番外編・第52話 社長の独白 ~猛獣使いの覚悟~
約束守れなかったよ(^q^)
昭和63年(1988年)、暮れ。
京急本社・社長室。
私(社長)は、一人の男の背中を見送った後、深く椅子に沈み込んだ。
五代専務。
この男が部屋に来た後は、いつも部屋の空気が少し熱っぽくなる。
「……まったく。とんでもない『猛獣』を飼ってしまったものだ」
私は苦笑し、手元の決裁書類を眺めた。
そこには、役員会で紛糾した案件がずらりと並んでいる。
『120km/h運転の常態化について』
『成田新幹線跡地への出資に関するリスク分析』
『相模鉄道との極秘協議事項』
どれもこれも、普通の鉄道会社なら「正気か?」と却下されるような案件ばかりだ。
実際、古い役員たちは口を揃えて言う。
「五代くんは危険だ」「やりすぎだ」「運輸省に目をつけられる」と。
だが、私は知っている。
毒を喰らわば皿まで。
今の京急に必要なのは、安全な「薬」ではなく、劇的な効き目を持つ「劇薬」なのだと。
* * *
思い出すのは、数年前。
彼が血相を変えて、私の部屋に飛び込んできた時のことだ。
『社長! 羽田に穴を掘らせてください!』
『許可? 後回しです! モノレールに先を越されます!』
あの時、私は即座に彼を止めるべきだった。
企業のトップとして、法令順守を説くべきだった。
だが、私はそうしなかった。
私は黙って、窓の外を向いた。
そして、独り言のように呟いたのだ。
『……最近、耳が遠くてな。何も聞こえんよ』と。
それが、私の**「ゴーサイン」**だった。
もし失敗すれば、責任を取って辞任するのは私だ。
トンネルが崩落すれば、会社は傾く。
だが、五代という男は、その「私の首」という担保を背負って、見事に賭けに勝った。
海老取川を突破し、空港島に駅を作り、あまつさえ140km/hの認可まで持ち帰ってきた。
「……三流、か」
かつて、国鉄や大手私鉄からそう呼ばれ、悔し涙を流した社員たちの顔を思い出す。
狭い路地裏を走り、カーブできしみ、遅いと馬鹿にされた赤い電車。
だが今、その電車は**「赤い彗星」**と呼ばれ、誰もが恐れる速度で走っている。
社員たちの目には、かつての卑屈な色はなく、誇りと自信……そして少しの「狂気」が宿っている。
組織を変えるのは、正論ではない。
一人の「狂人」の熱量と、それを許容する「度量」だ。
「……行け、五代」
私は、彼が置いていった成田への新線計画書に、社長印を押した。
「お前が暴れるためのフィールドは、私が守ってやる。
その代わり……京急を、世界一の鉄道にして見せろ」
昭和が終わろうとしている。
私の役目も、そろそろ終わりが見えてきた。
だが、この猛獣が次に何を仕出かすのか……平成の世を見るのが、楽しみで仕方がない。
専務なら自由だ\(^o^)/
社長の席なんてくれてやる。




