第238話 :泥濘のカルテル 〜赤き猟犬と、資本の鉄屑(アッセンブル)〜
千葉・幕張。
分厚い札束を手にした若者たちは、コンクリートプラントの廃墟で、成田へ向かうための『武装準備』を始めていた。
パーンッ!!……カチッ、カチッ。
「……あ? なんだこれ、もう弾が出ねえぞ!?」
若者の一人が、やんちゃな方々(クズども)から奪った猟銃の引き金を引くが、泥と煤が詰まった機関部は完全にジャムを起こし、使い物にならなくなっていた。
別の男が持っていた回転式拳銃に至っては、手入れ不足でシリンダーが暴発し、あわや指が吹き飛ぶところだった。
「痛ぇッ! なんだこのポンコツ!!」
「……使えねえな。所詮はあのクズどもの持ち物だ」
リーダーが、足元に転がった銃を忌々しそうに蹴り飛ばした。
「あんな連中からぶんどった武器が、こんなゴミカスだったとはな……やってられねえ。繊細ぶった『資本家のオモチャ(銃)』なんて、俺たちにはお似合いじゃねえんだよ」
リーダーは、優しいお兄さんから受け取った『分厚い札束』をバンッとドラム缶の上に叩きつけた。
「俺たちは、俺たちの武器を使う!! この現ナマで、ホームセンターとスクラップ工場を空にしてこい!! 『火』と『鉄』だ! あの成田の裏切り者どもを、俺たちのやり方でミンチにしてやる!!」
「おおォォォッ!!!」
彼らは銃を捨てた。
その代わり、手にした莫大な【資本】の力で、大量のガソリン携行缶、空き瓶、鉄パイプ、そして装甲用の分厚いH鋼(鉄骨)を狂ったように買い漁った。
グラインダーの火花と、鉄板を溶接する暴力的な音が、夜通し鳴り響く。
盗難車をベースにした数台の大型ダンプカーのフロントガラスには分厚い鉄板がリベットで打ち付けられ、バンパーにはバリケードを粉砕するためのH鋼が幾重にも溶接されていく。
そして荷台には、何百本という手作りの【火炎瓶】が、コンテナいっぱいに積み上げられていた。
銃という「冷たい暴力」ではなく、火炎瓶という「原始的で泥臭い狂気」。
それこそが、彼ら猟犬に最も相応しい武器だった。
「……へへッ。見てみろよこのダンプ。これで成田のバリケードごと、あの裏切り者のサブを燃やし尽くしてやる……!」
「俺たちはもう、ただの過激派じゃねえ! この国のインフラを守る『正義の尖兵』だ!!」
【大義名分】という名の最悪の麻薬は、彼らから一切の「躊躇い」を奪い去っていた。
自分たちが、かつて唾を吐いていた『資本主義の札束』を後生大事に握りしめ、巨大資本の用意した『言い訳』を信じ込み、資本主義の流通網で買った資材で、インフラを守るために暴走を始めている。
その【究極の矛盾と皮肉】に、彼らは誰一人として気づいていない。
ただ純粋に、ヒーロー気取りで「地獄行きの片道切符(装甲ダンプ)」を磨き上げているのだ。
***
同じ時刻。品川・京急本社の高層階。
「……素晴らしい。彼らは『銃』という安直な力を捨て、自らのアイデンティティたる『火炎瓶』を選んだか。実に彼ららしい、美しくも滑稽な原点回帰だ」
報告書を読みながら、五代は腹の底から愉快そうにクククと笑い声を漏らした。
「……さあ、泥沼の幕張で産声を上げた悪魔の鉄屑どもよ。……存分に、その資本主義の牙を剥きたまえ」




