"油画"
西日がきらきらして居る
陽射しの中、あらゆるものが真っ白に輝くこの部屋では、血の赤はとても映えた
この館には目眩がする程の人数の従者が居るが、僕の役割は『血』だ
従者としての役割の中では最も栄誉あるものが『血』だが、僕はその中でも下層に位置して居て、僕の血液は主に、若様のペディキュアとして使用されて居た
「………もう少し欲しいな」
幼い僕の主は椅子の上で、両の素足を風に晒しながら興味無さげにそう言う
僕は跪いた姿勢で「かしこまりました」と答えると、効率良く血液を採取出来るように刃がぎざぎざに作られたナイフで、自分の腕を擦った
血が、音を立てて足元の容器に滴る
これだけの量を出すには、相当深い自傷が必要になる
『ペディキュア』の寿命は長くないし、服の下の躰はいつも傷だらけだった
腕に刺した刃が震えて居る
実際には震えて居るのはナイフを持った僕の手か、或いは痙攣を始めた僕の躰だった
失血で視界が霞みだした頃、採取は終わった
僕は汗ばみながら「終わりました」と告げる
主様がその白く柔らかな足で容器を蹴り、ひっくり返した
「もう一回だ」
酷薄な笑みが、僕を視降ろして居る
身体感覚が薄れて居たかに思えた躰の、背中に快楽が走った
僕は仕事は嫌いだけど、この表情にだけは逆らえ無い
そうした意味では、この仕事は僕の天職だった
返された容器を、元に戻す
床は血の海だ
ふらついて、僕は血溜まりに手を突いた
「………ご容赦を」
今日はこれ以上出す事が出来ない
毎日繰り返して居ると、『死』が『来る』感じが解る
いま僕には眼で視えそうな程に、『死』が近付いて居た
「駄目だ」
愉しげな声
残念ながら躰が重く、主様の顔を視る事すら出来ない
一瞬顔を上げる
血に光る爪をしたあの美しい足が、僕の顔に迫るのが視えた
少しの間視界が途絶し、僕は気付けば血の赤に塗れ仰向けになって居た
蹴られる際に爪先が僕の顔に刺さったらしく、主様は付いた血を恍惚と、睫毛の長い眼で視降ろして居た
「足らぬ」
「もっと出せ」
この少年は、なんて顔をするんだろう
矢も盾も堪らず従いたかったが、もう指一つ動きそうに無かった
「……………ご容赦を」
僕は涙を流して居るらしい
でもきっとそれは、歓喜に依るものだ
「これ以上は、死んでしまいます」
僕の口から出る言葉は、常識的な事ばかりを言い続けて居る
主様は痺れを切らして立ち上がると、僕が床に取り落として居たナイフを拾い上げた
「…………………なら死ね」
噴水のように、自分から熱いものが吹き出るのが解る
銀色の刃は僕の内側ではとても冷たく、肋骨に触れる事無く正確に心臓を突き破る
脳が痺れて、僕は大量の唾液と共に声を上げた




