第50話 【昭和編・完結】140km/hの祝杯と、青い狼への継承
昭和63年(1988年)、12月。
昭和最後の冬。
品川駅前、ホテルパシフィック東京の最上階バー。
眼下を走る赤い電車は、もはや「違法な暴走列車」ではない。
計算され尽くした160km/h(のポテンシャルを持つ140km/h営業運転)で、東京の夜を切り裂いていた。
俺(五代)は、グラスの氷を鳴らした。
向かいには、相鉄の高見恭平がいる。
「……どうだ、高見。
今の京急の走りは」
「ああ、見ていて寒気がするよ」
高見が苦笑する。
「まさか、本当に140キロの認可まで取り付けちまうとはな。
『120キロなんて徐行だ』なんて屁理屈で、国を丸め込むとは……お前らしい狂気だ」
「フン。……だが、俺の狂気はここまでだ」
俺は、一枚の鍵(比喩的なスイッチ)をテーブルに置いた。
「空と速度は俺が獲った。
だが……神奈川の**『中身(陸)』**は、まだJRの独壇場だ」
俺は高見を見据えた。
「高見。……スイッチはお前に渡す。
横浜駅の地下で、俺たちのレールはもう繋がっている。
……あとは、お前が相鉄(青い電車)を率いて、JRの脇腹を食い破るだけだ」
「……ああ、待たせたな」
高見がグラスを飲み干す。
「五代。お前が空を飛んでいる間に、俺も地底で牙を研いでいた。
……話してやるよ。
あの昭和39年の夏から、俺がどうやってこの『青い王国』を築き上げたのかを」
バーの照明が落ちる。
平成の足音が聞こえる中で、物語の時計は一気に巻き戻される。
140km/hの伝説は、ここで一旦幕を閉じる。
カメラは、五代の背中から離れ、若き日の高見の顔へとズームインする。
場所は、まだ砂利道だった頃の横浜駅西口。
昭和39年(1964年)。
東京オリンピックの年。
まだ相鉄が「砂利運びの田舎電車」と呼ばれていた時代。
次回、第55話。
「【新章】相鉄攻略編・砂利とプライド」。
若き企画課長・高見恭平が登場。
彼が直面していたのは、社内の腐敗と、小田急・国鉄という巨大な壁だった。
青い狼の、孤独な戦いが始まる。
日常会を挟みます。
【次回更新予定】何度目かの正直。
51話〜 2月21日(土曜日)




