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星屑降る夜、心奪われた 〜零落の魔術師と盾の魔女〜  作者: Nejime Kirimori
第二章 変人魔術師と無能の少女
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第9話 貴方から欲しい言葉がある

 アシェルはばちりと目を見開いて、声がした方を振り返る。そこには、僅かに眉を顰めたジュダが、こちらに向かって歩いてきていた。

 それを目にしたカロンが流れるような動きで、すっとアシェルの前に出て、いつものように胡散臭い笑みを浮かべてへらへらとジュダの問いに返す。


「あれ? どうしたのジュダ君。やっぱり俺が恋しくなって、捜しにきてくれちゃった? いやあ、嬉しいな……のわぁ!?」


 カロンのくだらない軽口に、更に顔を歪めたジュダが常に持ち歩いている長杖を横一線に振るう。

 するとカロンの全身が途端にべしゃりと床に縫い付けられ、カロンは顔すら上げられない状態となった。おそらくこれは、ジュダの星魔術だろう。

 ジュダがそれを見下ろして、舌打ちを鳴らす。


「どうしてまだ俺の城に居る。さっさと帰れ、有能野郎。そんなに地面とキスがしたいか? あ?」


 そんなジュダの言葉が、矢の如くアシェルの脳を貫いた気がした。

 地面とキス。

 惹かれ合う月と星。

 走馬灯のように過るは、天文学の知識。

 星魔術とはつまり――。


「引力――だ!」


 アシェルは反射的に、今までにないほどの大きな声を上げた。

 それに驚いたのか、ジュダが目を丸くしてアシェルを見やり、その反動で星魔術が解けたのかカロンも額を赤くしたままアシェルに向かって顔を上げる。

 一方アシェルは、少し興奮気味に、そして脳内で次々に湧き上がってくる「星魔術の仮説」をつらつらと声に出して連ねた。


「星魔術は……星の魔力の中でも〈星の引力〉を限定して、操作してる! わたしたちが星魔術を受けて大地に平伏してしまうのは、ジュダが操作した〈星の引力〉に引き寄せられているから! しかもジュダは、星の巨大な魔力をたぶん術式で利用して、大規模な遠隔操作魔術を展開してる! その遠隔操作魔術は、遥か遠い(そら)にある星屑にまで届き――この星の引力と、結びつけてる。星同士の魔力は性質が似ているから、きっと遠隔操作魔術で結びつけて操作しやすい。そうしてジュダが大規模な星魔術を使うと、星屑が降る! あとこれは、わたしの推測だけど……ジュダは、降ってくる星屑の照準までも操作できる。だからジュダの星魔術は、空の支配者たる〈飛空艇軍〉の天敵、なんだ! ジュダが星魔術で降らせる星屑なら、〈飛空艇軍〉を大地に墜とせる!」


 そこまで言い切って、アシェルははっと息を呑んだ。

 星魔術の仕組みを紐解いたことで、カロンの言う――星魔術の()()()()()()も、即座に理解したからだ。


「あ……わかった。星魔術の欠陥。それは――星魔術の攻撃が大規模かつ強力すぎること。星魔術は飛空艇軍を確実に墜とせはする。だけど、同時に降ってきた星屑は、大地に甚大な被害を……大きな傷を残す。街どころか、都、国一つも容易く滅ぼせる。大勢の人が死ぬ。だから何か……対策が、必要」

「おい」


 次第に深い思考の渦へと呑まれていくアシェルを止めたのは、ジュダの声だった。アシェルはそこでようやく我に返ると、弾かれたようにジュダを見上げる。

 ジュダは微かに眉を顰めた、しかし、大きく目を瞠って酷く驚いているような――何か幽霊でも目の当たりにしたかのような、不思議な顔をしてアシェルを凝視していた。


「お前、近頃しょっちゅう図書室に入り浸っていたが……まさかひとりで、星魔術をそこまで理解したのか?」


 ジュダがぼそりと、掠れた声で小さく問う。アシェルは少し視線を宙に漂わせながらも、小さく首を横に振った。


「えと……ううん。わたしひとりじゃない、よ。カロンもいっぱい、手伝ってくれたから」

「いやいやいや! 俺は全然何もしてないって! アシェル君の努力の賜物だよ!」


 ふと、ジュダの星魔術によって地面とキスしていたカロンが跳ねるように立ち上がり、アシェルの肩に両手を置くと、興奮したようにアシェルの肩を軽く揺さぶった。


「うわー! 本当に凄いねアシェル君! ほとんど何も知らないところからたった一人で、星魔術の仕組みをここまで紐解けるなんて! ジュダ君にしかできない遠隔操作魔術の神業応用のこととか、しかも星魔術の欠陥まで見抜けるなんて! 本当に凄い! 天才過ぎる……よく頑張ったね!」


 カロンが糸目をますます細めて、心の底から嬉しそうな声を以てアシェルをこれでもかと褒めてくる。

 アシェルは素直に褒められることがあまりにも久々過ぎて、いささか固まってしまったが、すぐに視線を漂わせながら上擦った声で「……うん」と頷いた。


「はあ~もう本当に凄い。俺、感動しちゃった……昔のジュダ君を見てるみたい……ってそれよりも。ほら、ジュダ君。ジュダ君もアシェル君に何か言うことあるでしょ?」


 何故かカロンが大きく胸を張ると「褒めろ」と書いてあるような顔をして、丁寧な仕草を以てアシェルを手で指し示して見せながらジュダを見やる。

 アシェルも思わず、固唾を吞んでジュダに注目せずにはいられなかった。

 ジュダは今のアシェルのことを――アシェルが成し遂げたことを、どう思っているのであろう。

 ジュダは僅かに目を丸くしたまま黙り込んでいたが、すぐにいつもの無表情になると、アシェルから視線を背けた。


「……別に何も。強いて言うなら……有能そうな匂いさせるの、やめろ」


 ジュダはそれだけ言い残すと、素早く身を翻して足早に図書室から出て行ってしまった。そんなジュダの背中を見送るカロンが「あ~もう……ほんっと、不器用ねジュダ君は……」と片手で頭を抱える。

 アシェルは、そんなカロンとジュダを交互に見つめながら、何となく胸のあたりが「きゅう」っと痛むような感覚がした気がして、両手で胸を押さえた。


(星魔術の完成に、ちょっとだけ近づけた。だけど……カロンの言葉。ジュダからも、欲しかった……)


 そんなことをぽそりと、密かにアシェルは呟いた。それにアシェルは、思わず目を瞠って驚いてしまう。

 まさか自分が――ジュダから、褒めてもらいたいなどと思ってしまうとは。

 どうしてそんなことを考えてしまうのだろう。そんなもの、アシェルの使命には――生きる意味には、必要ないはずだというのに。

 独りでにぽろっと湧き出てしまった、その意味不明極まりない感情が、妙に胸に刺さって離れなくて。アシェルは心許なく思える鼓動で跳ねる心臓を、ますます強く押さえた。

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