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救いの手14



 クロフは背後から追っ手の気配を感じながら、ディリーアを背負い城壁の上を駆けていた。

 あらかじめ裏門の側に用意しておいた馬も、この騒ぎのために無駄になってしまった。

 クロフは走りながら、別の脱出方法を考えていた。

 怪我を負ったディリーアを連れて逃げれば、瞬く間に兵士達に見つかってしまうだろう。

 安全に国外に出るには、何としても馬が欲しいところだ。

 クロフは城壁の上を走りながら、明かりの灯る眼下の街並みを眺めていた。

「いたぞ! 城壁の上だ!」

 兵士達の叫ぶ声を聞き、クロフは天を振り仰いだ。

 空には雲がたなびき、その隙間から白い月が光を投げかけている。

 多くの足音が響き、城壁の向こうから松明を掲げ持った兵士の一団が近づいてくる。

 クロフはその場に立ち止まり、腰に下げた剣の鞘に手を回した。

 すると足元からクロフを呼ぶ声が聞こえてくる。

「クロフ様。早く、こちらへ」

 高い馬のいななきが、城壁の外からクロフの耳に届く。

 剣から手を放し、城壁を見下ろした。

 見ると草地を駆ける、馬の影がこちらに近づいてくる。

 クロフは荒野に響く馬のひずめの音に耳を澄まし、目の前に迫ってくる松明の炎を見つめる。

 夜空の月が雲に隠れ、一瞬の暗闇が訪れる。

 クロフは腕を横に一閃させ、兵士達の松明の炎をすべて消した。

 兵士達の一瞬の油断を誘うのには、それで十分だった。

 兵士達を襲った完全な暗闇に、彼らはざわめき混乱した。

 ある者は近くの兵士の足を踏み、ある者は隣の兵士にぶつかった。

 その隙を逃さず、クロフはディリーアを抱え、城壁を飛び降りた。

 馬の影は長い首をもたげ、空中に飛び上がった。

 クロフは馬と息を合わせたかのように、あやまらずその背に飛び乗り、馬の手綱をつかむ。

「きみは」

 クロフは馬の首につかまりながらつぶやく。

「詳しい話は後です」

 馬は一声高らかにいななくと、風のように走り出した。

 クロフはディリーアを抱き留め、手綱につかまる。

 耳の横を風が通りすぎ、ごうごうと獣に似たうなりをたてる。

 吹き抜ける風は冷たく、手綱を握る手が徐々にかじかんでくる。

 馬は北の方角を目指し、城壁とは反対の方角へ走り出す。

 瞬く間に城壁の石壁が背後に遠ざかっていった。




 報告を受けたロキウスは急ぎ馬小屋へ向かった。

 あらかじめ館に残っていた神官と兵士は、すでに馬で二人を追いかけている。

 ロキウスは杖の先に明かりを灯し、馬小屋へと向かう。

 馬小屋へたどり着くと、馬番の老人ともう一人、予想外の人物が立っていた。

「ロキウス様は、クロフ様を追うのですか?」

 フィエルナ姫は長い衣を揺らし、明かりを手にじっとロキウスを見つめている。

 フィエルナ姫の右手には、国内で一番早いと言われる灰色の馬の手綱が握られている。

「そうです。あいつはあろうことか、明日処刑する魔女と逃げたのです。直ちに神殿に連れ戻し、しかるべき処罰を与えなければなりません」

 馬番の老人が困ったように二人の間で立ち尽くしている。

 ロキウスはフィエルナ姫の前に立ち、目を細める。

「姫、わかってくださったのなら、どうかその手綱を渡してください。今すぐあいつを追わなければ、取り返しの付かないことになります」

 フィエルナ姫は手綱を握りしめ、一歩後ろに退く。

「どうか、わたしの話を聞いてください。あの二人を、クロフ様を、あなたは追ってはいけないのです。追えば、この国に災いが降りかかります」

 ロキウスは驚いて目を見開いた。

 立ち尽くしている馬番の老人が困り果てたように話す。

「わ、わしは何が何だかさっぱりです。姫様は馬小屋に来られてから、逃げた者を追うなと言って聞かないのです」

 ロキウスはため息をついた。

 フィエルナ姫はそれを見て顔を赤らめた。

「あなたは、わたしがわがままを言っているとお思いでしょうけれど」

 フィエルナ姫は顔を伏せ、手綱を握った両手を胸の前で組み合わせる。

「だって、太陽の女神様が夢に現れて、そうおっしゃるのですから、仕方が無いじゃないですか。わたしにはお告げに従う義務がありますから」

「それは、どういうことです?」

 フィエルナ姫の意外な一言に、ロキウスは目を丸くする。

「彼女が、クロフ様のお相手が、太陽の女神様に認められた運命の相手なら、わたしは諦めるしかないじゃないですか!」

 小屋中に響き渡る声で叫ぶなり、フィエルナ姫は肩を振るわせ泣き崩れた。

 ロキウスは困惑し、視線を馬番の老人に向ける。

 馬番の老人も同じように困った顔をして、フィエルナ姫を見下ろしていた。

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