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1ページ  作者: ぴーせる
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修学旅行のページ

 

 よく修学旅行は良いもんだって言うけど、あれは嘘だね。


 京都辺りの自治体が地元活性のために全国に法螺吹いて、学生をみんな修学旅行に来させるためにやってるんだ。


 間違いない。


 第一、お寺とか見て何が楽しいんだ?


 そりゃ清水寺とか高い場所にあるお寺なら景色も楽しめるけどさ、お寺自体には何の魅力も感じないわけよ。


 あれだよ。


 学生に紛れた建築物マニアを掘り起こすための原石探しってやつなんだよ、きっと。


 その手の団体から圧力を受けてるから、学校側は何の疑問もなく生徒たちを修学旅行という名の原石選別に赴かせるんだ。




 それに加え、集団でのお泊り。


 あれは酷い。


 とてもじゃないけどやってられない。


 何さ、やっぱり俺って女子扱い決定なのな。


 あいつと一緒の部屋に泊まれたら面白そうだな、とかひっそり思ってたのに、周りが全然空気読まねえの。


 確かに体はちゃんと女だから、男のあいつと一緒に泊まるのは無理があるかもなあって悟ってはいたけど。


 やれ、女の子同士、一緒の部屋になろうねー! だの。


 やれ、前に揉んであげた成果はどのくらい実ったの? だの。


 もううざったいったらありゃしない。




 部屋に着いた途端、女子たちに囲まれて身包み剥がされたときには貞操の危機さえ感じたね。


 たぶんうちのクラスの女子たちにはエロ親父の幽霊か何かが取り憑いてるに違いない。


 だって身包みを剥がすなり、合計何十本にも及ぶ指たちがやらしい動きでわきわきと俺を襲ってくるんだもん。


 間違いなく生前に性犯罪を犯して死んだエロ親父の幽霊が集団憑依してるね。


 それでも、やっぱり修学旅行には自由時間っていうやつがあるわけよ。


 一日目、二日目の中休み的な自由時間は女子たちに潰されてしまったけど、三日目は丸一日自由時間。


 基本は京都の町を巡らなくちゃいけないらしいけど、どうせ教師の目がないんだと割り切って、中には漫喫に行くとか言ってるやつもいた。


 さすがに引いたよ、それには。




 で、二日目の夜。


 なんとあいつが俺を勧誘するために部屋まで来たわけよ。


 ちょうどそのとき女子たちのわきわき攻撃を受けてる最中だったから、俺としても抜け出すチャンスなわけ。


 ひん剥かれかけた寝巻きを正しながら部屋を出て、俺たちは旅館のロビーで話すことにした。


 でさ、あいつ超緊張した面持ちで俺のこと見てきやがんの。


 あれだね。


 きっと周りにバンバン修学旅行カップルが出来て、独り身のあいつは焦ってたんだよ。


 見るからにそんな感じ。


 女子の中で一番仲の良い俺を三日目の自由時間に誘って、体面だけでも守ろうって魂胆だよ。


 見え見えだっつうの。




 でも俺としてもそれは都合が良いわけ。


 だってあいつの誘いを断って三日目に突入してみ?


 間違いなく女子たちに、いや女子のエロどもに拉致られる。


 絶対にラブホ連れ込まれる。


 そんなことが脳裏を過ぎったから、俺としても魔が差したんだな。


 あいつが、明日一緒に行動しない? って誘うなり、即行頷いちゃったもん。


 行こう! 絶対に二人だけで行こう! って。


 やっぱ嫌だよね、貞操奪われるのは。


 まだ男に興味あるって段階まで進んでるわけじゃないけど、やっぱり貞操を奪われるなら好きな相手が一番だよ。


 そんなやつ現れるか知らんけどな。




 というわけで、三日目はずっとあいつと二人きりで行動することになったわけ。


 それがまたさ、意外や意外、ずいぶんと退屈だったんだよね。


 いつもいっつも俺をからかってくるあいつが、その日に限ってめちゃくちゃ大人しいでやんの。


 気持ち悪かったねえ。


 ドッキリかと思ってキョロキョロ見渡したんだけど、誰かの影が見えるどころか修学旅行生が俺たちぐらいしかいない有様。


 しかもあいつ、今は女である俺と二人きりで歩くことに緊張してんのか、時たまこっちに手をぶつけてくるの。


 歩くときに手振りすぎだって。


 こっちの手にガンガンぶつかって、正直ちょっと痛かった。


 ぶつかりすぎて、あとで見たらちょっと赤くなってたもん。


 何をしたかったんだか。




 それで、あまりに会話がないもんだからこっちからいろいろ話題を振ってみたわけ。


 あの舞妓さん可愛いね、とか。


 京料理って味が薄いよね、とか。


 でもさ、やっぱりあいつ変に意識しすぎ。


 あ、うん、とか。


 そうだね、とか。


 そんな淡白な答えしか返してこねえの。


 で、結局そんな感じで三日目が終わっちゃって、なんだかなぁって感じ。


 どうせならもっと楽しい思いで作りたかったよ。


 二人で大笑いしながら食べ歩いたりとかさ、ど定番のお土産用の木刀をお揃いで買うとかさ。




 それからあとも全然絡んでない。


 俺は女子どもの方に強制送還させられるし、あいつもあいつで男子たちとくっちゃべってるし。


 唯一学級委員の仕事ではち合わせすることになったんだけど、それが新幹線に乗るときのまとめ役だったんだよね。


 そんな役をしながら話なんて出来るわけねえっての。


 新幹線って止まってる時間がめちゃめちゃ少ないから、みんなを素早く誘導させなきゃいけない先生たちと俺たちは大忙し。


 いつまでも売店でお菓子買ってる女子どもを引っぱたいて連れて行ったり、挙句にレディース気取って座り込みしてる女子を見つけたときにゃ飛び蹴りかましてやったね。


 正直この仕事が一番疲れた。




 で、結局家に帰るまで話も出来なくて、土日に入っちゃったから今もまだ話せないでいるわけ。


 電話かメールしよっかなとも思ったけど、それってなんか癪だし。


 あいつがまともに話しかけて来なかったんだから、話しかけて来るならあいつからしやがれって感じだよ。


 でも、このまま月曜日迎えたら嫌だなぁ。


 登校中に絶対あいつと会うんだもん。


 どうしよう。


 早くケータイ鳴らないかなあ……。

 

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