表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/65

第21話 動く歩道の革命と、見えない信号機(C-ATS)

今日は10話投稿します。

 昭和43年(1968年)、冬。

 横浜ランドマークタワーの開業から一ヶ月。

 人の流れは予想を遥かに超えていた。

 だが、それは新たな「渋滞」を生んでいた。

 桜木町駅および、ランドマーク地下駅。

 改札を出た群衆が、ビルへ向かう通路で詰まっている。

 当時はまだ、スムーズな歩行者動線が確立されていなかったのだ。

「……専務。クレームです。『駅からビルまでが遠い』『雨の日に濡れる』と……」

 営業部長が頭を抱えている。

 俺(五代)は、現場の混乱を見下ろした。

 確かに遠い。桜木町駅からランドマークまでは数百メートルある。

 地下駅からも、エスカレーターの容量が足りていない。

「……歩かせるな」

 俺は言った。

「人間を運ぶのは電車だけじゃない。……駅とビルを繋ぐ血管が必要だ」

「血管? 地下通路ですか?」

「いや。もっと未来的で、楽しいやつだ」

 俺は一枚のスケッチを描いた。

 『動く歩道トラベレーター』。

 そして、ビル同士を空中で繋ぐ**『ペデストリアンデッキ(空中回廊)』**だ。

「桜木町からランドマークまで、屋根付きの『動く歩道』を通す。……これなら雨にも濡れず、景色を楽しみながら移動できる。未来都市の入り口に相応しいアトラクションだ」

「金がかかりますよ……」

「出せ。みなとみらいの価値を上げるための必要経費だ」

        * * *

 一方で、地下では別の戦いが進行していた。

 **横浜市営地下鉄ブルーライン**との接続協議だ。

 市役所の担当者は、頑固だった。

「京急さん。地下鉄の駅と、ランドマークの地下街を直結? ……前例がありませんな。管理区分が複雑になりますし、防災上の壁も……」

「壁なら壊しましょう」

 俺は強引に迫った。

「客にとって、京急も市営地下鉄も関係ない。……乗り換え改札を無くし、同じフロアで移動できるようにする。これが『ターミナル』のあるべき姿だ」

 俺は、未来の横浜駅や新宿駅の「迷宮ダンジョン」を知っている。

 あんな不便なつぎはぎ構造にはさせない。

 最初から「統合された地下都市」として設計するのだ。

「……分かりました。市長も『みなとみらいを成功させろ』と言っていますし……協力しましょう」

 こうして、地上には「動く歩道」、地下には「シームレスな接続通路」が建設されることになった。

 これで、みなとみらいへのアクセス問題ラストワンマイルは解決だ。

        * * *

 だが、俺の本丸はそこではない。

 京急本社・技術研究所。

 俺は、技術部長の加賀谷と、信号担当のエンジニアたちを集めていた。

 ホワイトボードには**【 140km/h 化計画 】**の文字。

「……専務。無茶です」

 信号課長が、悲痛な声を上げた。

「140キロで走るとなると、制動距離(ブレーキ距離)は600メートルを超えます。今の『色灯式信号機(赤・黄・青)』では、霧が出たり、運転士が見落としたりしたら即・追突です」

 当時の信号システム(ATS-B型など)は、「赤信号の直前で警報が鳴る」程度の単純なものだった。

 高速運転には全く対応していない。

「人間の目に頼るな」

 俺は言った。

「140キロの世界では、人間はミスをする。……だから、機械にブレーキをかけさせる」

 俺は、未来の技術資料(五代メモ)を叩きつけた。

 『C-ATS(デジタル伝送・連続制御式ATS)』

「線路に電流を流し、デジタル信号で『あと何メートルで止まれるか』という情報を常に車両へ送り続ける。……もし速度オーバーしたら、自動的にブレーキがかかるシステムだ」

 エンジニアたちがざわめいた。

「デ、デジタル信号!? コンピュータ制御ですか? そんなもの、国鉄の新幹線(ATC)くらいしか……」

「新幹線のATCよりも、さらに高度なものを作る」

 俺は断言した。

「新幹線のATCは『段階的』だ。210キロ→160キロ→70キロ……と、階段状に落ちる。だが、それじゃあ過密ダイヤに対応できない」

「俺たちが作るのは、もっと滑らかな制御だ。前の電車が動けば、それに合わせてブレーキパターンもリアルタイムで変化する。……名付けて**『移動閉塞ムービング・ブロックもどき』**だ」

 加賀谷が眼鏡を外して、レンズを拭いた。

「……専務。あんた、どこの未来から来たんですか? そんな発想、今の鉄道工学にはありませんよ」

「思いついたんだから仕方ないだろう。……どうだ、やれるか?」

 加賀谷は、技術屋の顔に戻ってニヤリと笑った。

「……面白ぇ。やりましょう。国鉄の技術屋連中が腰を抜かすような、世界最強の信号システムを」

「よし。予算は青天井だ」

 俺は立ち上がった。

「みなとみらいの地下開発と並行して、全車両へのC-ATS搭載工事を進める。……期限は2年だ」

 この日、京急の運命を決める二つのプロジェクトが動き出した。

 一つは、街を快適にする**「動く歩道」。

 もう一つは、安全に暴走(爆走)するための「見えない手(C-ATS)」**。

 140km/hへの道は、まず「止まる技術」から始まったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いきなり10話は信じられないような投稿速度ですね無理しないでください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