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Demonic Days  作者: 白川脩
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第12話


第12話

"真犯人の目的"


和宮病院5階廊下…


それから有紀奈達5人は、何事もなく5階に到着する事ができた。


「やっと着いた…」


風香が膝に手を付き、溜め息混じりにそう呟く。


有紀奈は適当に病室を選び、選んだ病室を指差して言った。


「そこの病室で休みましょう」


元々最上階である5階には患者が居らず、5人は特に警戒せずに病室へ入っていった。


真っ先にベッドに倒れ込む瑞希。


目を開けている事も辛かったらしく、あっという間に寝息を立て始めた。


「みんなも休んでいいわよ」


有紀奈の言葉を聞いた晴香が、ベッドの数が足りない事に気付く。


「ベッド…足りませんね」


「私は公園で少し寝たから大丈夫。みんなでしっかり休んで頂戴」


「だとしても足りないよ?」


そう言った風香に、美咲が突然抱き付いてきた。


「一緒に寝れば大丈夫じゃん!」


「大丈夫じゃない!離せ!」


「2人とも女の子なんだから平気でしょ!」


「平気じゃないってば!」


晴香がその様子を見て、恥ずかしそうに有紀奈に言う。


「す、すみません。お恥ずかしい所を…」


「うふふ…。仲が良いのね」


有紀奈は微笑みながらそう言った。



和宮病院非常階段…


「5二"金"、王手だ」


「ま、待った!」


「ダメだ。11回目だぞ」


茜と武司の2人は、非常階段を登りながら目隠し将棋をやっていた。


「これ最後!」


「…次はないぞ」


「わかってるって!5二"歩"!」


「それは二歩だ。俺の勝ちだな」


「ま、ま、待った!」


「断る。…お、次で屋上か」


武司が階段を見上げる。


「あら、意外と楽だったわね」


「5階建てだしな」


階段を登りきって屋上に着くと、真っ先に有紀奈が割った窓ガラスが目に入った。


武司がそれを見て溜め息を吐く。


「どうしたの?」


「何でもかんでも壊しちまう、速水の癖は治らんのか…」


「…これ、さっきの茶髪のポニーテールの子がやったの?」


「"押してダメならぶっ壊せ"って言うくらいだからな…」


「それ怖いわね…」


2人は窓をくぐり抜けて、5階へと降りていった。


「速水、着いたぞ」


武司が無線機に話し掛けると、有紀奈の眠たそうな声が返ってきた。


『遅いわよ…』


「すまんすまん。どこにいる?」


『ちょっと待ってて。今、廊下に出るわ』


「わかった」


しばらくすると、少し離れた場所にある病室から有紀奈が出て来た。


「こっちよ」


武司は有紀奈の元に行き、彼女が出て来た病室の中を見る。


「無事みたいだな」


「…冴島以外はね」


有紀奈は複雑な気持ちでそう言った。


武司が2階で拾った達也のハンドガンを取り出して訊く。


「あいつは…、何故死んだんだ…?」


「囮になってくれたの。多分、冴島が居なかったら全滅してた…」


「そうか…」


俯く2人。


そんな中、茜は空気を読んで少し離れた所に居た。


「(私、とことん関係無いわね…)」


茜は聞こえないように溜め息を吐く。


しかし、有紀奈がそれに気付いて茜を見た。


「そう言えば…、あなたは?」


「神崎茜よ。よろしくね」


茜がそう言って手を差し出すと、有紀奈は笑ってその手を取った。


「よろしく。私は…」


「速水さん、よね?あの人から聞いてるわ」


茜は武司を見た後、いたずらっぽく笑ってこう言った。


「"押してダメならぶっ壊せ"って言葉、私は好きよ?」


それを聞いた有紀奈が、ゆっくりと武司の方を見る。


「………」


「な、何だ?俺は何も言ってないぞ」


「言ったのね?」


「い、いや」


「言ったんでしょ?」


「言ってない!」


「は?」


「…すまん」


茜は必死に笑いを堪えていた。


「(この子、面白いわね…)」


その後、武司の意見により、眠気を我慢していた有紀奈と茜は病室の中で休む事になった。


「それじゃ、一緒に寝ましょ?」


「…同じベッドに寝るの?」


「瑞希ちゃんも一緒よ?」


「…はぁ」



一方、廊下で見張っている武司は、地下で手に入れた書類に目を通していた。


「(犯人は病院の院長で間違いないんだが、真犯人がわからんな…)」


書類をしまった瞬間、階段の方から何かの気配を感じた。


「…誰だ?」


階段の方を見て呟く。


しかし、静寂が続くだけで反応はなかった。


立ち上がる武司。


「(朝までに戻ればいいか…)」


病室の中を一目見た後、階段の方へと歩き出した。


