居残りのページ
今日の放課後はしんどかった。
だって、いきなり先生が俺の前にやってきて、「お前、修学旅行のレポート出してないだろ?」だよ?
俺からしたら、そもそも修学旅行のレポートって何さ、って話なわけ。
修学旅行の宿題ならもう済ませてあったの。
課題研究っていうやつで、京都の歴史とかそういうのを各自まとめて先生に提出するやつ。
それならとっくに終わらせて出しといたはずなのに、先生は「出してないだろ?」って言ってきたの。
レポートを出してない? 何で? って感じ。
自分で言うのもあれだけど、俺って結構真面目だからさ、そういう宿題を忘れるわけがないんだよね。
宿題だって、期限日ギリギリのことも多いけど、今まで片手に収まるほどの数しか忘れたことがないの。
でも、聞いてみたらそのレポート、学級委員専用の宿題らしいんだよ。
学級委員の仕事を通して修学旅行中に感じたことをレポートでまとめろっていうの。
は? 初耳なんですけど?
修学旅行前に幾度かあった集まりには全部参加したはずだし、話を聞きそびれたこともない。
だから、そんなの聞いたことないって弁解したんだけど、先生が言うにはちゃんと伝えたらしいんだよね。
あいつに。
ああ、なるほどって思ったよ。
原因ははっきりしたね。
あいつが俺にちゃんとそのことを伝えてなかった。
これだね。
これには本気でキレかけたよ。
だって、嫌々ながらもちゃんと学級委員の仕事もこなして、割と良い生徒として通ってるつもりだったんだよ?
それなのに、あいつの伝達ミスのせいで怒られなくちゃなんないなんて、理不尽にもほどがある。
でも先生からしたらそんなの関係ないらしくって、とにかく放課後に残って書けって言ってきたの。
まったく、不条理ってレベルじゃないよね。
加えて今日の日誌当番は俺。
まあさすがに日誌の方はあいつに無理やり押し付けたけど、レポートはそうもいかないのよ。
放課後に一人残って課題、っていうの、なんか寂しいじゃん?
だから強制的にあいつも残らせたんだけど、これがまたうざいったらありゃしない。
元はといえばあいつのせいなのに、「忘れたの?」とか、「バカじゃねえの?」とか。
本当うざい。
でも、ムカついたからといってレポートをぶん投げても課題は減らないわけで、あいつに構う分だけ作業が遅れるの。
本当に世の中の辛さが身に染みたね。
嫌になりそう。
一日目の行動を思い出して、それを書いて、まとめる。
二日目も同様にして……なんて俺は頑張ってやってたのに、暇なのか、あいつは俺に気持ち悪いぐらい絡んできやがるの。
何か字が丸っこくなったな、とか。
香水使ってんの? とか。
まあそれぐらいだったら俺としても許せるよ。
丸っこくて女の子女の子した字になってきてることは俺もうすうす感づいてたし、たまに気分で香水をちょっと使ってみることもあったさ。
でもさ、「ねえまだ?」とか、「俺待ってるんだけど」とか。
それはねえよ、マジで。
うざいって言葉から溢れんばかりの憤りを覚えたね。
人が一文書くたびにそう言ってくるもんだから、つい怒りに任せて追い出しちゃったよ。
もう勝手に帰れ! って。
そしたらあいつ、本当に帰りやがったの。
信じられる?
あいつがそもそもの元凶なのに、なんであいつは素直に帰るのかな、と。
それからはもう本当に寂しかったね。
俺がうさぎだったら間違いなく死んでたよ。
だって、放課後に、耳を澄ましても遠くから部活の掛け声ぐらいしか聞こえないような静けさの中で課題だよ?
普通シャーペンの書く音なんて、相当静かな試験中でもない限り聞こえないはずなのに、このときばっかりは嫌でも耳に響いたね。
で、俺だってあんまり遅くまで残りたくないから必死で課題を終わらせたわけ。
終わったのがちょうど六時になるかなってぐらい。
辺りもだいぶ暗くなって、廊下とかめちゃめちゃ暗かったの。
季節的にも秋半ばだし、俺のいた教室以外全部消灯してるわけだから、当然なんだけどさ。
で、そんな暗闇の中に書き上げたレポートを職員室にいる先生のところまで出しに行かなくちゃいけないわけ。
別にビビりではないんだけど、そういうのってなんか嫌じゃん?
夜の学校といえば怪談だし、怖いってわけじゃないけど、そういうのって気味が悪いし。
そんな風に何か嫌だなぁって思ってたら、なんとそこにあいつが登場。
サッカー部のユニフォーム姿で、教室に顔を出してきたわけよ。
追い出したときには気付かなかったけど、あいつ部活行ってたみたい。
そういえば、今日は普通に部活がある日だったしね。
ユニフォームも泥にまみれて、だいぶ頑張ってた様子。
そしたらさ、あいつ開口一番にこう言ってきたわけよ。
まだ残ってたの? って。
思わず頭にきて、ふざけんな! って返したね。
そりゃあさ、何時間もかけて必死に書き上げたばかりなのに、いきなり「まだ残ってたの?」だよ?
聖人君子でもない限り、そんな努力も糞もないような台詞吐かれちゃ誰でもキレるって。
それにしてもあいつの空気の読めなさ加減にはほとほと呆れる。
時たま空気が読めないぐらいなら天然ちゃん扱いだろうけど、いっつもだもんな、あいつ。
特に俺に絡んでるときの空気の読めなさは異常。
本気で死んでほしいって思ったよ。
結局のところ、あいつを蹴飛ばしつつ職員室に行って先生にレポート出して、あいつを殴りつつ急いで帰宅してきた。
もうね、蹴ったり殴ったりで両手両足が痛いよ。
さっき湿布貼ってきたばっかり。
それでもジンジンしびれてるし。
もうやだ。
次こんなことがあったら、本当にハサミか何かで刺しちゃいそう。
っていうか、むしろ勝手に死んでくれてればいいのに。
そしたら明日から安泰なんだけどなぁ。
俺の心の平穏が。