表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1ページ  作者: ぴーせる
2/13

学級委員のページ

 

 学級委員というのは非常に大変な仕事である。


 なんて、こんなことを今さらここに書き記す必要もないんだけど、それでも今日のことは大変だったんだよね。


 まさか学級委員たるこの俺が先生のパシリにさせられるとは。


 正直職権濫用にもほどがあるだろ! って思ったね。


 そもそも俺が学級委員に立候補したのも、あいつが無理やり誘ってきたから。


 意外と簡単な仕事。


 クラス会議の進行役だけやっておけばいい。


 そんなことをうたい文句に悠然と語ってくるもんだから、俺もついその気になって一緒に立候補してしちゃったんだ。


 へえ楽じゃん。


 それなら他の係をやるよりいいかな、って。


 でもさ、よくよく考えればそんなことあるわけないじゃん。


 授業が終わるたびに黒板を消すのも学級委員の仕事だし、学級日誌なんてのも毎日放課後に書かなくちゃいけないわけよ。


 行事のときなんて、これでもかとばかりにかり出されるし、一番大変な役なんだよね。


 それに、元々良い大学に進む気なんてない俺と比べて、あいつは進学する気満々。


 部活でも活躍しているけど、うちの高校はそんなにスポーツが盛んじゃないからさ、スポーツ推薦は望めないわけ。


 だからあいつはそれを諦めて、進学するために学級委員という大役を、俺を巻き添えにして肩書きに載せようと目論んでいたんだ。


 まったくけしからん。


 まあいきさつはどうあれ、俺も一応は学級委員に立候補した身。


 他の係のやつらもしっかり仕事している中、俺だけが逃避ってのはしちゃいけないな、って自重してたんだよ。


 なのにあいつときたら……。




 今日の招集は、提出用のノート集めと、それを職員室にまで運ぶ作業。


 憎たらしいことに理科、国語、数学と三教科も同時にノート提出があってさ、それを先生一人で運ぶのは無理だから、って理由で徴集されたんだよね。


 だけど、それなら先生も含めて三人いるんだから、一人一教科ずつ分担すれば良いわけじゃん?


 そうすれば一人四十冊ずつで済むし、個々の負担も減れば時間短縮も出来るわけ。


 なのに、なのにだよ?


 あいつは先生の呼び出しに来ないし、先生も先生で俺に言い付けるなり即行職員室に逃げ帰りやがったの。


 最低じゃない?


 俺が男のときだったらまだしも、今は完全に女で、それも結構チビなのよ。


 当然そんな体格で力があるわけでもなく、傍から見たら俺ほど非力に見える人間はそういないだろうってぐらい非力なの。


 なのに先生は俺に全部任せやがった。


 人としての人格を疑うね。


 適任者の三人のうち二人もいないんだから、その役目は当然の成り行きで全て俺に任せられることになったわけ。


 つまり約四十人分のノートを三教科分、合計百二十冊を一人で二階下の職員室にまで運ばなくてはいけなくなったんだよ。


 ふざけんなって感じ。


 ここで心優しきドラマの世界なら「手伝おっか?」って声を掛けてくれる優しいクラスメイトがいるんだろうけどさ、現実はそうもいかないわけよ。


 むしろこっちから「手伝って」って声を掛けたのに、ノートのあまりの量からかみんな見て見ぬ振り。


 もうみんな死んじゃえばいいのに。




 そんないきさつから百二十冊ものノートを一人で運ぶことになったんだけど、よくよく考えれば俺もバカだったんだよね。


 何で百二十冊のノートを一度に運ぼうと思ったんだろう。


 まったくもって蛮行としか思えない。


 何往復かすればいい話じゃん。


 いくら授業の間の中休みで時間が少ないからって、先生に任された責務なんだから、多少遅刻しても見逃してもらえるだろうに。


 でも、そのときには一人で運ばなくちゃいけない絶望感からそこまで頭が回らなかったんだろうね。


 俺は山盛りに積み重ねた百二十冊のノートを抱えて、腕の感覚がなくなりながらも必死に廊下を歩いたよ。


 ふらふらになって、よろめきながらもね。


 まあ百二十冊もノートを積み重ねて運んでいればさ、前が見えなくなるのは当たり前じゃん?


