第十一話 〜虹の効力 美琴編 前編〜
「ねぇ!ソフトテニス部に入らない?楽しいよ!」
ボクは何回このセリフを言ったんだろ?少なくてもクラスの男子全員(24人)分は言ったなぁ………。ううん、一人休みだから23回かぁ。意外と集まらないなぁ…………。
今は昼休み。美琴は机に肘着いて午前中のことを考えていた。
美琴は学校に来たと同時に勧誘始めた。といっても遅刻スレスレだったので一時間目が終わった後だったのだが、先輩の命令通り部員集めを始めた。
美琴はもうクラスの中でもイイ感じのポジションについているので話し掛けるのは簡単だった。だが、本題のことを話すと
「もう入ってるから。」
や
「もう決めてる。」
や
「廃部寸前の部活はねぇ〜。」
などと言われてことごとく失敗した。
なので美琴は今、しょぼくれている。
お姉ちゃんのウソつき。全然出会いなんて無いじゃない!も〜、またからかって言ったのかなぁ?でも顔は真面目だったから…………はぁ、当たり外れはあるだろうからしょうがないよね。
むぅ〜、でも少なくても一人は集めたいよ。休みの子が入部するっていうマンガみたいなことはならないだろうし。
よし!こうなったら他クラスからも勧誘しちゃおう!もうこれっきゃない。『善は急げ』だ。行こ!
そういって教室を出ていった。
渚が言った様に、美琴はかなり社交的で人付き合いが良いので、初対面の人でもすぐに仲良く出来る。仲良く出来るのだが本題は成功しなかった。
ダメだ………………、ボクは燃えカスが一つも残らない様に燃やされて出来た真っ白な灰みたいだよ〜。
真っ白な灰は教室を目指す。灰の周りには悪魔も驚く様な絶望が渦巻いている。その絶望は、美琴のハイテンション貯金をかっさらっている。
そして灰が教室のドアに手を掛けた時、美琴のハイテンション貯金の残金が銀行の利子ぐらいになった時、誰からかよびとめられた。
「お〜い、美琴〜。」
えっと………この人はウチのクラスの………
「祐二君だよね!なぁに?」
そうそう!祐二君!
本名は日下部祐二で、高校生になって一番最初に出来た友達だ!背は刹那君より大きい180センチぐらいかな?運動神経はトップクラス! 頭もトップクラス! スタイル&顔もトップクラス!まさに天から全ての才能を貰った様な人!うらやましい〜。
(もちろんこの人も誘ったんだけど『廃部寸前』という理由で断わられた。)
「簡潔に言うけど、今日ウチに来ないか?」
「う〜ん、行きたいけど部活があるから……」
「ゴメン」
と言おうとしたら
「あぁ、ちなみに今日、部活禁止だから大丈夫だ。それにたくさん遊べるぜ!」
え?部活禁止?なんでだろ。別に自然災害なんて起きてないのに……。
祐二君に聞いてみると
「たぶん、この間のテスト関連で先生達が忙しいんじゃねーの?良く知らないけど。」
だそうだ。テストなんてクソくらえだ!いろんな意味で………。
「なぁ、あそばねぇか?」
うぅん、部員集めという重大な使命があるんだけど、やるだけのことはやったよね!クラスの中だけじゃなく、他クラスからも誘ったんだから!
うん!あそんじゃお!それに大切な友達なんだから!
「うん!イイよ!遊ぼ!」
「よっしゃ!じゃ次の休み時間に打ち合わせしようぜ。」
「なんで今からじゃないの?」
「教室に入ってみろよ。じゃオレも先に行くから遅れるなよ!」
そう言うと祐二君は走っていった。
え?なんで教室なんだろ…………。そういえば、馬鹿にボクのクラスは静かだなぁ。
美琴は不思議に思いながら教室を開け、そして入った。
その三十秒後、ドアが勢いよく開き、美琴が慌てて出ていった。
開きっぱなしのドアから教室の黒板が見えた。黒板には『次の理科は理科室!遅刻者はオシリぺんぺん(`ヘ´)』と書いてあった。
美琴は理科室に向かって廊下を全力疾走していた。
そして、最後の曲がり角を曲がろうとすると急に人が出てきた。
美琴は、急なことことだったので避けきれず、また相手もそうだったらしく、まともにぶつかってしまった。
「わっ!!」
「きゃ!!」
ガシャーン!
あいたたたた、ついてないなぁ。よりによっていそいでる時にぶつかって、その上、筆箱の中身も飛び散るなんて。ホントに今日は特別な日になるのかなぁ。
と、思いながら目を開けてみると、足元には散らかった文具と教科書、目の前には座り込んでぼーっと美琴の方を見ている少女がいた。
そしてしばらく見つめあっていると、美琴は予鈴の音で我に帰った。相手もそうだったらしくはっとした。
「ごめん!!急いでたから!大丈夫?怪我はない?ボクはその……えっと……。」
「ううん、平気。あなたこそ大丈夫?」
「うん、平気平気!」
「私こそ急いでたからゴメン。」
「じゃおあいこだね!」
すると相手は笑いだした。つられて美琴も笑いだした。
廊下に二人だけの笑い声が響く。
そしてまたしばらく時間がたったあと美琴は我に帰った。
やばい!遅刻しちゃう!ロスっちゃった!急がなきゃ!!
美琴は急いで文具と教科書を拾い、立ち上がって最後に
「すいませんでした」
と言って理科室に向かってまた全力疾走した。
少女はまたぼーっと美琴を見つめていた。
すると少女の後ろからその少女にそっくりの少女が現れた。
「なにしてんの?ついに瞳も瞑想する歳になったの?」
「哀歌と違って悩みを持つ人間だから当然でしょ?」
「ふん!どうでもいいから早く教室に戻らないとヤバイって!」
「そうね。」
少女達は走り始めた。
これが美琴と瞳の初めての出会いだった。