救いの手2
「へ? 何がです?」
「彼女が、明日には処刑されると」
牢番は何度も瞬きし、クロフの顔をまじまじと見つめる。
「もしかして、知らなかったんですか? いま城中、その話題で持ちきりですよ」
「詳しい話を聞かせてくれ」
牢番は腰に下げた牢の鍵束を揺らし、ためらいがちに話し出した。
部屋に戻って来たクロフは、寝台のそばの椅子に座っている人影に気が付いた。
鮮やかな赤い服をまとい、フィエルナ姫はクロフに笑いかけた。
「お加減は、もうよろしいのですか、クロフ様」
フィエルナ姫は柔らかな笑みを浮かべ、クロフを出迎えた。
「ええ、もう大丈夫です。ご心配お掛けしました。いつまでも寝台で横になっていては、体がなまってしまいます。たった今、外の風に当たってきたところです」
「そうですか。それは良かった」
フィエルナ姫は胸元に手を当てる。
クロフはしばしためらった後、真剣な顔つきになる。
「あの、姫。少々お聞きしてもよろしいでしょうか?」
クロフはフィエルナ姫をじっと見つめる。
あまりに真剣な目差しで見つめられたため、フィエルナ姫は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「わたしでお答えできることでしたら」
蚊の鳴くほどの小さな声で、フィエルナ姫は恥ずかしそうに答える。
「単刀直入に聞きます。彼女が、牢にいる魔女が、明日に処刑されるということを、姫はご存じですか?」
クロフは静かだが、怒りさえ感じられる声音で尋ねる。
「え、ええ」
フィエルナ姫は両手を胸の前で固く握りしめ、小さくうなずく。
「では、ぼくが太陽の女神の神託を受け、彼女を探していたということも、姫はご存じなのですね?」
フィエルナ姫はわずかに身じろぎする。
「はい、神官様達に聞いて、存じております」
両手を胸の前で組み替え、フィエルナ姫は小さくうつむいた。
「知っていたのなら、どうしてぼくに彼女の処刑について教えてくださらなかったのですか? あなたが太陽の女神の神託のことを知っていたのなら、尚更です」