手紙
こうやって手紙を書くのは初めてです。
すごく緊張しちゃってるから、字が震えちゃってても気にしないでね。
えっと、君の告白のことだよね。
ほら三日前、俺と一緒に帰ってるときにしてくれたあの告白。
俺と別れる直前に引き止めて言ってくるんだもん。
ずるいよ。
卑怯だよ。
あれから、俺がどれだけ悩んだのか分かってるの?
いや、分かってないね。
分かってないからあんなタイミングで告白してくるんだ。
最低だよ。
この手紙読み終わったら、ちゃんと謝りにきてね。
約束だから。
破ったらタダじゃおかないからな。
それにさ、なんでホワイトデーに告白するわけ?
普通はクッキーじゃん。
おいしいおいしいクッキーじゃん。
楽しみにしてたんだよ?
俺が最近そういうの好きなこと知ってるよね?
前に言ったもんね?
なのに、この仕打ちはあんまりだよ。
あれだけ人のチョコパイ食べておいて、仇で返すつもり?
今度でいいから、絶対にクッキーおごってよ。
駅前においしいって噂のお菓子屋できたのも、前に言ったよね?
そこ限定だから。
あの店のクッキーじゃなきゃ許さないから。
いいね?
それと、この際だからついでに書くけど、お前、人のこと今まで散々からかいすぎ。
なに? やっぱりSなの?
人をいじめてそんなに楽しいの?
六月の雨のやつ、あれは特に酷かった!
なんで女の子を濡らすわけ?
下着が透けちゃって、ものすっごく恥ずかしかったんだよ?
なのにお前は人を見てゲラゲラ笑うしさ……人としてのモラルを疑うよ。
最低。
結局、教科書の弁償もしてくれなかったじゃん。
あれからずっとぶよぶよの教科書使ってたんだよ?
信じられる?
開くたびに硬くなった紙がパリパリいってさ、変な染みができて文字が読みづらいしさ。
先生に教科書読め、って当てられたとき、毎回テンパらなくちゃいけなかったんだからね。
あと、エイトフォーだよ。
俺のエイトフォー。
結構前の、部活の練習試合の帰りのやつ。
覚えてるよね?
忘れた、なんて言わせないよ?
俺のを勝手に持って帰ってそのままじゃん。
あれもまだ弁償してもらってないんだからさ。
早く返してよ。
もしくは新しいの買ってよ。
八百円近くしたんだからね。
バイトでいったらほぼ一時間分だよ。
俺のために一時間働けって話。
あ、そうそう、お前の傘。
それも忘れてた。
大丈夫、捨ててないから。
ちゃんと家に置いてあるって。
また今度返す。
っていうかお前から取りにきやがれ。
あ、でも今度部屋に入るときにはちゃんとノックしろよ?
うちのお母さんに勝手に上げてもらうなよ?
下着見られたとき、超恥ずかしかったんだから!
分かってる?
下着だよ、下着。
パンツ!
あのときの謝罪もまだ終わってないし!
本当、いい加減にしてよね。
って、違うよね。
そういうことじゃないんだよね。
返事だよ、返事。
うん、分かってるの。
こんな文句を言うために手紙を書いてるわけじゃないもんね。
君への返事を書くために手紙書いてるんだもんね。
でもさ、こうやって改めてどうこう書くっていうのもさ……。
なんていうか、違うんだよね。
うん。
そういうのはさ、ほら、お前がやったみたいにさ、直接会って正面切ってした方がいいと思うんだよ。
手紙で書いて渡すだけ、なんてお門違いっていうかさ。
そうなんだよ!
うん、そうに違いない!
こういうのは、ちゃんと会って話をしなくちゃいけないの。
分かる?
だからさ、これを読んだらすぐにダッシュでうちまで来ること。
いい?
ダッシュだからね?
ダッシュ、猛ダッシュ。
遅かったら来年のチョコあげないから!
来なかったらサッカー部のマネージャー辞めてやるから!
まさかサッカー部のエースが足で後れを取るわけないよね。
だから、今から俺を追いかけて!
予定通りなら、この手紙は放課後に渡して、俺は走って帰ってるはずだから。
俺に追いついたらご褒美あげる。
なんだと思う?
予想が当たってたら、もう一つご褒美あげる。
パーフェクトなら二つもあげちゃうんだよ?
すごくない?
走りながら、頑張って考えてね。
ご褒美、俺も考えてあげるから。
じゃあ、待ってる。
ばいばい。