬢ちゃん達が起きた時に止んだんだ。…それで、他の2人はまだなのか」


武司が4人に気付き、欠伸をかみ殺しながらそう言うと、病室の中から髪を下ろした有紀奈が出て来た。


「お待たせ」


「有紀奈さんも、髪を下ろすと印象変わるんですね」


美咲の言葉に、有紀奈は髪を縛るためのゴム紐を取り出しながら答えた。


「そうかしら?長いと邪魔だから、いつも縛ってるのよ」


「下ろしてた方が可愛いですよ!」


晴香にそう言われ、照れ臭そうに髪を束ねて縛る有紀奈。


「いいな~、みんな髪長くて…」


美咲が周りの人の髪型を見て呟くと、瑞希が人差し指を立てながら言った。


「でもほら、髪が短い女の子は、元気で活発に見えるって言うじゃないですか!」


「私って活発かなぁ…?どっちかと言えば、清楚で大人しい…」


「活発じゃない?」


「活発でしょ」


「活発ね」


即答する晴香と風香と有紀奈。


美咲が苦笑いしながら何か言おうとした時、病室から茜が出て来た。


「さっぱりした~」


「遅いぞ」


待ちくたびれていた武司が、イライラした様子でそう言う。


しかし茜は、片目を閉じていたずらっぽく笑った。


「乙女のシャワーに文句言っちゃダメよ?」


それを聞いた風香が、茜から目を逸らして聞こえないように呟く。


「…乙女じゃ無いよ」


「な~に?どうしたの風香ちゃん?」


「な、何も言って無いよ?」


準備を終えた7人は、脱出という最終目的に向けて動き始めた。


4階に降りて、患者の有無を確認する。


「居ないわね…」


茜は辺りを見渡した後、戦闘用の構えを解いた。


武司も銃を下ろして、バリケードの無い階段へと歩き始める。


「まずは病院から出る事が最優先だ」


「あの、脱出ポイントってどこなんですか?」


「街の中央にある合同庁舎の屋上よ」


晴香の質問に、有紀奈が答えた。


「合同庁舎って確か、10階建ての…」


長い階段を想像して溜め息を吐く美咲。


すると、風香が思い出したように有紀奈に訊いた。


「そう言えばさ、何で病院のエレベーター使わなかったの?」


「使えないでしょ?」


「使えるでしょ」


「え?」


近くにあったエレベーターのボタンを風香が押すと、エレベーターはすぐに到着した。


「あら…」


きょとんとする有紀奈。


美咲はガックリと肩を落とした。


「階段を登った意味って…」


「筋トレって思えば良いんじゃない?」


そう言った茜に、晴香が苦笑いしながら訊いた。


「筋肉…要りますかね?」


「要らないわね」


「ですよねー…」


エレベーターを使い、1階まで一気に降りる7人。


患者に警戒しながらエレベーターを出るが、上の階と同じく死体ばかりで、動いている患者は1体も居なかった。


茜が死体の弾痕と、その側に落ちているデザートイーグルの薬莢を見て心の中で呟く。


「("あいつ"が戦った跡ね…)」


「…どうしたんですか?」


ぼーっとしている茜の顔を、瑞希が心配そうに覗き込んだ。


「いえ、何でもないわ。さ、外に出ましょ」


エントランスに向かっている途中、美咲が隣を歩いている晴香に、病院に来る前に手に入れたサブマシンガンを渡す。


「晴香、これ使いなよ」


「あ、ありがと。…急にどうして?」


困惑気味に訊いてきた晴香に対し、美咲は達也に貰ったアサルトライフルを見ながら答えた。


「この銃、"返す"べきかなって思ったんだけど、やっぱり使うことにしたの。だから、それはあんたが使っていいよ」


「返すって…」


晴香はそこまで言い掛けて、言葉を切る。


「…わかってるよ。もう居ないって事ぐらい」


「…ごめん」


「返すってのは表現。正しくは"供える"だよ」


