プロローグ
彼と彼女の恋愛模様を差し置いて、こちらを投稿するという始末。
お付き合いしてくださる方、よろしくお願いします。
子供を作るという目的を無視している、その薄暗い快感に支配された行為が終わる。その途端、今までとろりと咲いた色を亡くし、人形のようにぎこちなく表情を消して、シャワーにふらふらと立ち上がる彼女を見るのが、彼は好きだ。無理をして、それでも自分の芯を通すためにしなる、柔らかな筋肉と肩甲骨の動きが、ひどくいやらしくて清廉で、とても美しいから。
彼はぼんやりと目線でその背中を追い、そしてふらついて倒れそうな体を支えようと後に続く。
「大丈夫だから」
そういって、彼の体を押す少し脂肪の多い腕が、たまらなくかわいい。彼はいつものように皮肉げに唇をゆがめて見せて、彼女の体を抱えた。
「知ってる。でも、一緒にお風呂もいいよね」
そのままことに至れるし、とつぶやけば、彼女は微かに眉を寄せ、それもそうですね、と掠れた声で答えた。泣くことなどするまい、そんな意志で捻じ曲げた表情筋の動きは、とても歪な何かを見せる。ひくつく瞼の動きは、まるで寒さに震える雛のようだ。それくらい、頼りなくて、幼い表情だった。やめてくれ、という全力の拒否。でも、それを拒めない彼女の心持が垣間見える、頑是ない欲望。
可哀想な表情だ。かわいらしい表情だ。だからこそ、こんなにぺろりと食べてしまいたいと思うのに。願うのに。そして、実行してしまう程度に、彼は外道であるのに。
(どうして君はおれなんかが好きなんだろうね?)
誰に問うでもない問いかけは、噴出した熱いシャワーの飛沫に消えた。