表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1ページ  作者: ぴーせる
11/13

バレンタインのページ

 

 今日は二月十四日。


 セントバレンタインデー。


 聞くところによると、チョコを売りたいがためのお菓子メーカーの陰謀らしいけど、まあそんなの関係ないよね。


 陰謀だ! って言ってるやつはただの僻みにしか聞こえないし。


 もし本当に陰謀だったら、それを考えた人は天才だよね。


 だってここまで広まっちゃうんだもん。


 今さら少数が反対したところで、もうどうにもならないよ。




 で、今日はそのバレンタインデー。


 英語でValentine’s Dayだっけ?


 まあいいや。


 まあ一昨年まではもらう側だった俺だけど、去年と今年はあげる側の人間。


 いや、去年は一年通してバタバタしてたせいであげてなかったんだけどさ。


 でも今年は違うの。


 俺としては、そろそろ女としての貫禄が付いてきた頃だと思うんだよね。


 何も特定の人物に本命チョコを渡すってわけじゃないの。


 ただ、女としてみんなに友チョコを渡すのって、なんか憧れるんだよ。


 すっごく女の子っぽいっていうか、そんな感じ。


 クラスのみんなとか、あいつとかに「はいどうぞー」ってにこやかに配ってみたかったわけよ。




 で、もちろん実行してみたわけ。


 昨日のうちにさ、お母さんに頼んでいっぱい材料を買ってきてもらって、教わりながら初チョコ作りって洒落込んだの。


 いやあ、俺って乙女だね。


 すっごく乙女だね。


 鍋で焦がさないようにチョコを一生懸命混ぜてさ、時たまおいしそうだから舐めちゃうの。


 それがまたおいしくっておいしくって。


 これは反省なんだけど、最終的に三分の一ぐらい自分で舐めちゃった。


 ま、おいしかったからいいんだけど。




 そういえば、女になってからずいぶんと甘味に対して寛容になってきたよ、舌が。


 前は甘ったるいのなんてダメだったのに、今となっては、好きとまではいかないけど、それでもおいしく食べられる。


 逆に辛いのと苦いのはダメになった。


 カレーも中辛が限界だし、ブラックコーヒーなんてもってのほか。


 今はカフェオレがマイブーム。


 砂糖とミルクがたっぷりのやつね。




 で、チョコだよチョコ。


 元々長男一人しか子供がいなかった我が家。


 お母さんも手作りチョコなんて滅多に作らないから、型抜きなんてないわけ。


 っていうか、チョコの型ってどうやって抜くんだろうね。


 チョコって溶かしたらどろどろじゃん。


 それを型に流し込むのかな?


 でもそれだと型に張り付いちゃったりしないのかな。


 結局のところ型を使ってないから分かんないや。




 で、ここはさすが女の先輩たるお母さん。


 型がないこと、型を買う気がないことを踏まえてちゃんと考えておいてくれたみたい。


 その名もチョコパイ。


 そう、型がないならチョコを何かに入れちゃおうって話だよ。


 さすが俺のお母さん。


 自分がパイ大好きだからって抜け目がないね。


 思わず完成品を十個もあげちゃった。




 で、その作り方や意外と簡単なの。


 もうね、小学生でも頑張れば出来ちゃうぐらい。


 なんか冷凍パイ生地っていうのが市販であるらしくって、本当にあとは切ってくっつけて焼くだけのやつ。


 超手軽品ってやつだね。


 いや、正直に言うと情けないとは思うんだけど、だって俺、女の子初心者だもん。


 生まれて初めてチョコを作るんだからしょうがないよね。




 ってなわけで、パイ生地に粉ふったりめん棒で伸ばしたり、いろいろやってチョコパイを作ったんだよ。


 にしても驚いたのが、パイって接着剤代わりに溶き卵使うんだね。


 そんなの知らずに今まで食べてたから、てっきりパイ生地ってくっつきやすいんだなぁぐらいにしか思ってなかったよ。


 出来栄えとしてはやっぱり初心者たるものを感じざるを得ないものだったけど、味はちゃんとおいしいの。


 だって元は全部市販だもんね。


 溶かして焼くだけなんだから、焦がしたりしない限り味が変わるわけないよ。


 で、全部で七十個ぐらい作って、三時間ぐらい掛かったかな。


 こんなにキッチンに立ち続けたのも生まれて初めて。


 やばいね、俺ってどんどん女の子っぽくなってきてるよ。


 乙女だね、乙女。


 花も恥らう素敵な乙女だよ。




 で、もちろんそんな乙女のチョコをもらわない野郎はいないわけで。


 めちゃめちゃ嬉しいのが、結構好評だったこと。


 俺が元男だったことと、チョコパイの見た目がそんなに良くなかったこともあって、食べる前はみんな嫌そうな顔してたんだよね。


 でもさ、試しに食べてみたらみんな表情がみるみる変わるの。


 うまいうまい! って言って五、六個食べようとしたやつには鉄拳制裁を食らわしてやったけど、いやあ褒められるのって嫌な気はしないね。


 もうすっごく嬉しい。


 やばいよ、これ書いてるだけでもテンションが上がってきた。




 しかも、あいつ。


 あいつは特にすごかったね。


 もうめちゃめちゃ食べるの。


 あいつとは登下校が一緒だからさ、一番にチョコパイあげたわけ。


 そしたらさ、予想以上にうまかったらしく、俺の制止を振り払ってまでガツガツ食べるのよ。


 もうね、内心ほくそ笑みまくり。


 思わず二十個もあげちゃった。


 いやあ、まさか学校に着く前に二十個全部平らげられちゃうとは思わなかったけどね。




 クラスのみんなにも二個ずつあげられたし、俺のチョコパイは無事に売り切れならぬもらわれ切れ。


 どうしよう、こんなにニヤニヤしてる顔、人に見せられないよ。


 やばいやばい。


 顔を押さえても口角上がりっぱなし。


 部屋にこもってて良かったよ。


 こんなニヤニヤした顔、あいつにもお母さんにも見せられない。


 よし決めた。


 今決めた。


 また来年もチョコを作ろう。


 今度はもっと難しいやつ。


 それで、もっともっとおいしいやつ。


 また「おいしい」って言われたいなぁ。


 そしてあいつに……。


 えへへ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