角を曲がって、ショットガンを構える。


しかし、そこには誰も居なかった。


「(確かに気配を感じたんだがな…。下に行ったか?)」


その時、階段の下から誰かの話し声が聞こえた。


「………」


武司は足音を殺して、ゆっくりと階段を降りていく。


すると、会話の内容がうっすらと聞こえてきた。


「D細菌は?」


その声を聞いた武司が顔をしかめる。


「(女…?)」


すると、もう1人がその女の質問に答えた。


「全て回収できました」


もう1人の人物は、声からして男だった。


「そう。…さっき言ってた奴らは?」


「5階の病室です。今、"ジョーカー"が監視しています。それで、1つ気になることが…」


「言ってみなさい」


「そいつらの中に、"クイーン"が見えました…」


「…へぇ」


微動だにせず、2人の会話に耳を傾ける武司。


「(ジョーカー、クイーン、コードネームか…?)」


すると、女の方が階段に足を掛けて男に言った。


「私はジョーカーの様子を見てくる。"ジャック"、あなたは脱出の準備を続けなさい」


「了解」


女が階段を登ってくるのを見て、武司は急いで5階へと登っていった。


「(まずい、見つかる…!)」


素早く近くにあった病室へ逃げ込む。


そして静かに扉を閉め、耳を澄ました。


「(気付かれてない…か?)」


足音が通り過ぎていくのを確認し、ゆっくりと扉を開ける。


目の前に、不気味な笑みを浮かべている女が居た。


「ッ!?」


「こんばんは。何をしているのかしら?」


体が固まって、思うように動けない武司。


女は表情を全く変えずに、続けて話し掛けてくる。


「大丈夫、いきなり殺しはしないわ。でも、私達の邪魔をするなら…」


そう言って、銀色に光るハンドガンを取り出す。


そして、銃口を武司の眉間に突き付けて言った。


「殺すわ」


武司は女が持っている銃を見て、地下の実験室で見つけた3つの薬莢を思い出す。


「デザートイーグル…、50口径か?」


「よく知ってるわね」


「病院の院長を撃ち殺したのは、あんたなのか…?」


「あなたが知る必要は無い」


「ごもっとも…」


その時、何者かが女の持っている銃を突然、横から蹴り飛ばした。


女は地面に落ちた銃を見た後、それを蹴り飛ばした人物を見て呟く。


「クイーン、久しぶりね」


「その名前で呼ばないで」


不機嫌そうにそう言ったのは、病室で眠っているはずの茜だった。


「ジョーカーなら向こうで気絶してるわよ。監視されるのは趣味じゃないの」


「うふふ。変わってないわね。私が知ってるあんたのままだわ」


「黙りなさい」


隙を見て、武司が女にショットガンを構える。


そして、横目で茜を見て言った。


「…説明してくれると、ありがたい」


茜は、女を見たまま答えた。


「…D細菌を作ったのはこの女。私は昔、こいつの部下だったの」


「…何だと?」


その時、階段の方から男の声がした。


「動くな!」


ハンドガンを構えながら現れた男は、さっきの会話でジャックと呼ばれていた男だった。


その男が、茜を見て動揺する。


「クイーン!どうして裏切ったんですか…!?」


「居心地が悪かったのよ。戻るつもりは無いわ」


茜がそう言うと、その場に沈黙が訪れた。


「ちょっといいかしら?提案があるのよ」


武司にショットガンを向けられている女が、沈黙を破って訊く。


そして、周りの返答を待たずに喋り始めた。


「お互い、無意味な戦闘は避けたいと思わない?今戦えば、両方に被害が出ると思うわ。だから…」


「銃を下ろせ…って事か?」


女は頷いた後、武司に銃を構えるジャックを見て言った。


「ジャック。銃を下ろして」


「ですが…!」


「言う通りにしなさい」


女の命令に、ジャックはゆっくりと銃を下ろした。


武司もそれを見て、銃を下ろして女から離れる。


「うふふ。ご協力、感謝するわ。階段のバリケードの件は謝るけど、今後一切邪魔はしないから、安心してね」


「あんた達の仕業だったのか…?」


「あなた達もD細菌が狙いなんだと勘違いしてたのよ。違ったみたいね、ごめんなさい」


女が笑いながらそう言うが、茜は厳しい態度のまま言った。


「D細菌を売って金を貰った後、売った相手を殺してD細菌を取り戻す…、あんたが考えそうな事ね」


「その通りよ。1度に大量の"資金"を集める事ができるってワケ。何度もね」


「資金?」


武司が訊き返すと、女の代わりに茜が答えた。


「新しい生物兵器の製作資金よ」


「新しい生物兵器…か」


女を睨む武司。


「うふふ。興味がありそうね」


「ふざけるな。あんたが作った物のせいで、こっちは仲間が死んでんだ」


「あら残念…」


すると、ジャックが腕時計を見た後、女に小声で告げた。


「"キング"、そろそろ時間です…」


