プロローグ
真冬のある日、雪深い山中を少女は彷徨っている。
まるで、何かに追われているかのように粗末な衣服をまとい、
靴は雪山には耐えられない物を履き、冷え切る足を必死に動かし歩いて行く。
もう、どれくらいこの山中を歩いているのだろう、少女の意識は朦朧としていた。
少女は数え年で19、北方のとある商家に生まれたが、少女が10の年に母が病に倒れ
看病の甲斐もなく他界、数ヶ月前に父が事業に失敗し家は没落したのであった。
父の全財産や土地を売ったところで借金は返すことはできず、年暮れに数人のヤクザ者が
有無も言わさず少女は都に連れて行かれたのであった。
翌日、少女は見たことのない華やかな街に到着した。大きな門を潜ると、左右・四方八方には
格子の掛かった建物、西洋風の建物、街にはその建物の中を覗き込む男たちの姿、
そして建物の中には化粧をし、綺麗な着物をまとった女たちがいた。
その光景を見ながら少女は、ある一軒の家屋に連れられた。そこに入り、神棚のある部屋に
通されてしばらくして、この屋の主人と女房が入って来た。
主人は少女をじーっと見つめ、口を開いた。
「今日からお前はこの屋で働いてもらう」
その言葉を聞いた少女は、初めて自分の置かれた状況が分かり愕然とした。
私はもう行くところがないのか・・・
花街に連れて来られて数週間の後、少女は夜見世に出されることになった。
とうとう来る時が来たという思いはあったが、むしろこの状況から抜け出したい
という気持ちの方が強かった。足抜けしたところで、捕まれば酷い仕置きが受けることは
分かってる、たとえ逃げ切れたとしても行く当てはどこにもない。
その夜、綺麗な着物を着せられ、化粧も施された少女は見世に出た。
見世に出るのは初めてということで、客は馴染みの客を付けられた。
客は長年この見世に通う中年の富豪だ。一人部屋にいる少女は恐ろしさのあまり、
身体中が震えた。そこに客が部屋に通され、少女と二人きりになった。
震える少女を見た客は、
「怖いのか?」と訊ねた。
少女は震えたまま、少し頷いた。
「心配ない、すぐに慣れる」
と客は言い、少女の着物を解こうとした次の瞬間、大きな爆音が響き渡った。
まもなくして、赤い炎が見世に近づいて来た。ここからすぐ近くの見世で出火した炎が
冬の乾燥のために、少女のそばにも近づこうとしていた。
少女は客を振り払ってその場を逃げた。外に出たところ瞬く間に炎は街中を燃やし、
慌てふためき逃げる女たちや客で抜け道を見つけられる状態ではなかった。
大勢の人間の波を駆け抜け、やっとの思いで街の門を抜け出した少女は一台の貨物車を
見つけ、しばし車の後ろに乗り身を休ませることにした。
身を隠し安堵した少女はいつの間にか眠ってしまい、少女の知らぬ間にその車は走って行った。