美咲は少し間を空けて言う。


「…でも、特別にくれた銃を返すってのも失礼な気がするんだよね」


「返したらきっと、あいつは怒るだろうよ」


いつの間にか話を聞いていた武司がそう言った。


「おじさん…」


「お嬢ちゃんはその銃を託されたんだよ。しっかり使ってやりな」


美咲はその言葉を聞いて、達也から受け継いだ銃を見ながら小さく笑った。


7人がエントランスに到着すると、外から入ってきた患者が待ち受けていた。


風香が数を数え始める。


「20は居るね」


「いや、もっと居る」


病院の外を見て、晴香が呟いた。


「どこから集まったのかしらね。流石に相手にできない数よ」


そう言いつつも、完全に臨戦態勢の茜。


しかし、有紀奈は冷静に状況を判断した。


「別の場所から出ましょう。弾薬が勿体ないわ」


「別の場所?」


武司が辺りを見渡しながら訊く。


「こっちよ」


有紀奈が案内した場所は、大量の患者に囲まれた時に逃げ込んだ部屋だった。


「廊下の窓は無理だけど、この窓ならくぐり抜けられるわ」


その窓の外にも患者は居たが、エントランスに比べれば微々たるものだった。


「どっちみち、戦闘は避けられないみたいよ?」


茜が有紀奈に言う。


「そのようね…」


有紀奈は窓から外へ出て、患者の掃討を始めた。


「あら、抜け駆けはずるいわ」


どこか楽しそうな様子で後を追う茜。


他の人も、その後に続いた。


「さっきよりはマシだけど、こっちも結構多いですね…」


瑞希が辺りの患者の数を見て、少し怯んだ様子を見せる。


すると、茜が全員に聞こえるように言った。


「みんな、2人1組になって戦いなさい」


「1人余るわよ」


「余らせたのよ」


有紀奈の指摘に、茜は笑って答えた後、1人で患者の群れに突っ込んでいった。


残った6人は、近くに居た者同士でペアになる。


結果、晴香と風香、瑞希と有紀奈、武司と美咲のペアが出来た。


「敵の数は思ったよりも多いわ。別れて戦いましょう」


有紀奈の言葉で、3つのペアはそれぞれ別の方向に散開した。


風香が、晴香の持つサブマシンガンを見る。


「美咲のじゃん」


「貰ったの。美咲は、冴島さんから貰った銃を使うんだって」


晴香の言葉を聞いた風香は、達也の最期を思い出して小さく呟いた。


「仲間が死ぬ時って、呆気ないもんなんだね…」


「………」


2人はどうしようもない虚しさに捉えられながらも戦闘を始める。


銃を握り締める力が、いつも以上に強かった。


一方…


「予備の弾、渡しておくわ」


「は、はい」


有紀奈は戦う前に、ペアになった瑞希にハンドガンの弾を渡していた。


その時、瑞希の手が震えている事に気付く。


「緊張しすぎると、しくじるわよ?」


「で、でも、こんなに多いと…」


「こういう戦闘は、目の前に居る敵にだけ集中すればいいのよ」


「後ろに来たら…?」


不安そうに訊いてくる瑞希。


有紀奈は微笑みながら答えた。


「私が倒すわ。その為のペアじゃない」


その言葉を聞くと同時に、瑞希の手の震えは止まった。


「さぁ、始めるわよ」


「はい!」


近くに居る患者に発砲を始める2人。


そこから少し離れた所に、武司と美咲が居た。


「弾を渡しておくが、無駄使いはするなよ」


「はい。…あの、どうしてこの銃の弾を?」


武司から受け取った弾を見ながら美咲が訊く。


「冴島はすぐに弾を使っちまう奴だったからな。いつも、速水と2人でいくつか持ってって、現地で渡してやってたんだ」


「なるほど…」


美咲は納得した後、近くに居た患者に1発だけ発砲した。


そして、想像以上の反動に思わず驚愕する。


