将棋と投資セミナー-1
「先生、相談があるんですよ」竹内くんは「歩」を進めた。将棋漫画を読んで始めたようだ。嬉しそうに将棋盤を持って、僕の家に上がり込んできた。
「じゃんじゃんきたまえ。先人というのは若者の糧となるために存在しているんだからね」僕も適当に「歩」を進めた。将棋は小学生の時、父とやって以来だ。駒の動きなどは分かるが、戦法などは全く知らない。
「明らかに怪しい投資セミナーに誘われているんですけど、それに参加するかどうか悩んでいて」
「悩むまでもない問題じゃないかね」僕は即答する。
「そうなんですよ。悩むまでもない問題なんですよ。けどそれに悩んでしまうのが人間の弱さなのかなって」
「主語が大きいよ。全人類を巻き込まないでくれ」
「じゃあ、男のロマンってやつで」
「男でもでかいな。だいたい人類の二分の一じゃないか」
「男が人類の二分の一だなんて、ジェンダー系の人に怒られますよ」
「それは確かに」僕は肩をすくめる。
「日本人としての矜持ってやつですかね」
「日本人の矜持も落ちたものだね。先祖に申し訳が立たないよ」
「日本人なんてそんなもんですよ。今の不甲斐なさを過去の幻想で覆そうと思ったって無駄ですよ。バブルぐらいの日本人なんて、金とブランド物の話しかしない民族だと思われてたんですから」
「もっと昔に潜っちゃおう。侍とかが良いんじゃないかな」
「侍こそ典型的な美化ですよ。農民から税巻き上げて、人殺してただけじゃないですか。そんな奴らの精神性なんて死んでもごめんですよ」
「竹内くんって侍になんかされたの?」
「多分、前々世ぐらいでチェストされてますね」
「犯人は薩摩藩の人間の可能性が高いね」
竹内くんはため息を吐いた。
「話を戻しましょう。僕が投資セミナーに参加しようと思っていることについてどう思いますか?」
「絶対に辞めたほうが良いよ。投資なんてプロでもほとんど勝てない世界なんだから。素人がセミナーに行くだけで勝てたら世話ないよ」僕も過去に投資で生きていこうと思ったことがあった。
「けど人の才能ってどこにあるか分からないじゃないですか。俺は今までラクロスをやったことがないんですけど、もしかしたらラクロスの才能がある可能性はあるじゃないですか」
「確かに、それは否定できないね」
「それと同じで投資の才能があるかもしれないじゃないですか」竹内くんは得意げに言ってきた。
「竹内くんに投資の才能がある可能性はもちろんあるよ。けど怪しいセミナーに参加することで被る被害と、竹内くんが投資で成功する可能性を考えたら、参加しないほうが良いと思うんだ。そのセミナーにズブズブになって借金を抱え、リボ払いを繰り返し、友人を失い、最終的に犯罪に手を染める可能性の方が、投資で成功する可能性より高いと思うんだ。リスクがデカすぎるよ」
「確かに、先生の言う通りかもしれません」竹内くんは少しだけしょんぼりと肩を落とした。
「分かってくれたかい?」僕は竹内くんに同情する。将来に悩む大学生を、こういった道に引き込む人間に、僕は嫌悪感を覚える。
「けど、もう行っちゃったんですよ」
僕は動揺して、手に持っていた「歩」を意図しないところに置いてしまう。
「あ、先生二歩ですよ」竹内くんが嬉しそうに指摘してくる。




