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1ページ  作者: ぴーせる
7/13

文化祭のページ

 

 今日は文化祭。


 うちの学校は土曜日と日曜日の二回に分けて大々的に行われる文化祭が特徴で、今日はそのうちの一日目だった。


 一日目はゲームパークやお化け屋敷などのアトラクション系がメインで、あとは飲み物販売ぐらい。


 ちなみに明日は、今日とは打って変わって飲食店が台頭する日。


 もちろん朝食抜きは確定でしょ。


 お母さんにも、明日は朝ごはんいらないって言ってあるし。


 だってたこ焼きとかクレープとかは絶対に食べたいし、三年生のクラスの甘味処も欠かすわけがない。


 いっぱい食べたいもんね。


 そういえば二組の喫茶店って何を販売するんだろう?


 前にそれとなく聞いてみたら「楽しみにしててね!」なんてはぐらかされたし。


 まあいいや、明日のお楽しみってことで。




 でね、普段学級委員の仕事で忙しい俺やあいつも、文化祭の日だけは別。


 文化祭には文化祭用の文化祭委員ってのがいて、その人たちが俺たちの代わりに頑張ってくれるからね。


 いやあ、まさか人がせっせと働く姿を傍観するのがこんなにも楽しいとは思わなかった。


 文化祭委員が必死こいて「何か意見はありませんかー?」と声を大にしている中、それを横目に窓の外を仰ぎ見る快感。


 やめられないね、あれは。


 あ、もしかして普段のクラス会議で意見がまとまらないのもこのせいだったりするのかな?


 だとしたら早めに解決案を練らなくちゃ。




 で、そのアトラクション満載の文化祭一日目を一緒に巡ったのがあいつ。


 流れであいつと二人だけになっちゃった。


 だって一緒に行くって約束してたやつら、みんながみんな出し物で忙しすぎて出張れないんだって。


 あとで先生に聞いたら、今年は例年以上の来場数らしい。


 快晴だったのと、ここ最近うちの高校の評判が上がってきたらしく、下見代わりに来る中学生の親御さんがたくさん来たんだってさ。


 そんなわけで、仕事のない俺とあいつしか一緒に回れるメンバーがいなかったの。




 俺としてはかなり納得のいかない選抜なわけよ。


 だって、ゲームパークにしろ、お化け屋敷にしろ、男女二人で行こうものなら確実にカップル扱いだからね。


 俺のことを知ってる連中ならまだしも、俺とて学校のアイドルじゃあるまいし、学校全体に知名度があるわけじゃない。


 三年の先輩の方に行くなら知ってる人もいるけど、今の一年は性転換事件をまったく知らないやつらばっかりだからね。


 一年の出し物が多い廊下を二人で通ったときは、もう色物を見るような視線が降り注いだよ。


 痛いっていうのを超えて、あれは人を殺せるね。


 間違いない。




 でも結局は二人で巡ってきたの。


 初めは俺が突っぱねて「行きたくない!」ってことで押し通そうかと思ったんだけど、何もしないってものすっごく暇なんだね。


 どこのクラスも出し物をしてない場所に行ってくつろいでたんだけど、まさにくつろぐだけ。


 あいつときたら、前にも起きた無口病を発症してやんの。


 こっちがいろいろ話題振ってやってんのに、ずっと上の空の生返事。


 さらに文化祭はほぼ半日続くときたよ。


 こんな気まずいのやってらんないって思って、あいつの手を引っ張って、もうあとは自棄だったね。




 ゲームパーク巡りは当然にしろ、ストラックアウト、クイズ大会、何でもかんでも参加してやったよ。


 きっとうちの高校で一番文化祭を楽しんだ二人組だろうね、俺たちは。


 最初のうちは俺が腕を引っ張って連れて行ってたんだけど、途中からあいつも乗り気になったのか、今度はあいつがぐいぐい引っ張ってきやがんの。


 これがまたさ、あいつって相当不器用なんだよ。


 こっちは女になって筋力も何もなくなってるっていうのに、あいつは容赦なく腕を引っ張ってくるんだ。


 それがまた痛いのなんの。


 今見ても、まだ腕に赤いあとが付いてる。


 本当、嫌になるね。




 そんであいつ、俺を引っ張ってあろうことかお化け屋敷に行こうとしやがるんだよ。


 は? ふざけんなって感じ。


 人が必死こいて「嫌だ!」って言ってんのに、あいつときたら「大丈夫大丈夫!」って笑ってきやがるんだぜ?