「うわっ!何これ!?」


「言い忘れてたがその銃は、さっきお嬢ちゃんが使ってた銃に比べてかなり反動が大きい。しっかり構えて、1発ずつ撃つんだ」


「わ、わかりました!」


こうして、3つのペアはそれぞれ戦い始めた。


そんな中、たった1人で黙々と患者をなぎ倒す茜。


「面倒だから、纏まって来てくれないかしらね」


茜の言葉に呼応するかのように、ぞろぞろと集まり出す患者。


「あら、本当に来ちゃダメじゃない」


先頭の患者を右足で蹴り飛ばし、後ろに居る患者を巻き込む。


そのまま左足を使って、右手側から接近して来た患者に水面蹴りを放ち、勢いよく転倒させた。


体勢を立て直して、片足だけで立つ構えを取る。


そして、次々と近付いて来る患者を1体ずつ蹴って後ろに吹っ飛ばし、自分との距離を離した。


「さぁ、ラストスパートよ!」


茜はそう言って吹っ飛ばした大量の患者の元へ走っていき、起き上がろうとする患者の顔面を次々と蹴りつける。


彼女の前に居た大量の患者は、あっという間に全滅した。


「ぬるいわ。もう少し頑張ってね」


茜は伝わらないとわかっていながら、動かなくなった患者にそう告げ、その場から離れた。


すると、近くに居た美咲と武司のペアが走ってきた。


「おい、ちょっと手伝ってくれ」


「あら、苦戦してるの?」


「数が多いんですよ!」


茜が美咲に言われて2人の居た方を見てみると、数体の患者が追いかけて来ていた。


「わかったわ。ちょっと強引にやるから、しっかり援護してね」


そう言って、1人で患者の群れに飛び込む茜。


「あ、危ないですよ!」


急いで駆けつけるが、茜に援護はほとんど無用だった。


美咲が茜の背後に居る敵を撃とうとすると、それよりも早く茜が対応する。


「援護、要らないんじゃ…」


「全くだな」


すると、いつの間にか後ろに居た有紀奈が、武司の頭を小突いた。


「何ボーっとしてんのよ」


「そっちは片付いたのか?」


「えぇ。晴香ちゃん達の援護に行こうと思ったんだけど、あんた達が近くに居たから手伝ってもらおうと思って」


「生憎だが、今はあっちを手伝ってる」


武司がそう言って、1人で戦っている茜を指差す。


有紀奈はそれを見て、呆れながら言った。


「…手伝ってないじゃない」


「見守ってるのさ」


「物は言い様ね…。まぁいいわ、片付いたらこっちに来て頂戴」


有紀奈はそう言うと、瑞希を連れて晴香達の元へ向かって行った。


残った武司は、面倒臭そうに茜の元へ歩き始める。


「俺達も数を減らそう。何もしないと、速水がうるせぇからな」


「わかりました」


その頃、晴香と風香の2人は既に敵を全滅させ、仲間と合流しようとしていた所だった。


晴香がこちらに向かってくる有紀奈に気付く。


「あ、終わったのかな」


「無事みたいだね」


風香が安心した様子でそう言った時、背後から何かが落ちてきた音がした。


振り返る2人。


「…これって」


落ちてきた物は、下半身の無い盲目の患者だった。


「お姉ちゃん!上!」


風香の声を聞いて、反射的に後ろに下がる晴香。


すると、病院の屋上から何かが飛び降りてきた。


それは、右手に盲目の患者が持つ鋭利な爪を遥かに上回る大きさの爪が付いている巨大な生物だった。


「2人共!急いでこっちに来なさい!」


有紀奈がその巨大生物に弾丸を浴びせながら2人に呼び掛ける。


しかし、その生物は怯むことなく左手で晴香の首を掴んで持ち上げた。


「お姉ちゃんッ!」


「バカ…、早く…逃げて…」


晴香を持ち上げている生物が右手を引いて、晴香の腹部を突き刺そうとする。


有紀奈は間に合わないとわかっていながらも駆け出した。


