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第222話 :越権の機動隊と、官僚のドス黒い野心

東京、霞が関。

大蔵省(現・財務省)主計局の重厚な執務室で、次期事務次官の座を狙う野心家・桜田は、受話器を耳に当てたまま、不快そうに眉間を寄せた。

「……千葉の過激派が、京成のトップを拉致しただと?」

電話の主は、京急の五代である。

桜田にとって、五代は自分の描く「幕張の巨大インフラ開発」という絵図面を実現するための、最も優秀で汚れ仕事の利く『猟犬』だった。

『ええ。連中、どこから情報を嗅ぎつけたのか、我々が幕張に引こうとしている新しい鉄路の予定地で暴れ回るつもりのようです。……千葉県警は、成田闘争のトラウマで完全に及び腰。このままでは、桜田先生が心血を注いだ幕張の再開発プロジェクトが、地場のダニどものせいで白紙に戻りかねません』

五代の声は、相変わらず反吐が出るほど慇懃無礼だった。だが、その言葉が持つ意味は、桜田の『出世欲(逆鱗)』に完璧に火をつけた。

「……ふざけるな」

桜田は、ギリッと奥歯を噛み鳴らした。

幕張新都心の開発は、彼が事務次官のイスに座るための「プラチナチケット」だ。そこに莫大な国家予算を注ぎ込み、天下り先を確保し、政財界に巨大な恩を売る。

その自分の輝かしいレールを、千葉の泥沼で這いずり回っている三流のテロリストどもが塞ぐなど、絶対に、万に一つもあってはならないことだった。

「地場のダニどもに、国家のインフラが止められてたまるか。……五代、アジトの場所は割れているのか?」

『ええ。私の手飼いの連中が、すでに特定しております』

「よし。お前はそのまま現地で待機しろ。……千葉の田舎警察が使えないなら、『使える猟犬』をくれてやる」

ガチャン、と乱暴に受話器を置いた桜田は、即座に別の直通電話を手に取った。

相手は、警察庁のトップ(長官)である。

「……私だ。大蔵省の桜田だ。今すぐ『警視庁』の機動隊を千葉の幕張へ出動させろ」

挨拶も何もない、完全な命令だった。電話の向こうで、長官が狼狽する声が漏れる。

『さ、桜田局長!? 無茶を言わないでください! 千葉には千葉県警の管轄が……東京の警視庁が越境して突入するなど、前代未聞の掟破りです! 議会で叩かれますぞ!』

「管轄だと? 寝言は予算委員会を通してから言え」

桜田の声は、氷のように冷酷だった。

「いいか。これは治安の問題ではない。『国家プロジェクトの防衛』だ。幕張の開発がテロリストに潰されれば、来年度の警察庁の予算枠がどうなるか……君ほどの賢い人間なら分かるだろう? 管轄の壁など、私が札束で叩き壊してやる」

『……っ!!』

「四の五の言わず、東京の武闘派(マル暴と機動隊)をフル装備で江戸川を越えさせろ。千葉のダニどもに、国家権力という本物の『暴力』を教えてやれ」

***

数十分後。千葉県警本部。

未だに「どうやって穏便に説得するか」などと生温い会議を繰り返していた彼らの耳に、けたたましいサイレンの音が飛び込んできた。

「な、なんだ!? 暴走族か!?」

窓に駆け寄った県警の幹部たちは、自分たちの目を疑った。

県警本部の目の前の国道を、金網の張られた青と白の大型輸送車——【警視庁(TOKYO)】のロゴが入った機動隊のバスが、数十台という異常な規模で、連なるようにして幕張方面へと爆走していくではないか。

「ば、馬鹿な! なぜ東京の機動隊が千葉に!? 越権行為だぞ!!」

パニックに陥る千葉県警を置き去りにして、国家という名の巨大な暴力装置は、一気に幕張の泥沼へと雪崩れ込んでいく。

***

その頃。幕張の予定地近くに停めた黒塗りのベンツの中で。

五代は、遠くから近づいてくる大量のサイレンの音を聞きながら、隣で蒼白になっている若き技術者・成田の肩をポンと叩いた。

「さあ、成田くん。極秘データをいただいたお礼だ。……我が国の誇る最強の『お掃除部隊』の到着だよ」

五代の酷薄な笑みとともに、インフラ屋の悪魔的頭脳と、国家の暴力が完全に結託した。

得体の知れない過激派たちが巣食うアジトへ向け、一切の容赦のない『蹂躙(奪還作戦)』が、今まさに始まろうとしていた。

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