 その視界の悪さから、俺は誰かにぶつかって大量のノートを廊下に散らばしちゃったんだよね。


 バサバサって、盛大に。


 で、問題なのがそのぶつかった相手。


 体育会系でなおかつ爽やかな長身男。


 俺と同じ学級委員であるあいつだったのよ。


 信じられる?


 先生の招集から逃げ、俺に全負担をかけてきやがったあいつと廊下で邂逅だよ。


 しかも、ふらふらだった俺を介するでもなく普通にぶつかってきやがったの。


 ふざけんなボケ! って文句を言おうとしたんだけど、そこであいつはぶつかったことを悪びれるでもなくこう言ってきやがったんだ。


 何してんだ? って。


 これにはもうカチンときたね。


 見れば分かるだろ、ノート散らばしてるんだよ! ってぶっきらぼうに答えてやったら、人を小ばかにするような目で見てきやがんの。


 挙句に「ふっ」って鼻で笑ってきやがった。


 思わず胸ぐらを殴ってみたけど、毎日部活で鍛えてるあいつの胸板を貫通できるほど俺の拳は出来ちゃいない。


 ま、殴るだけ無駄ってやつだったんだよね。


 この際気が済むまで殴ってようかと思ったけど、ノートを運んでるのが中休みの時間で、そうも時間を掛けられなかったんだよ。


 だから急いで散らばったノートを集めてたんだけど、そこであいつはこう言った。


 それ職員室に持って行くの? だったら俺も手伝うけど? って。


 ふざけんなって思ったね。


 けど? って何だよ、けど? って。


 元はといえばあいつの仕事だったんだよ、これは。


 先生だって勝手に逃げ帰った割には常識人で、女になった俺にこんな力仕事を任せる気なんてなかったらしいんだよ。


 だからあいつに任せようと招集したって言ってたんだけど、そのときにいねえの、あいつ。


 ここで先生の諦めの良さが炸裂だね。


 学級委員を招集するってことは、元から百二十冊も自分で運ぶ気なんてなかったわけよ。


 だからもう、あいつが見つからないとなると「あとは任せた!」って言って逃げたの。


 まあ先生にもムカつくけど、先生の呼び出しに来なかったあいつもあいつだろ! って話。




 そのことをオバマも真っ青の名演説で語ってやったら、あいつは反省の色が一滴も見えない様子でこう抜かしやがった。


 じゃあ半分ずっこな、って。


 は? って思ったね。


 何が半分ずっこだよ。


 こういうときこそ毎日部活で鍛えてるお前の筋肉に物を言わせて、「俺に任せとけ!」って全部持っていくべきだろ。


 それを、まさかの「半分ずっこ」宣言。


 何のために鍛えてるんだよサッカーバカ! と言わざるを得ない状況だったね。


 そんなことをグチグチ文句言ってたら、あいつ八十冊ぐらい一人で運ぼうとしてんの。


 半分ずっこね、って自分から言った舌の根も乾かぬうちにだよ?


 あいつが八十冊運ぶんだから、残るは四十冊で、つまり俺の二倍ぐらいの量を運ぼうとしてんのよ。


 半分ずっこじゃないの? って聞いても、「これで半分ずっこだべ?」って言って聞かないの。


 疑問形で返してくる意味が分かんない。


 確かに楽だけどさ、そもそも半分ずっこって言ったのはあいつなわけよ。


 しかも俺の言ったように全部運ぶでもなし、どう見てもあいつの方が俺よりたくさんノート担いで、それで正しいとか抜かしやがるの。


 ついに数も数えられないほどのバカになったのか、と哀れんだんだけど、事もあろうに道中でさらに俺の運ぶ分のノートをかっさらうの。


 あ、わり。まだちょっとお前の方が多いよな。って言いながら。


 もう脳みそまで腐りやがったか、って感じ。


 だって、どう見ても俺の方には三十冊もないっていうのに、それでもあいつは俺からノートを奪っていくの。


 言葉と行動が繋がってなかったね。




 最終的には、俺に十冊もノートが残んなかった。


 俺が十冊ぐらいで、あいつが百冊超。


 そんなにも差がありながら、あいつは「半分ずっこだ」ってまだ抜かしやがるわけよ。


 呆れたね。


 ほとほと呆れたね。


 たぶんあいつはもうダメなんだ。


 きっと脳みその大半が溶けてきてるに違いない。


 明日にでも先生に言ってやろう。


 あいつ、小学生からやり直した方がいいよ、って。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