「まずい…!」


その時、1発の銃声が響いた。


ゆっくりと巨大生物の左手の力が抜け、持ち上げられていた晴香が地面に落ちる。


晴香は咳込みながらも素早く立ち上がり、有紀奈の元へ走っていった。


「何が起きたの…?」


突然動きがぴたりと止まった巨大生物を見ながら、風香が呟く。


すると、再び銃声が鳴り響いた。


「…屋上?」


有紀奈が音の聞こえた方向を見てみると、屋上で2人の人間がこちらを見下ろしていた。


その内の1人が、スナイパーライフルを構え直し、巨大生物の頭を狙って発砲する。


しかし、当たる寸前で巨大生物が動き出し、弾を避けて何処かへ走り去っていった。


安心した風香が泣きそうな顔で晴香に抱き付く。


「ちょっと…、いきなり抱き付かないでよ…」


「だってぇ…」


晴香の無事を確認した有紀奈は、屋上に顔を向ける。


そこにはもう誰も居なかった。


「誰だったんですかね…?」


瑞希が有紀奈と同じ所を見ながら呟く。


「…さぁね。ただ、助けられたって事は確かよ」


有紀奈は屋上を見つめたまま、そう答えた。


すると、敵を全滅させた茜と武司と美咲の3人が走ってきた。


「…何かあったのか?」


晴香に抱き付く風香を見て、武司が有紀奈に訊く。


「新種の患者がいきなり現れたのよ。誰かが屋上から狙撃してくれたお陰で、何とか犠牲は出ずに済んだけど」


「新種の患者…?」


美咲が訊き返すと、有紀奈は屋上から落ちてきた上半身だけの盲目の患者を見ながら答えた。


「あの爪よりも巨大な爪を持ってたわ。それに、目も見えてるようだった」


「厄介だな…」


武司が忌々しそうに呟く。


「患者が次々と突然変異するとしたら、あまり長くは戦えないわ。急いで脱出しましょう」


有紀奈が話を終えて歩きだそうとした時、茜がそれを止めた。


「ちょっと待って。誰かが狙撃したって、どういうことかしら?」


「屋上に2人見えたわ。ここからだったから、顔は確認できなかったけど」


「そう…」


「…何か心当たりがあるの?」


「…いえ、無いわ」


そこで話を終えて、7人は患者が居ない場所から病院を出た。


その道中で、武司が他の人に聞こえないように茜に訊く。


「おい、狙撃した奴ってあいつらじゃないのか?」


「私もそう思ったんだけどね…。でも、奴らはとっくに脱出した筈なのよ」


「だが、狙撃できる人間なんてこの街にはあいつらしか居ないと思うぞ」


「そうなんだけど…」


2人は、脱出した筈の"キング"達3人を思い浮かべていた。



和宮病院屋上…


「似合わない事しますね…」


「私の勝手でしょう?」


屋上で狙撃をしていたのは、茜と武司の予想通り脱出した筈のキングだった。


もう1人はその隣に居るジャック。


「にしても驚きましたよ。ヘリの中で"引き返せ"って言うので戻ってみたら、諦めていたサブミッションの血液採集の対象が居たんですからね。…何故わかったんです?」


「勘よ」


「…勘ですか」


納得しない様子のジャックは、別の質問をした。


「それじゃあ、何故あの少女を助けたんですか?患者が屋上から飛び降りた時、既に血液は採集出来て…」


「…悪い?」


「す、すみません…」


ジャックは質問をしすぎてキングの機嫌を悪くしてしまい、焦った様子で謝る。


すると、キングは狙撃をしていた場所に戻り、病院を出る晴香達を見下ろして呟いた。


「他人の空似ってやつよ…」


「はぁ…」


そして、キングは心の中で言葉の続きを言った。


「(死んだ妹に似てた。ただ、それだけ…)」


第13話 終




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