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第102話【鎌倉編・後日談②】国家の機能不全と、生きる屍(ゾンビ帝国)

 昭和52年(1977年)、冬。

 鎌倉事件(数万人規模の暴動)から数日後。霞が関の運輸省庁舎は、飛び交う怒号と鳴り止まない電話のベルで、完全に野戦病院と化していた。

『……此度の国鉄の不祥事、および暴動を招いた責任を痛感し、私、運輸大臣は本日をもって辞任いたします……!』

 テレビ画面の中で、フラッシュの波に包まれながら大臣が頭を下げている。

 監督官庁のトップが飛んだ。これは、官僚たちにとって「指揮系統の完全なる崩壊パニック」を意味していた。

「……大臣が辞めたぞ!! 次のポストが決まるまで、省内の決裁はどうするんだ!」

「……国鉄の連中が泣きついてきています! 『駅舎の修繕費と赤字の補填に、国からの特別助成金(税金)を出してくれ』と!」

 官僚の一人が、書類を床に叩きつけた。

「……ふざけるな! あんなに客から石を投げられる組織に、これ以上国民の血税を注ぎ込めるか!! いそっそ解体してしまえ!!」

 だが、部屋の奥に座っていた事務次官が、重々しく首を横に振った。

「……解体はできん。国鉄は、全国に数十万人の職員と、その家族という『巨大な票田』を抱えている。……与党の政治家どもが、それを手放すはずがない」

 それが、昭和という時代における国家権力の限界であり、腐敗の正体だった。

 どんなにサービスが最悪でも、どんなに暴動が起きようとも、「国鉄は絶対に潰れない(潰せない)」。政治家の介入により、莫大な税金という点滴を打たれ、無理やり延命させられるのだ。

 しかし、それは「復活」ではない。

 客からの信頼は完全に地に墜ち、ただ税金を食いつぶしながらレールの上を這いずるだけの**「生きるゾンビ」**へと成り下がった瞬間だった。

        * * *

 【京急本社・社長室】

「……見事なゾンビの誕生ですね、五代さん」

 高見(相鉄)が、新聞の『国鉄へ巨額の特別助成金投入』という見出しを見て冷笑した。

「……あいつらは、税金で駅のガラスを直し、またふんぞり返るつもりでしょう。……結局、国鉄という巨大な看板を完全に爆破することはできなかった」

「……それでいいんだ、高見」

 五代は、ブランデーの入ったグラスを揺らしながら、不敵に笑った。

「……我々の目的は、国鉄の会社を潰すことではない。『客の心の中にある、国鉄への信仰』を破壊することだ。……鎌倉・湘南の住民は、もう二度と好んでゾンビ(国鉄)には乗らない。多少運賃が高くとも、あの暴動の朝、段ボールで自分たちを運んだ我々(私鉄)を選ぶ」

 五代の言う通りだった。

 暴動以降、相鉄と京急の乗客数は爆発的に増加し、定期券の切り替えが相次いでいた。勝負は、物理的な破壊から「社会的信頼の完全な奪取」へと移行し、五代たちは鎌倉・湘南エリアの覇権を完全に手中に収めたのだ。

「……さあ、鎌倉の掃除は終わった」

 五代はグラスを置き、一枚の分厚い書類ファイルの埃を払った。

 その表紙には**『相模鉄道・京浜急行電鉄 連合線 小田原延伸特許申請書』**と書かれていた。

「……大臣のクビが飛び、霞が関がパニックに陥っている今……国家の監視の目は完全に『盲目』になっている。……最高に美味しいドサクサ(政治的空白)だ。狩りに出るぞ」

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