第13話 少女の心は測れない
それから夕暮れまで、ジュダとカロンは襲撃された街での色々な後始末やら、王都への報告、民衆の避難やら怪我人の処置に追われていた。その前に、アシェルはカロンから「子どもが一人で魔物軍に突進しないの!」「危ないでしょ!?」「も〜ほんっとに肝冷えた……無事で良かった……ちょっとアシェル君? 反省してる!?」と長々、くどくどとお説教を受けていたのだが。
そうは言っても、復興作業のほとんどはカロンとその従者が指揮してこなしており、ジュダは人通りの少ないところで、壊れた建造物の修復に黙々とあたっていた。ジュダ曰く「他人に感謝されるなんて、あまりにも恥すぎる……」らしい。
街での復興事業が一段落して、三人が草原の城に帰り着いたのは日が沈んですぐのこと。
ふと、草原の城に着いてすぐに、城の明かりに照らされたアシェルを見たカロンが、アシェルにこそっと耳打ちして提案してきた。
「アシェル君。今日は凄く疲れてると思うけど……湯浴みはどう?」
「あ……たしかに」
カロンの提案を受けて、アシェルは己の身体を改めて見ると、全身が魔物の返り血で真っ赤に染まっていた。流石にこの姿で、寝台で眠るわけにはいかない。
アシェルはカロンと顔を見合わせて頷き合うと、ジュダに「ジュダ、わたしちょっと湯浴みに……」と声をかけようとしたところで、ジュダに左手を掴まれて、手を引かれた。
ジュダは無言でアシェルの手を引き、城内に向かって歩いてゆく。
アシェルはジュダが何を思っているのかわからなくて、「いきなりどうしたんだろう?」と思いつつも、恐る恐るジュダの顔を覗き込みながら尋ねる。
「あの……ジュダ? わたし、汚いから……怒った?」
「違う」
そんなアシェルの問いに、ジュダは即座に首を横に振った。そして首を傾けてアシェルを流し目で見下ろしてくる。
「湯浴みするんだろ。お前、一人じゃ髪も拭けないポンコツだから。俺が洗う」
ジュダはそう淡々と答えて、アシェルを連れてずんずんと進んで行く。
そこに、随分と慌てた様子でカロンが割って入って来た。
「いやいやいやいや、何言ってんですか!? ジュダさん!? え、まさかいつも君たちこうなの? アシェル君!」
「え……」
カロンが酷く驚愕したような様子で、アシェルに問いかけてくる。
当のアシェルは頭の中がぐるぐるしていた。
(たぶんカロン、勘違いしてる……ジュダは、髪を洗って拭いてくれるだけで……わたしが上手く着れない服も着せてくれるけど……一緒に湯浴み、してるわけじゃなくて)
一緒に湯浴み、という単語を内心で呟いた途端、アシェルの脳裏に過ったのは、先ほどのジュダとの抱擁。
今でも鮮明に甦る。脳だけでなく、肌の感触にも。
アシェルのか細くて柔らかな肢体とは全く異なる、ジュダの意外と屈強な肉体。
アシェルと同じものに違いないが、全く異なるように思えるジュダの香り。落ち着く香り。
アシェルの腕など容易く掴んで覆い隠せる、武骨で大きなジュダの手。
そのどれもが、何だか今のアシェルには酷く落ち着かないものに思えて、アシェルは脳内を埋め尽くすジュダの何もかもを振り払うように、ぶんぶんと首を横に振った。
そして、何だか途轍もなく気恥ずかしい気持ちになって、アシェルは慌てて己の腕を掴むジュダの手からするりと逃げおおせた。
「……カロン、勘違いしないで! わたし、ひとりで湯浴みできる。ジュダは……こ、来ないで!」
アシェルはそう捨て台詞を吐いて、そそくさとジュダとカロンの前から風のように走り去った。
アシェルの背後では如何にも解せないとでも言いたげな声色で「髪洗うだけだろ」とぼやいているジュダと、「年頃の女の子は繊細なんだって……」と呆れたように息を吐くカロンのいずれも的外れな会話が聞こえた。




