救いの手1
三章救いの手
クロフが床から起きられるようになったのは、それから三日後のことだった。
女神官とフィエルナ姫に交代で看病され、クロフはみるみる気力を取り戻していった。
老薬師の目を盗み部屋から抜け出し、クロフが真っ先に向かったのはディリーアのいる地下牢だった。
牢に来たクロフを見て、ディリーアは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「何の用だ」
ディリーアはクロフが以前牢を訪れたときと同じように、冷たくあしらう。
「お礼を言っておきたくて」
クロフは苦笑いを浮かべ、ディリーアの鋭い瞳を受け流す。
「あなたが月の神の使者を追い払い、ぼくを助けてくれたのでしょう? ありがとうございます」
「別に」
ディリーアはつまらなさそうに吐き捨てる。
「ありがとうございます」
クロフはもう一度繰り返す。
クロフはかつて湖でしていたように、取り留めのない話をし、ディリーアがそれに相槌を打つ。
牢を去る間際、ディリーアの青い瞳に悲しみが宿っていたのを、その時のクロフは気付かなかった。
「正直、あの女の牢を見回るときは、いつも肝が冷やされます。自分もいつ呪いをかけられるかって」
地下牢の階段へ向かう途中、牢番は大きく息を吐き出した。
遠くで水の流れる音と、囚人の叫びが辺りに木霊する。
「大変ですね」
クロフは何気なく答える。
「そうなんですよ。でも、これも明日までの辛抱です。明日の昼になれば、あの女は広場で処刑されるのですから」
クロフは足を止める。
「いま、何と?」
松明に照らされ、牢番の影がちらちらと揺れる。
牢番はクロフが後ろに付いてこないことに気が付くと、ゆっくりと振り返った。




