第42話 幻の埋立地と、海に消える滑走路
昭和55年(1980年)。
成田空港が開港したものの、遠さとテロの恐怖で客足が伸び悩む中、日本の空の主役は依然として**「羽田空港」**だった。
だが、その羽田も限界を迎えていた。
狭い、うるさい、離着陸がさばききれない。
そこで国(運輸省)は、起死回生の巨大プロジェクトを極秘裏に進めていた。
『羽田空港・沖合展開事業(通称:沖展)』。
現在の空港の東側、東京湾を広大に埋め立てて、空港そのものを海の上へ引っ越しさせる計画だ。
京急本社・社長室。
俺(五代)は、独自ルートで入手した一枚の**「青焼き図面(極秘資料)」**を広げていた。
「……社長。見てください」
俺は図面上の、海の部分に引かれた点線を指差した。
「空港が……逃げますよ」
「逃げる? どういうことだ五代くん」
社長が眼鏡を直して図面を覗き込む。
「新しいターミナルビルは、今の場所(旧ターミナル)から遥か東、海のど真ん中に作られます。
……つまり、現在のモノレール駅や、我々の路線(穴守稲荷方面)から、数キロも遠ざかるということです」
俺は、赤ペンで図面を叩いた。
「このままでは、京急は完全に置いてきぼりです。
……ですが、逆にチャンスでもあります」
「チャンス?」
「ええ。空港が動くということは、**『アクセスの地図』**も書き換わるということです。
……モノレールも、今のままでは新ターミナルに届きません。奴らも延伸工事が必要になる」
俺はニヤリと笑った。
「モノレールが延伸の準備をしている間に……我々が先に、その『通り道』を塞いでしまえばいいんです」
「ふ、塞ぐ? どうやって?」
「**『地下』**です」
* * *
数日後。
俺は、羽田空港の敷地境界線、**海老取川**の堤防に立っていた。
対岸には、フェンスで囲まれた空港の敷地(整備場地区)が見える。
その向こうの海では、すでに埋め立て用の土砂を積んだ船が行き交っていた。
「……ここだ」
俺は、同行した技術部長の加賀谷に指示した。
「加賀谷。……ここから対岸へ、トンネルを掘るぞ」
「はあ!? こ、ここからですか!?
まだ国の許可も降りてませんよ! それに対岸は国有地です!」
「許可なんて待っていたら、モノレールに先を越される。
……いいか、名目は何でもいい。
**『地盤調査のための試掘』**とでも言っておけ」
俺は、対岸の整備場地区を指差した。
「あそこは、新空港への『入口』になる場所だ。
ターミナルができれば、必ずあそこを通ることになる。
……だから、先にツバをつけておくんだ」
俺は加賀谷の肩を掴んだ。
「シールドマシンを手配しろ。
……モノレールが『延伸計画書』を書いている間に、俺たちは物理的に穴を開ける。
**『既成事実』**を作ったもん勝ちだ」
加賀谷がゴクリと唾を飲み込む。
「……分かりました。
でも専務、もしバレたら?」
「バレた時は……その時は、俺が腹を切るさ」
俺は笑った。
「だが、穴が開いちまえば、国だって埋め戻せとは言わん。
……これは陣取り合戦だ。
先にハンカチを置いた方が、この席(空港アクセス権)を取れるんだ」
風が吹き抜け、潮の香りがした。
五代の目は、まだ海しかない沖合の彼方、将来の「ビッグバード(新ターミナル)」を見据えていた。
この決断が、後に京急を「空の王者」へと押し上げる第一歩となる。
だが、その前には、立ち塞がる巨大な敵――**「運輸省の官僚」と、川底に眠る「予想外の障害物」**が待ち受けていた。
次回、第43話。
「川底の決死圏」。
シールドマシン発進。しかし、海老取川の底には、戦時中の「負の遺産」が埋まっていた。
工事中止の危機に、五代と現場の男たちが出した答えとは?
\(^o^)/AIが進化してる




