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出逢い

少女は夢を見ているようだった。

暖かい春の日差しの草原に、亡き母が少女を待っているような気がした。

「お母さん会いたかった、もうずっと私のそばにいて!!」

そんな少女に母は何も言葉を発せず、ただ少女を見つめるだけであった。

「どうして、何も言ってくれないの?」

そう言った途端、母の姿は遠くなり少女は母を追いかけて行く。

「待って、行かないで!」

そう言った途端、少女の身体は動かなくなり、そのまま草原に倒れ込んでしまった。

「お母さん、お母さぁ…」


火を焚く音で、少女は目が覚めた。

布団から起き上がろうとした時、少女は人肌を感じた。

少女のそばには、見知らぬ男が雪山で倒れた少女を包み温めていたのであった。

少女は驚き起き上がり、男に背を向けた。

部屋の中には、暖炉と片隅にアトリエがあった。

男は静かにその場を離れ、お湯が入った夜間に手をやり、黙々と温かい飲み物を淹れはじめた。

「どうだ、気分は?」

「・・・」

黙り込む少女を、男は脈と瞼を診て、

「もう大丈夫だな!」

飲み物を渡された時、一匹の大きな犬が少女のそばに近寄ってきた。

「コイツがいなかったら、君は今頃雪に埋もれてたぞ」

犬の愛くるしい表情を見た少女は、男が淹れた飲み物を少しずつ飲み始めた。

「・・・」

少し安心したようだが、少女は黙ったままだった。

「ウチはどこだ?落ち着いたら送って行こう」

男は少女にそう言って筆を取り、キャンバスに絵を描き始めた。

「・・・ありません」

男は筆を休め、視線を少女のところに向けた。

「家はありません」

少女の言葉に男は一瞬驚き、少女に問いただした。

「ウチが無いって、どういうことだ?」

「・・・出て来たんです・・働き口から・・・」

「そんなに仕事が辛いなら、うちに戻ればいいじゃないか」

「辛くても私には帰る家がありません。両親も亡くなって、住む家もなくなったから、

もう帰れないんです」

「!?」

男には少女の事情を知る由もなかったが、少女の切実な様子に男は何も言えなくなってしまった。

「・・・あの、当分の間だけでも私をここに居させてくれませんか?

お手伝いがあれば、私一生懸命やります。お願いします」

「・・わかった、当分の間だけだぞ」

それを聞いた少女はホッとし、再び温かい飲み物を飲み始めた。

男も休めていた筆を、再びキャンバスに走らせたのであった。






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