8 空駆ける馬車
うわ、綺麗……
吸い込まれそうに透き通ったアイスブルー。
やっぱり感情の読めないっていうか冷たい印象だけど、なんか見とれてしまう。
ってダメダメ。慌てて目を逸らす。
「あ、あの、ここはなんという国なのですか?」
目を逸らした先にいた、インテリ眼鏡様に尋ねると、
「ここは聖フロイライン国ですよ」
フロイライン……聞いたことないね。
でもこの言葉、どこかドイツ語っぽい気がする。文字は見たこともない形なんだけど。
「あの、不躾でしたらごめんなさい。あなた方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
私が恐る恐る尋ねると。
「そういえば名乗っていなかったな」
「そうでしたね」
二人は同時に居住まいを正した。
「私はハルトヴィヒ・フォン・リンデンバウムだ」
「私はゲラルドといいます。ハルトヴィヒ様の従者兼ヒュー様の家庭教師をしています。ちなみにハルトヴィヒ様はリンデンバウム公爵領を治めていらっしゃいます」
公爵って……ちょっと待って、それってかなり偉い人じゃない?
そしたら……
もしかしなくても、私が何かやらかして身バレなんかしたら、あの大神官や王子様にすぐ連絡がいくってこと……??
それに身分証や推薦状を捨てちゃったこともバレちゃう!?
――絶対ヤバい。
よし、なるべく早めにお暇させてもらう方向でいこう。
「あ、あの、公爵様にゲラルド先生ですね。
ご迷惑をおかけしますが、どうか今夜ひと晩泊めて頂けたら助かります。
ここは知らない街で、私にはこの国の常識も分かりません。明日には出ていきますから、どうかよろしくお願いします」
私は深々と頭を下げた。
「いやだよ、リリー。ひと晩とかそんな寂しいこと言わないで。
僕、できればずっとうちにいて欲しいって思ってるのに……」
ヒューが私の右腕にすがり付いて見上げてくる。そんな可愛らしいお願いに思わず頬を緩めていると。
「まぁ、君がどんな人間かはさておき、招いておきながらたったひと晩で追い出すというのも格好がつかん。
ずっとというわけにはいかないが、しばらく滞在してもらって構わない」
「ハルト!? 」
思わず、なのかな。
今ゲラルドさん、ヒューパパを呼び捨てにしたよね?
でも、私としても時間に余裕があるのは、正直助かる。
「あの、ゲラルド先生。
私はこの国の常識など分かりませんし、滞在してる間に少しだけこの国のことを教えて頂けませんか?
そしたら出来るだけ早く出ていきますから」
「……ふむ。そうですね、ではまずひとつだけ確認させてください。
貴女は本当にこの国の人間ではないのですね?」
「はい。先程も申し上げましたが、私は日本人です」
「なら、いいでしょう。ヒュー様を保護して頂いたことに関しては私も感謝しております。
そうですね、一週間です。一週間の間に、私から貴女に色々と教えて差し上げましょう」
さすがインテリ眼鏡様。
ゲラルドさんは、くいっと中指でメガネを押し上げると不敵に笑った。
「ただし、私がお教えするのはこの国の事ではありませんよ?」
ゲラルドさんがそう言うなり、馬車がガタッと大きく揺れた。
……うそ!?
続いて感じたのは、エレベーターに似たあの浮遊感。
思わず窓の外を見ると、飛行機の離陸よろしく、かなりの速さで馬車は空へと駆け出していた。
「えっ、 うわっ、ちょっと待って!! なんで?? なんで空を走ってるの??」
「ふふ、びっくりした?」
私の顔を見上げて、ヒューもはしゃいで聞いてくる。
「当然だよ! だって馬車だよ? 空なんて飛べるはずないじゃん、飛行機じゃあるまいし!」
うわぁ、すごいすごい!
なんで馬が……空飛んでるの?
「ほら、ヒュー見て! 街がもうあんなに小さく見えるよ!」
思わず身を乗り出していると、対面に座った男性二人が私を見て目を丸くしていた。
「ああっ、すみません、騒がしくしてしまって……」
恥ずかしくなって思わず俯いていると、ゴホンとわざとらしい咳払いをしてゲラルドさんが言った。
「私から貴女にお教えするのは、我らが魔法大国リッツェンについてです」
へ?
魔法大国リッツェン?
聖フロイライン国じゃなくて?




