表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/54

番外編・第51話 佐山課長の憂鬱と、始末書の山

さ、佐山って誰だけっ?

 昭和64年(1989年)、1月。

 昭和が終わり、あと数日で「平成」という新しい時代が始まろうとしている、慌ただしい冬の日。

 京急本社・総務部。

 その一角にあるデスクで、佐山課長は胃薬を飲みながら、うず高く積まれた書類の山と格闘していた。

「……またか。また専務(五代)がやったのか」

 手元にあるのは、運輸省からの**『厳重注意書』と、それに対する『弁明書(下書き)』だ。

 件名は『北総線における車両性能試験に関する報告の不備について』**。

 佐山は溜息をついた。

 かつて第1話で、五代が乗り込んできた時に「君、名前は?」と聞かれた、あの若手社員だった佐山も、今や中堅管理職だ。

 だが、その仕事内容は変わらない。

 「五代専務が暴れる」→「佐山が尻拭いをする」。

 この20年間、ずっとこれだ。

「……『160km/h出たから120km/hは安全です』なんて理屈、普通のお役所に通じるわけないでしょう……」

 佐山はブツブツ言いながら、万年筆を走らせた。

 五代は「ニヤリと笑って解決した」と思っているが、その裏でどれだけの人間が頭を下げ、書類を偽装……いや、**「解釈の変更」**を行っているか、あの人は知らない。

 トンネルを勝手に掘った時の『地盤調査名目』の申請書。

 モノレールとの『接続改札』の図面修正。

 そして今回の『速度超過』の正当化文書。

 全て、佐山が徹夜で仕上げた「芸術作品」だ。

「……佐山くん。やってるかね」

 背後から、聞き慣れた、そして胃が痛くなる声がした。

 振り返ると、五代専務が立っていた。

 相変わらず、悪戯を思いついた子供のような目をしている。

「専務……。今度は何ですか?

 これ以上、運輸省を刺激しないでくださいよ。私の胃に穴が開きます」

「ハハハ、すまんな。

 だが、お前のおかげで140km/hの認可も取れた。感謝している」

 五代は、佐山のデスクに缶コーヒーを置いた。

「……佐山。

 いよいよ、時代が変わるな」

「ええ。平成ですね」

「昭和の間、俺たちはガムシャラに走ってきた。

 穴を掘り、喧嘩を売り、無理やりスピードを上げてきた。

 ……だが、これからは『守り』と『攻め』が同時に来る時代だ」

 五代は窓の外、品川の街を見下ろした。

「俺はこれから、少し**『そと』**の仕事が増える。

 相鉄の連中との連携や、成田への新線建設……政治的な動きだ」

 五代は佐山の肩に手を置いた。

「だから佐山。……**『なか』**は頼んだぞ」

「中……ですか?」

「ああ。

 俺が外で暴れてくる間、お前がこの京急の**『実務』**を回せ。

 運輸省との折衝、現場への指示、そして俺が持ち込む無理難題の処理……。

 お前以外に、俺の意図を汲んで書類にできる奴はいない」

 それは、引退勧告ではなかった。

 **「共犯者」**としての、さらなる重圧の宣告だった。

「……専務。それ、給料上がりますか?」

「出世はさせてやる。だが、胃薬の量は増えるぞ」

 五代はニヤリと笑い、役員室へと去っていった。

 残された佐山は、缶コーヒーを握りしめ、苦笑した。

「……まったく。人使いが荒いんだから」

 だが、佐山は知っていた。

 この人が暴れ回ったおかげで、京急は「三流」から「一流の高速鉄道」に変わったことを。

 そして自分も、その片棒を担いできたことに、奇妙な誇りを感じていることを。

「よし……やるか」

 佐山は新しい便箋を取り出した。

 タイトルは**『平成元年度・事業計画書(案)』**。

 その中身には、五代が口走っていた「夢物語」が、現実的な「計画」として書き込まれていくことになる。

 「まずは、この始末書を片付けてからだ……」

 昭和が終わり、平成が始まる。

 五代の暴走は止まらない。

 そして、佐山の胃痛の日々もまた、新たなステージへと突入するのだった。

ほら1話で出てた秘書の(^q^)

忘れてた\(^o^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「……佐山。  いよいよ、時代が変わるな」  「ええ。平成ですね」 あれ、もう改元した後ですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