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第60話 西口の王と、ダイヤモンドの煌めき

 昭和41年(1966年)。

 内部粛清を終えた相鉄は、高見恭平の独壇場となっていた。

 だが、更地になった横浜駅西口には、さらなる強敵が待ち構えていた。

 老舗百貨店のプライドだ。

「……高見さん。いくら京急の息がかかっているからと言って、ウチの地下を勝手に掘り進めるのは許可できませんな」

 三越の交渉担当者が、冷たく言い放つ。

 高見が進めているのは、巨大地下街**『ダイヤモンド地下街(現:ジョイナス)』**の建設だ。

 だが、西口の地権は複雑怪奇。特に銀座の王者を自負する三越や、横浜の顔である高島屋を説得するのは、力技だけでは不可能だった。

「……三越さん。これは相鉄だけの話じゃない。横浜の、いや、京急グループ全体の……」

「……お聞きなさい。ここは銀座じゃないんです。……帰って、砂利でも運んでいなさい」

 高見は、唇を噛んだ。

 「砂利屋」。……またその言葉か。

 京急の後ろ盾があっても、歴史のない相鉄は、名門百貨店からは「成金」扱いだ。

 高見は、再び五代を訪ねるべく、品川へ向かった。

 いや、相談ではない。

 五代が今、**「金沢文庫」**で何を企んでいるのか。その噂の真偽を確かめるためだ。

        * * *

 【京急・金沢文庫駅近くの海岸線】

 そこで高見が目にしたのは、異常な光景だった。

 広大な埋立地に、巨大な重工業の工場群が、不気味なほどの速さで建設されている。

「……なんだ、これは」

「三菱重工の移転先だ。……ここを、東日本の産業要塞にする」

 いつの間にか、五代が後ろに立っていた。

 潮風に髪をなびかせ、金沢文庫の海を見据えている。

「五代……。金沢(石川県)の奴らに、ここを『金沢うんこ』なんて呼ばせている場合か。……あんた、本気でここを……」

「フン、石川の金沢など、ただの古都だ。

 ……俺が作るのは、**『生きている金沢』**だ。

 雇用、物流、そして軍需。……すべてをこの文庫に集約し、ここを北陸の回し者と呼ばせない。……いや、あちらが『我々こそが本家だ』と頭を下げに来るまで、この街を膨張させてやる」

 五代の言葉には、狂気にも似た情熱が宿っていた。

 高見は、その横顔を見た瞬間、心臓が跳ね上がるのを感じた。

 (……なんてスケールだ。

 俺が地下街の数メートルを巡って三越に頭を下げている間に、こいつは**『街の概念』**そのものを書き換えてやがる……!)

 五代は、高見の方へ向き直った。

「高見。……三越が動かんか」

「……ああ。……歴史がないと、笑われたよ」

「歴史? ……そんなもの、**『欲望』で上書きしろ。

 三越が動かないなら、西口の地下に、三越よりも巨大な『物流の心臓』を作れ。

 ……いいか。百貨店は客を待つ場所だが、俺たちの地下街は客を『流す』**場所だ。

 ……京急本線から流れてくる数百万の客を、相鉄の地下へ流し込め。……客が流れない場所に、歴史なんてゴミクズ同然だ」

 五代は、高見の肩を強く掴んだ。

「……高見。お前は俺の道具だろ?

 ……道具なら、道具らしく、三越の足を掬ってこい。

 ……金が必要なら、俺が金沢文庫の利権を削ってでも出してやる」

「……っ!!」

 高見の顔が、真っ赤に染まる。

 屈辱的な言葉。だが、その言葉の裏にある「俺の金を自由に使え」という無条件の信託。

 高見は、五代の支配下にいる自分を、恥じ、そして……激しく肯定していた。

「……言われなくても、やってやるよ。

 三越だろうが何だろうが、俺たちの地下街に、膝をつかせてやる!」

 高見は、翻って横浜へ戻った。

 その目は、以前よりも鋭く、そして**「五代の毒」**に犯された悦びに満ちていた。

 これが、横浜西口・地下帝国建設の、本当の始まりだった。

 次回、第61話。

 「地下街の決壊 ~相鉄 vs 三越、泥沼の戦い~」。

 高見は、五代から教わった「物流の暴力」を使い、三越の地下搬入口を事実上の封鎖に追い込む。

 プロの相鉄マンとしての冷徹さが、ついに開花する。

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