「そう。それじゃあ、私達はお先に失礼するわ。縁があったらまた会いましょう…。うふふ…」


そう言って茜に蹴り飛ばされた銃を拾い、屋上への階段に向かうキングとジャック。


茜と武司は、追い掛けたいという衝動を必死に抑えた。



和宮病院屋上…


「キング。本当に生かしておいて良いんですか?」


気絶しているジョーカーを担ぎながら、ジャックがキングに訊く。


「私達の目的はD細菌、あいつらを始末する事じゃないわ。あっちが攻撃してこないなら、こっちも攻撃する必要は無いのよ。敵は少ない方が良いでしょう?」


「そりゃあそうですけど…」


「それに、クイーンの戦闘能力はあなたも知ってるでしょう?加えて一緒にいた男も手練れよ。戦うとしたら、それなりの準備が必要だわ」


「…わかりました」


しばらくすると、2人の頭上へ大きな音と共にヘリが飛んできた。


そのヘリを見つめながら、キングがジャックに訊く。


「…1つ訊くわ」


「何でしょう」


「あなたは何の罪もない中学生を、自分の手で殺せる?」


「………」


「ま、そういう理由もあるワケ。…行くわよ」


キング、ジャック、ジョーカーの3人はヘリに乗り込み、和宮町から脱出した。



和宮病院5階廊下…


「…何から話せばいいかしら?」


「…あいつらについて教えてくれ」


茜と武司は、他の5人が眠っている病室の前で、壁にもたれながら話していた。


「武器商人…っていう言葉が一番近いわね。武器関連の"裏"の依頼をこなす組織よ」


「武器商人…、密輸か?」


「密輸もするけど、主に自分達で武器を作ってるのよ。銃器や爆弾、それにD細菌のような生物兵器までね」


「なるほど…」


「…他には?」


茜が不安そうに訊くと、武司は笑いながら答えた。


「それだけでいいさ。お前さんの事を訊く気はないよ」


「…どうして?」


「味方だからな」


武司の言葉を聞いた茜は、嬉しそうに笑った。


「さぁ、お前さんも寝とけ。明日は街から脱出するぞ」


「えぇ。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」


茜はそう言って、病室に入っていった。


武司が腕時計を見る。


「(3時か…。出発は6時だから、後3時間だな…)」


ふと窓の外を見てみると、いつの間にか雨が降っていた。


「(雨…か。朝までには止んでくれればいいんだが…)」


武司は煙草を取り出して火を点け、胸いっぱいに煙を吸い込んで吐き出した。


3時間後…


病室の中にあった目覚まし時計が、設定した時刻に鳴り響く。


一番先に起きたのは有紀奈だった。


「ん…」


ベッドから起き上がり、身体を伸ばして欠伸をする。


すると、晴香も目覚まし時計の音を聞いて目覚めた。


「おはよう。晴香ちゃん」


「あ…、おはようございます…」


目をこすりながら体を起こす晴香。


「美咲、風香、時間だよ」


晴香の言葉で起きたのは、美咲だけだった。


「ッ!今何時!?」


「6時。学校は無いよ。残念だけど…」


「…あ、そっか」


すると、茜と瑞希も目覚めた。


「あの…神崎さん。胸が…」


「あら、ごめんね。抱き心地が良くてつい…」


風香以外の全員がベッドから起きる。


「風香ちゃーん?」


有紀奈の呼び掛けにも動じない風香。


すると、茜がいやらしい笑みを浮かべて風香を見た。


「今なら何をしても起きないのね。何をしても…」


危機を察知した風香が飛び起きる。


「おはよう」


「風香が飛び起きた!?」


「あら、起きちゃったの…」


「茜さん。毎朝、風香を起こしに来てくれませんか…?」


「え?」


6人が病室を出ると、壁にもたれて座り込み、退屈そうに煙草の煙を吐いている武司が居た。


「おう、起きたか」


有紀奈が大量に積み重なった吸い殻を見て苦笑いする。


「…何本目よ」


「12本目だ」


武司は煙草をもみ消して立ち上がった。


「さぁ、行くぞ。脱出ポイントの"ゼータ"は、ここから少し距離が…」


「シャワー浴びたい」


武司の言葉を遮る風香。


すると、それに続くように茜が呟いた。


「確かに、シャワーぐらいは浴びたいわね」


「いや、お前らな…」


武司が反対しようとするが、有紀奈が割り込んできた。


「その意見には賛成するわ」


「私も浴びたいです」


「同意!」


「私も…」


有紀奈に続き、晴香と美咲と瑞希も賛成してきた。


「…出発は7時にしよう」


女性陣は武司の言葉を聞いて、シャワーが備え付けてある病室にそれぞれ向かった。


「やれやれ…」


武司は溜め息を吐いて、煙草をもう1本取り出した。


第12話 終




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