表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/54

第46話 天空の貴族、地下の吸血鬼に泣く

 昭和60年(1985年)。

 海老取川えびとりがわの地下を突破し、空港島の端っこ(整備場地区)に作られた**「京急・羽田駅(現・天空橋駅)」**が、ついに開業の日を迎えた。

 地上には、東京モノレールの「整備場駅」がある。

 そして地下には、我が京急の新駅がある。

 この二つの駅は、俺(五代)の強引な設計変更により、地下通路で**「直結」**されていた。

 開業初日の朝。ラッシュアワー。

 俺は、駅長室のモニターで、改札口の様子を眺めていた。

 隣には、不安そうな顔をした技術部長の加賀谷がいる。

「……専務。本当に客は来ますか?

 ここはターミナルじゃありません。ただの島の端っこですよ」

「来るさ。……見ていろ」

 午前8時。

 モニターに異変が起きた。

 モノレールの整備場駅から降りてきたサラリーマンや空港職員の群れが、出口へは向かわず、次々と**「京急乗り換え改札」**へと吸い込まれていくのだ。

 『横浜方面へは京急が便利!』

 『運賃も安い! モノレールより20分短縮!』

 俺が事前にバラ撒いておいたビラが効いている。

 今まで「浜松町経由」を強いられていた神奈川県民や横浜市民が、この「裏口ルート」に殺到したのだ。

「す、すごいです専務!

 乗り換え客が止まりません! 改札機が悲鳴を上げています!」

 俺はニヤリと笑った。

「……始まったな。**『吸血』**の時間だ」

        * * *

 数日後。

 京急本社に、怒り狂った男たちが乗り込んできた。

 東京モノレールの重役と、運輸省航空局の根津ねづ課長だ。

「おい五代! どういうことだ!」

 重役が、真っ赤な顔で収支報告書を叩きつける。

「貴様の駅ができてから、ウチ(モノレール)の客が激減したぞ!

 特に横浜・川崎方面の客が、ごっそりそっちへ流れている!

 ……まるで**『寄生虫』**じゃないか!」

 根津課長も青筋を立てている。

「そうだ! これは営業妨害だ!

 『従業員輸送のため』と言って許可したはずだ。なんで一般客まで吸い上げているんだ!」

 俺は、優雅に茶を啜りながら答えた。

「人聞きの悪い。……**『利便性の向上』**と言ってください」

 俺は立ち上がり、二人の前へ歩み寄った。

「あなた方は言いましたよね?

 『京急のような三流電車は、空港の表玄関ターミナルには相応しくない』と。

 『品格がないから、裏口(整備場)で止まっていろ』と」

 俺は二人の顔を覗き込んだ。

「だから、仰せの通りにしましたよ。

 裏口で大人しく客を待っていたら……**『お客様の方から勝手に』**乗り換えてきたんです。

 ……モノレールよりも、京急の方が安くて速くて便利だと、お客様が判断したんでしょう?」

「ぐぬぬ……ッ!」

 重役が言葉に詰まる。

 「品格」などという精神論では、「便利さ」と「安さ」には勝てない。それが交通機関の真理だ。

「……このままじゃ、モノレールは赤字転落だぞ!

 国策会社を潰す気か!」

「知ったことではありませんね」

 俺は冷たく言い放った。

「嫌なら……**『京急の本線乗り入れ(新ターミナル直下への延伸)』**を認めることです」

 二人が息を呑む。

「我々を本丸に入れれば、こんなコソコソした吸い上げはやめますよ。

 正々堂々、ターミナルでお客様に選んでもらいましょう。

 ……それとも、このまま指をくわえて、客を吸われ続けますか?」

 根津課長がわなわなと震え、膝から崩れ落ちそうになった。

 「三流」と見下していた相手に、生殺与奪の権を握られた屈辱。

「……く、くそぉぉぉッ!!

 覚えていろ五代……! いずれ吠え面をかかせてやる!」

 捨て台詞を吐いて逃げ帰るエリートたちの背中を見ながら、加賀谷が腹を抱えて笑った。

「あはは! 見ましたか専務! あの顔!

 いやあ、溜飲が下がりましたよ!」

「ああ。……だが、これで奴らも本気で潰しにかかってくるだろう」

 俺は、窓の外の空を見上げた。

 勝利の美酒は旨いが、これで終わりではない。

 モノレールを黙らせ、空港アクセス権を実質的に手中に収めた今、次に必要なのは……この勝利を確定させるための**「圧倒的な速度(140km/h)」**だ。

 奴らが二度と「三流」と呼べないような、化け物のような速さを手に入れる必要がある。

「……加賀谷。遊びは終わりだ。

 次は、あの**『北総の荒野』**へ行くぞ」


 次回、第47話。

 「北総の荒野に、赤い彗星は解き放たれる」。

 モノレールとの戦いを制した五代は、本線140km/h化の認可をもぎ取るため、千葉・北総線の直線で、2000形の**限界突破実験(160km/hトライアル)**を敢行する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