第239話 :泥濘のカルテル 〜黒い車列の出撃と、成田の夜明け前〜
千葉・幕張。
深夜3時。かつて『やんちゃな企業』との血みどろの市街戦が繰り広げられたコンクリートプラントの廃墟に、けたたましい重低音が響き渡った。
ブルォォォォォォォンッ!!……キュルルルッ、ドゴォォォォンッ!!!
盗難車をベースに、分厚いH鋼と鉄板でガチガチに溶接された5台の『装甲ダンプ』。
その真っ黒な車列が、一斉にエンジンを吹かした音だった。排気管から吐き出される黒煙が、幕張の夜空を不吉に染め上げる。
「……燃料は満タンだ。荷台の火炎瓶も、数え切れねえほど積んである」
先頭のダンプの運転席。鉄板のスリットから前方を睨みつけるリーダーが、助手席の副リーダーに声をかけた。
彼らの顔は連日の溶接作業で煤にまみれていたが、その瞳には「疲労」など微塵もなかった。あるのは、巨大資本(ダミー会社のお兄さん)から与えられた【インフラを守るという絶対的な正義】に酔いしれる、狂信者の光だけ。
「行くぞ……! あのクズども(やんちゃな方々)から奪った弾の出ねえオモチャ(銃)じゃねえ。俺たちの『火』で、成田の裏切り者と権藤のジジイを、根こそぎ燃やし尽くしてやる!!」
「応ッ!! 俺たちの手で、この国のインフラを取り戻すんだァァッ!!」
ギィィィィ……ガシャンッ!!
装甲ダンプの先端に溶接されたH鋼のバンパーが、廃墟のトタンゲートを紙くずのように粉砕し、強引に道をこじ開けた。
それに続き、火炎瓶を満載した真っ黒な車列が、次々と深夜の国道へと雪崩れ込んでいく。
目的はただ一つ。自分たちから資金を奪い、正義を愚弄したテロリストが潜む要塞——『成田』。
彼らはもはや、ただの過激派ではない。
分厚い札束という『資本』を栄養剤にし、歪んだ大義名分を与えられて巨大化した、最強最悪の【特攻兵器(猟犬)】だった。
***
同じ時刻。成田。
幕張から数十キロ離れた、権藤が牛耳る反対派のプレハブ小屋。
「……ギャハハッ! 幕張のガキども、今頃あの『やんちゃな方々』に半殺しにされて、タコ部屋で泣いてる頃だろうなァ!」
裏切り者の『サブ』は、ストーブの効いた暖かい部屋で、持ち逃げした数千万の現ナマを布団の上に並べ、下品な笑い声を上げていた。
「権藤のジジイもチョロいもんだぜ。このカネを少し握らせておけば、成田の要塞で俺を一生匿ってくれる。あんな泥だらけの幕張なんかで、誰が真面目に闘争なんてやるかっての!」
彼は、冷たい缶ビールを喉に流し込み、札束の山にダイブした。
権藤の強固なバリケードと、成田という「聖域」。ここにいれば、ヤクザだろうと警察だろうと、そしてあの幕張の元仲間たちだろうと、絶対に手出しはできない。
サブは、自分が【完全な安全圏】にいると、心の底から信じ切っていた。
……自分を物理的にミンチにするためだけに、常軌を逸した装甲ダンプの車列が、交通法規を完全に無視して深夜の国道を爆走してきていることなど、夢にも思わずに。
***
品川・京急本社の高層階。
「……五代専務。幕張の『猟犬』たちが、移動を開始しました。時速100キロ以上の猛スピードで、国道を成田方面へ向かっています」
成田(秘書)が、追跡班の追跡映像をテレビに表示しながら、無機質な声で報告する。
五代は、深夜のオフィスでひとり、極上のイングリッシュ・ティーの香りを嗜んでいた。
「……素晴らしい。資金と大義名分を与えれば、人間はここまで美しく、そして残酷なバケモノに育つ。これで、彼らはもう誰の指示も受けない。自分たちの『正義』のためだけに、喜んで成田のバリケードに散ってくれるだろう」
五代は立ち上がり、東京湾の向こう、遠く千葉の闇を見据えた。
「さあ、首輪は外した。……成田を、見事な火の海(更地)に変えてみせたまえ」
狂気を乗せた真っ黒な車列が、夜明け前の闇を切り裂き、成田へと迫っていた。




