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第233話 :泥濘のカルテル 〜幕張・眠らない要塞と、すり減る看板〜

千葉・幕張。

『親会社』から150名の増援を投入し、重武装でコンクリートプラントの廃墟に突入してから……すでに5日が経過していた。

当初、やんちゃな方々の代表(組長)は「一晩で終わる」と踏んでいた。

いかに相手が狂っていようと、たかだか数十人の素人のガキ(クズ)どもだ。数の暴力と本職のプレッシャーで完全に制圧できるはずだった。

しかし、幕張の現実は、彼らの『ビジネスとしての暴力』のセオリーを完全に嘲笑っていた。

「……クソッ! 追え! あの鉄骨の裏に逃げたぞ!!」

深夜の廃墟。懐中電灯と鉄パイプを握りしめた『やんちゃな社員たち』の怒号が響く。

しかし、彼らが足を踏み入れた瞬間、足元の泥水の中に仕掛けられていた廃材のバリケードが崩れ、けたたましい金属音が鳴り響いた。

「ひゃははははッ!! こっちだ資本家の犬どもォォッ!!」

声のした頭上を見上げると、そこには血と煤で顔を真っ黒に塗った若者たちが、コンクリートミキサー車の残骸の屋根に立ち、奪った猟銃と火炎瓶を構えていた。

「撃て! あのクズどもから弾を奪え! 全部、成田のサブの脳天にぶち込むための資金カネだァァッ!!」

パリンッ! ドゴォォォンッ!!

無数の火炎瓶が雨のように降り注ぎ、やんちゃな社員たちの周囲が瞬く間に火の海と化す。

炎に包まれ、パニックに陥って陣形が崩れたところへ、若者たちは獣のような雄叫びを上げて飛び降りてきた。

彼らは「勝つこと」や「生き残ること」すら考えていない。ただ、一撃でも多くやんちゃな方々を殴りつけ、車や武器を奪い取ることだけを目的に動いている。

鉄パイプで頭を殴られ、腕の骨が折れるような鈍い音が響いても、若者たちはニタニタと笑いながら相手の喉元に食らいついていく。

「ヒィィッ!? 離せ、このイカれ野郎!! 痛覚がねえのか!?」

「……成田……権藤……殺す……ブッ殺す……ッ!!」

若者たちのうわ言のような呪詛と、本職であるはずのやんちゃな方々の悲鳴が、終わりのない夜の幕張に交錯する。

***

翌朝。プレハブの仮設事務所。

代表の前に置かれた報告書は、日に日にその「赤字額」を膨らませていた。

「……代表。昨夜のパトロール部隊も、奇襲を受けて半壊です。親会社からの応援組も、すでに30人以上が怪我で戦線離脱。奪われた車両は、この5日で計8台になります……」

現場責任者の声は震え、その顔には深い疲労の色が刻まれていた。

連日連夜のゲリラ戦。いつ、どこから奇襲されるか分からない極度の緊張状態。

親会社から借り受けた高級車や武器が次々と奪われ、破壊されていく。

「……どうなってんだ。あいつらはメシもまともに食ってねえはずだぞ!? なんであんなに動けるんだ!!」

「分かりません……ただ、あいつらの目は、もう人間を見ていません。俺たち(やんちゃな企業)を、ただの『成田へ行くための物資エサ』としか思ってないんです……」

利益シノギなど1円も出ない。ただ『看板メンツ』を守るためだけに、莫大な資金と人材を溶かし続ける無間地獄。

撤退すれば同業他社から笑われ、戦い続ければ組織の体力が削り取られていく。

代表は、胃の奥から込み上げる不快な酸液を飲み込みながら、震える手で血圧の薬を口に放り込んだ。

***

同じ時刻。品川・京急本社の高層階。

「……素晴らしい。やはり、ゲリラ戦こそが非対称戦争の華だね」

防犯カメラからの映像と、ダミー会社経由で集めた「やんちゃな企業の赤字額」の推移グラフを眺めながら、五代は極上の笑みを浮かべていた。

「やんちゃな方々も、今頃気づき始めているだろう。自分たちが『狩る側』ではなく、狂犬に物資を供給するための『狩られる側』になってしまったことに」

成田が、冷淡な声で書類をめくる。

「親会社のメンツがある以上、彼らはすぐには引けません。このまま幕張で、組織の限界まで体力をすり減らすことになります」

「ええ。狂気は、合理的なビジネスをゆっくりと絞め殺す。……さあ、彼らのプライドという名の骨が完全に軋み、折れる音を聞かせてもらおうか」

幕張の泥沼は、まだ底を見せていなかった。

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