第232話 :泥濘のカルテル 〜やんちゃな親会社の意地と、血塗られたコンクリート要塞〜
千葉・幕張。
リーダーの若者が、やんちゃな方々の『現場責任者(若頭)』に牙を剥いてから数日。事態は、地元を仕切る『やんちゃな企業』の想像を絶する最悪の方向へと転がり落ちていた。
「……代表。申し訳ありません。昨夜もウチの若い社員が3人、パトロール中に頭をカチ割られました。ダンプも1台、またあのガキどもに持っていかれました……」
プレハブの仮設事務所。頭に包帯を巻き、目の下に濃いクマを作った現場責任者が、灰皿にタバコを押し付けながら『代表』に報告する。
代表の顔は、怒りで赤黒く染まっていた。
「……たかが数十人の、カネも武器もねえ素人のガキどもだぞ!? なんで広域に事業を展開するウチの屈強な社員たちが、毎晩毎晩狩られてんだ!!」
「奴ら、マトモじゃありません。教育的指導(脅し)が一切通じない。殴られても笑いながらウチのモンに噛みついてくる……。完全に狂ってます」
代表は、机の上の『2億円の請求書(借金)』をビリビリと破り捨てた。
「業務の問題じゃねえ……これはウチの『企業ブランド(メンツ)』の問題だ!! ここでガキどもに舐められたまま幕張から引いたら、ウチは同業他社から笑いモンになる! ……『親会社(本家)』から応援を呼べ。頭数揃えて、あの廃墟ごとガキどもをミンチにしてやる!!」
彼らにとって「看板」は命。
それが、彼らを最も深く、最も凄惨な泥沼へと引きずり込む致命的な悪手だった。
***
その日の深夜。
幕張の湾岸に、他県ナンバーの黒いベンツやワンボックスカーが数十台、ズラリと列をなして到着した。
親会社から呼ばれた総勢150名を超える、重武装した『超・やんちゃな方々』の増援部隊である。彼らは木刀、鉄パイプ、さらには猟銃まで持ち出し、意気揚々と若者たちが潜伏する「コンクリートプラントの廃墟」へと足を踏み入れた。
「おうおう、どこに隠れてやがるクソガキども! 全員ひきずり出して、東京湾の底にコンクリ詰めで沈めてやる!!」
増援部隊のやんちゃな社員たちが、サーチライトで廃墟を照らしながら進む。
しかし、そこはすでにただの廃墟ではなかった。
ガシャンッ!!
「うわあっ!?」
先頭を歩いていた男が、足元のワイヤーに引っかかった瞬間。
頭上のクレーンから、数百キロの『コンクリートの塊』が轟音とともに落下してきた。間一髪で避けたものの、飛び散った破片で数名が血を流して倒れ込む。
「な、なんだ!? トラップか!?」
「上だ! 上から何か降ってくるぞ!!」
パリンッ! パリンッ!
暗闇の足場の上から、無数の火炎瓶が雨のように降り注いだ。
燃え上がる炎に照らし出されたのは、黒焦げになったミキサー車や鉄骨を複雑に組み上げて作られた、迷路のような【幕張要塞】の姿だった。
「ひゃはっ……! 来た来た、資本家の犬どもがいっぱい来やがった……!!」
「武器だ! あのクズどもから車と武器を奪え! サブを殺すために……成田へ行くために……ッ!!」
炎の向こう側から、血と泥と煤で顔を真っ黒にした若者たちが、ゲラゲラと笑いながら飛び出してきた。
彼らはもはや人間ではなく、完全にこの廃墟と同化した『猟犬』だった。
仲間がやんちゃな方々の鉄パイプで殴り飛ばされても、一切怯むことなく、逆に相手の顔面にドライバーを突き立て、そのまま奪った猟銃で別の男の足を撃ち抜く。
「ヒィィッ!? な、なんだこいつら!!」
「痛覚がねえのか!? 撃たれても笑ってやがるぞ!!」
圧倒的な数と装備を誇るはずの『親会社の増援部隊』が、地の利と狂気を完全に掌握した数十人のガキどもの前に、パニックに陥り、次々と悲鳴を上げて崩れ落ちていく。
***
同じ時刻。品川・京急本社の高層階。
暗視カメラを搭載した防犯カメラからの映像(幕張の凄惨な市街戦)をモニターで眺めながら、五代は深夜にも関わらず、極上の笑みを浮かべていた。
「……いやぁ、素晴らしいね。やんちゃな方々も意地になっている。だが、組織の『看板』を守るための利益度外視の戦いは、企業を一番早く破滅させるんだよ。……彼らは自ら、底なしの赤字の沼に全身まで浸かってしまった」
成田が、冷淡な声で付け加える。
「親会社からの増援により、若者たちの『実戦経験』と『狂気』は、さらに純度を高めていくでしょう」
「ええ。伝統的なやんちゃ企業という最高級の砥石が、彼らを『成田』へ送るための最も鋭利な刃物に育ててくれている。……さあ、彼らがどこまでこの赤字とノイローゼに耐えられるか、じっくりと拝見しようじゃないか」
幕張の夜空を、焦げたコンクリートの匂いと、やんちゃな方々の絶望の悲鳴がどこまでも高く焦がしていった。