 もう意味が分かんねえ。


 あいつ、絶対人が嫌がるのを見るのが快感な性質だよ。


 間違いないね、あいつはSだ。


 別に俺はお化け屋敷が嫌いとかそういうんじゃない。


 たださ、男女の二人組でお化け屋敷なんか入ったら、今度こそ間違いなくカップル扱いじゃん?


 それだけは絶対に避けたいわけよ。


 元男の俺が、男のあいつと噂されようものなら、それはもうホモとほぼ同義だしな。




 確かにあいつは格好良い部類に入るよ。


 顔も悪くないし、背丈も気持ち悪いぐらい高い。


 私服のセンスも悪くなくて、渋谷を歩かせても周りのイケメンどもに引けはとらないと思う。


 でも問題は性格なんだよ。


 何だよあの性格。


 俺をからかってそんなに楽しいかって話。


 いや実際に楽しいんだろうな、あいつはSだから。


 他のイケメン野郎ならまだしも、そんなS野郎と噂されるなんて身の毛もよだつね。


 そしたら俺はMだよ、M。


 あいつとお似合いのM女だって噂されちまう。


 ありえないっしょ。




 しかしまあ、あいつはサッカー部の男で、俺はただのひょろっこい女。


 それだけの体格差があれば、無理やりにでも連れて行かれちゃうわけよ。


 脇を抱えあげられて、ほとんどガキみたいな扱いを受けながら入り口をくぐらされたね。


 ……あれ、もしかして、あいつがその気になれば俺って簡単に押し倒されちゃうのかな?


 いやいや、それだけはマジ勘弁。


 今のうちに気が付いて良かったわ。


 もし心の準備もままならないうちに襲われでもしたら、きっと何の反撃も出来なかっただろうな。


 危ない危ない。


 いざと言うときのために金蹴りでも練習しておこう。


 暴走したあいつの下半身を止められるように。




 で、問題のお化け屋敷ね。


 これがまたさ、いかにもな文化祭の出し物なわけよ。


 高校生の分際でプロ顔並みのセットなんて作れるはずもないから、それをごまかすために照明は全部落としてあるの。


 窓からの光もちゃんと遮断してあって、本当に一寸先すら見えない真っ暗闇。


 そうすればセットなんか適当に机や椅子を配置しておけば順路が作れるし、それらの死角に隠れれば客からはまったく見えないから驚かせるにも都合が良いんだと思う。


 だって足元すらまともに見えないぐらい真っ暗にすれば、下手な小細工もいらないからお金も掛からないだろうしね。


 まあそんな暗闇の中。


 足元に何が落ちてるかも分からないような状況にもなれば、そりゃ及び腰にもなるって。


 しょうがないしょうがない。


 転ぶのが嫌なのは当然だし、それが自然の摂理ってもんなんだよ、うん。




 それなのに、俺の引けた腰に気付いたのか、あいつゲラゲラ笑ってきやがんの。


 マジであいつの神経を疑うね。


 こっちは転ばないように必死だっていうのに、それを見てあいつは笑うんだよ?


 あいつは今までモラルというものを学んでこなかったのかと、義務教育の道徳授業に意味があったのか疑問に思うね。


 っていうか、あいつどうして俺が腰を引いてたことに気が付いたんだろ?


 少なくとも俺にはあいつの顔すら見えないくらいだったから、様子で分かったのかな?


