救いの手3
クロフは赤金色の瞳には、荒野を焼き尽くすほどの激しい炎が渦巻いている。
「それは」
フィエルナ姫はうつむいたまま、クロフの目から視線をそらす。
「何をしている」
鋭い一言が部屋に響き、辺りは再び静まり返る。
クロフがそちらに視線を向けると、部屋の扉の前にロキウスが杖を手に立っている。
戸口に立つロキウスは、クロフとフィエルナ姫を順に見比べる。
二人のいる方に早足で駆け寄り、ひたすら縮こまっているフィエルナ姫を見て取ると、射るような目付きでクロフをにらみつける。
「文句なら、俺が聞こう。姫に八つ当たりするな」
フィエルナ姫は軽く会釈すると、戸口の方に小走りに駆けていった。
フィエルナ姫が扉の向こうに消えたのを確認して、ロキウスは切り出した。
「お前が魔女のことで言い分があるのはわかる。だからあらかじめ、姫に話さないよう頼んでおいたのだ。本当ならば魔女の処刑が済むまで、お前をこの部屋から出さない約束だったのだが」
ロキウスは冷ややかな目差しでクロフを見つめる。
「わかっているのか? 彼女は太陽の女神の神託にある人だぞ。彼女を処刑したら、どんな神罰が下るか」
ロキウスはクロフの怒りをものともせず、氷のように冷たく言い放つ。
「だが、あの女は多くの人々を殺し、苦しめ、広大な土地を腐らせた魔女ではないか。そんな女に、太陽の女神の恩寵があるものか。それに処刑しろと命令したのは、おれ達神殿側の人間ではない。それを決めたのは、ここに暮らす国民達だ」
クロフは愕然とした。
頭の片隅ではわかっていたことだったが、いざ実際に目の前で言われると、強い気持ちが揺らいだ。
クロフは唇をかみしめ、何も言わず部屋を走り出た。
クロフは廊下を走り、国王の部屋へと向かう。
ディリーアの処刑をやめさせたい一心で、兵士が止めるのも聞かず、部屋へ飛び込んだ。
部屋には南の王と数名の家臣、周りを固める兵士達、そしてクロフの世話をしてくれた女神官がいた。
彼らは話を中断し、息を切らせ部屋に飛び込んできたクロフを一斉に見つめた。
「騒々しい。部屋で静養していたはずのお前が、どうしてこんなところにいる?」
一番奥の椅子に座っていた南の王があごに手を当てる。
クロフは慌てて礼の姿勢を取る。