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1ページ  作者: ぴーせる
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冬休みのページ

 

 あれだけ悠々自適に過ごせた冬休みもあと三日。


 まったく、どうして楽しい時間っていうのはこんなにも早く過ぎ去ってしまうのかなぁ。


 前にその現象の名前をテレビで聞いた気がするんだけど……あとでネットで調べてみよ。


 で、今日はあいつが俺の部屋に遊びに来た。


 遊びに来た目的は、言うまでもなく冬休みの宿題。


 これがまた多いのなんの。


 取っておいた大量の夏休みの宿題と比べたら、そんな大差なかったよ、冬休みの宿題の量。




 でもね、期間的には冬休みの方が圧倒的に少ないの。


 夏休みは一ヶ月以上あるのに、冬休みは二週間あるかどうか。


 たしか北国の方だと、こっちの休み事情と違って夏休みより冬休みの方が長いんだっけ?


 ああ、だからかも。


 数学の先生、前の学校は東北だって言ってたし、その癖がついて冬休みの宿題を多くしちゃったのかな。


 まったく、少しはこっちの事情考えろっての。


 こっちは冬休みの方が短いんだぞ! って感じ。


 あ、でもたしか夏休みも数学の宿題が多かったような……。


 まあいいや。




 そんなたくさんある宿題を、頭の良い俺は二人で分担しようって持ちかけたわけ。


 やっぱりさ、あんなにたくさんあったら一人でなんて無理だって。


 それなら二人で手分けしてやった方が、能率的に考えて十二分に有意義なわけよ。


 あいつもそう思ったのか、俺の提案に乗ってくれた。


 でも、いつもならあいつの部屋に集まるところが、今日はあいつのお父さんが家に居てダメらしい。


 ってわけで特別にうちに集合したのよ。




 これがまたあいつを部屋に呼ぶなんてひっさびさでね、思いがけず二時間も部屋の掃除しちゃった。


 汚い部屋なんて、あいつに見せられないからね。


 どうせなら綺麗な状態の部屋を見てほしいわけよ。


 にしても、掃除って一度始めるとなかなか止まらないものだよね。


 フローリングに掃除機をかけるところから始めて、机の下を掃除、本棚の整理、クローゼットの中を整頓したりと、いろいろやっちゃった。


 その中でも、やっぱりクローゼットの整頓は骨が折れたね。


 だってお母さんが、俺が女になったお祝いにたんまり服を買い込んでたんだよ?


 大抵は放課後に制服のまんま遊びに行くから、私服を着るのなんて部屋着か土日のお出かけぐらい。


 だからずいぶんと持て余してたんだよねえ。




 その大半が一年前に買ってもらったものばっかりだから、ものすっごく懐かしくてさ。


 初めのうちはお母さんに着せ替え人形よろしく、いろいろ着させられたなぁ。


 まさか家で夕食を取るだけなのにゴスロリみたいなドレスを着せられるとは思わなかった。


 お父さん、俺を見た瞬間ご飯粒吹いたもん。


 俺の黒いゴスロリドレスに白い粒が何粒もついたし。


 あのときは恥ずかしくてしょうがなかったけど、今となっては良い思い出だよ。




 で、そんな思い出深い服がいっぱい詰まったクローゼット。


 思い出だけじゃなくて、その量もいっぱい詰まってたんだよね。


 もうてんこもり。


 クレヨンしんちゃんの押入れ並みにめちゃめちゃ詰まってるの。


 まずはクローゼットの中に入ってるものを全部出すところから始まったね。


 そしてちゃんと一着ずつ丁寧にたたんで、ハンガーにかけるものはかけて、クリーニングに出してほしいものは別に分けて。


 本当に大変だった。


 汗かきすぎてシャワー浴びようかなって思っちゃったぐらいだもん。


 それぐらい頑張ったんだよ。




 でもさ、それだけ集中しちゃうと時間を経つのも忘れちゃうみたい。


 ほら、最初に書いた楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうってやつ。


 あれだよね、きっと。


 クローゼットの中身を半分ぐらい片付けたときに、事もあろうにあいつがやってきちゃった。


 しかもお母さんが勝手に上がらせて、部屋にまで通しちゃうの。


 そりゃあもうビックリしたよ。


 だって、ちょうど下着を整頓してるときに乱入だよ?


 驚きを通り越してインド人もビックリだよ。




 にしても、自分で言うのもあれだけど、俺ってなかなか反射神経は良い方だと思うんだよね。


 あいつが入るなり、それを瞬時に判断して、パッと身を挺して下着の露呈を防いだんだもん。


 世界すら狙えると思うぐらい俊敏な動きで俺の下着に覆いかぶさったんだよ。


 そんな俺の反射神経が良くないわけがない。


 でもさ、やっぱ人って慌てるとダメだね。


 俺だって必死に守ったつもりだったけどさ、人っていうのは完璧には作られてないの。


 なんと、俺が一番見られたくなかった縞々模様のパンツだけ守りきれなかったんだ。




 他にもたくさんパンツはあるんだよ。


 白くて無地のやつとか、フリフリついたの可愛いやつとか、リボンのワンポイントが入ってるやつとか。


 そんなお気に入りのやつとかじゃなくて、俺が一番子供っぽくて嫌だなぁって思ってた青い縞々のパンツだけが、俺がパンツの山に覆いかぶさった拍子にひらひらって空中を舞ったの。


 すごいよ、本当にパンツって舞うのね。


 まるで紙切れを落としたみたいにふわふわ滞空時間が長く感じて、それがあいつの目の前に落ちちゃった。


 ぽと、って。




 いやあ恥ずかしかった恥ずかしかった。


 あいつも俺も目が点になっちゃって、正直指先が震えたね。


 出てけー! って何か物を投げようと思ったんだけど、そのとき手元にあったのが覆いかぶさって守ってたパンツの数々だったんだよね。


 そんなの、投げるわけにいかないじゃん?


 だから俺としてはもう必死も必死。


 パンツを守りながら怒鳴って「出てけ」コール。


 男の俺としては、そんな女物のパンツを履いてることがばれて恥ずかしいのもあるし、女の俺としては、やっぱり下着を見られるのは恥ずかしいわけよ。


 二重苦ってやつ。


 羞恥心で心臓を抉られるかと思ったね。


 いやあ、恥ずかしさに殺傷能力がなくて良かったよ。


 危うく羞恥死してるところだった。




 そんなわけで、結局今日はあいつを追い出したまま宿題を終わらせてないわけよ。


 やってられないって限度を超えたね。


 もうこの身を線路に投げ出したいぐらい。


 っていうかさ、あいつもあいつでノックぐらいすればいいじゃん。


 何で何も言わずに入ってくるわけ?


 お母さんもお母さん。


 俺の友達が来たんなら、せめて俺に一言声を掛けてよ。


 それが礼儀ってものじゃん。


 たしかに、俺だってたま~にノックしないで部屋に入っちゃったりとか、お母さんの友達と勝手に世間話とかしちゃったりしたけどさ、ここで仕返しする必要ないよね?


 ね?




 まったくさー、もう本当信じらんない。


 あいつに晒しちゃったあの縞々パンツ、もう二度と履けないよ。


 あのパンツを履いてるのがあいつにばれたら、「ああ、あのときの」ってなるじゃん。


 嫌だよそんなの。


 お前ってそんな可愛いパンツ履いてるんだ~、とか言われちゃうじゃん。


 恥ずかしすぎて死んじゃうよ。


 はーあ、縞々パンツ捨てよっかな……。

 

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