 もしくは夜目だったりするのかも。




 つうか、ここでもあいつ酷かったなぁ。


 全然目が利かない俺を置いて、ドンドン前に進もうとしやがんの。


 こっちが「待って!」って言って腕を掴んでんのに、返しはゲラゲラ笑いだけ。


 信じらんない。


 仮にも体が女の俺を、平気で置いていこうとするんだよ?


 マジで死んじゃえばいいのに。


 俺が必死にあいつの腕に掴まらなかったら、間違いなく俺を置いてとっととゴールしてたね。


 ああもう、またムカついてきた。


 あとで十通ぐらい空メール送ってやろう。




 でさ、それで調子乗ったのか、あいつ俺の些細な胸の感触すら楽しんできやがんの。


 わけ分かんない。


 目が利かないせいで抱きつくようにして腕に掴まってたっていうのに、そこで必然的にくっついた俺の胸を「意外とあるんだな」だよ?


 本気で殺意が湧いたね。


 たぶん目が利いてたなら、あの場で人を殺せる目をしてたと思うよ。


 元男ではあっても、今は女なわけよ、俺は。


 そんな俺に対して鼻の下を伸ばすのみならず、「意外と」宣言。


 意外とって何だよ、意外とって。


 確かに服を着たらぺっちゃんこにしか見えないけどさ!


 くそ、まだムカムカする。


 これ書き終わったら二十回ぐらいワン切りしてやる。




 それでもまあ、なんとかお化け屋敷が終わったわけよ。


 元々怖くなんかなかったけど、あいつに「意外とあるんだな」って言われてムカついたせいもあって、全然怖くなかった。


 あれだね、勢いってすごいね。


 むしろどこにお化け役の生徒がいたのかも分からないぐらいあいつに殺気を送り込んでたもん。


 あと三十分ぐらい殺気を送り込めたら、確実にあいつを呪えてたよ。


 まったく、惜しいことをした。


 どうせなら呪い殺すところまで睨んでおけば良かったよ。




 今日の最後に見たのは軽音楽部のミニライブ。


 これがまたさ、レベルがひっくいの。


 もう高校生のバンドってもんじゃない。


 あれはお遊戯会だよ、お遊戯会。


 ギターもドラムもベースもちゃんとしたのがそろってるし、ステージだってちゃんと整えられてる。


 でもお遊戯会なの。


 演奏の足並みはそろってないし、第一リズム感ってのを一ミクロンも感じなかった。


 ボーカルだって、カラオケで一緒に行ったらちょっとうまいかな? ぐらいのレベル。


 信じらんないね。


 あれでライブが成り立つんなら、俺がマイク持ってやるよって感じだったよ。




 でも、あいつとしてはそんなライブなんてどうでも良かったみたい。


 軽音部のミニライブ会場は校庭の隅っこだったんだけど、ちょうどそこにベンチがいくつかあったんだよ。


 そのベンチに座って、そうだな、ライブなんてただのダサイBGM程度の扱い。


 それぐらいにしか聞こえなくって、あいつはずっと俺のこと笑ってきやがんの。


 お化け屋敷でビビってんじゃねえよ、だの。


 本当にお前は怖がりだな、だの。


 まったく、憤りを行き尽くして呆れるね。




 いつ俺がビビったよ。


 何で俺が怖がりだよ。


 俺の記憶じゃ、あいつの前じゃ一度たりともビビった覚えなんてないし、俺は絶対に怖がりじゃない。


 人がいくら「暗くて足元が危なかったから」って説明しても、聞く耳を持たねえの、あいつ。


 俺が弁明するたびにゲラゲラ笑うし、挙句に殴ってやってもまだ笑ってんの。


 本当ムカつく。




 あ、さっきの訂正するわ。


 あいつ、SじゃなくてS兼Mだよ。


 攻めも受けもどっちでもきやがれ的な。


 だって、俺に殴られながらあんなにゲラゲラ笑っていられるなんて、正気の沙汰じゃないね。


 勝手に一人SMやってろってんだ。


 なのに人を巻き込んであれこれ連れ回されるし、俺に殴られながらけらけら笑ってるし。


 まったく、もう二度とお化け屋敷なんて行かねえ。

 

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