雪山の中で
翌朝、少女は寒さで目が覚めた。外を眺めると、そこは一面雪が積もる山道だった。
少女は花街を抜け出せてほっとしたと同時に、急に不安になった。見世を抜け出せたが、
これからどこに行けばいいものか・・・
走り続ける車中で、少女は考え続けたのであった。
そんなことを考えているうちに、車は途中で止まった。
運転手に見つかるかとハラハラしている少女を横目に、運転手は車のドアを閉め、
積荷を降ろすことなくその場を立ち去った。
その隙を見て、少女はしばし時間を置いて車から降りた。
着の身着のまま花街を飛び出したため、寒さをしのげるのは羽織だけだった。
それでも少女は、雪深い山の中を身体をすくめながら歩き始めた。
来ている物だけではなく、履いている物も雪山には満足には歩けない。
それでも少女は人里を探すべく、歩いて行った。
誰もいないことはわかっていたが、少女は誰かが後ろから追って来るような気がして必死に歩いた。
どうか、どうか誰も追いかけて来ませんように…
辺りを見渡すと、山には鳥や獣のような足跡が無数にあった。
それらを見た少女は、追われている錯覚よりも山の中の怖さに気が付いた。
日が暮れる前に人里を探さなければ、早くしないと。
焦れば焦るほど少女の心の中は不安になり、必死に雪山を歩いて行った。
それから時間は過ぎ、上空から雪が降って来た。
最初はチラチラと舞う程の雪は段々強く降り、辺りは見えないくらいになってきた。
少女の足は、雪山を歩くには限界に近づいて来ていた。
このままでは私は死んでしまう、少女は疲れきった身体を必死に動かしているつもりだった。
しかし少女の身体は氷のように冷え、意識も朦朧とし今にも倒れそうだった。
そして次の瞬間、木々に積もった雪が少女の頭上に落下し、少女はそのまま気を失ってしまった。
しばらくして、倒れている少女の傍らに1匹の動物が近寄って来た。
その動物は少女を見てから、遠くの方向を向いて大きな声で吠え出した。
無情にも、その後も雪は降り続けるのであった。