AIとジャンプ
「最近A Iの成長が著しいじゃないですか」竹内くんはコタツに足を突っ込み、餅を食べ、半纏を着るという完全なお正月スタイルになっている。後いくつか寝たらお正月だが、まだお正月ではない。
「そうだね」見当違いなことを答えては笑われていたA Iの性能は、どんどん上がっているらしい。
「思ったんですよ。俺が大学を卒業し社会に出る時には、能力のない新卒なんていらないのではないかと」
「なるほど。竹内くんって何年生だっけ?」
「大学二年です。大学生にとって一番自由で怠惰であるべき時間です」
「あるべき時間の通りに過ごせているじゃないか。おめでとう」
「ありがとうございます。けど最近、俺の周りの奴らでも、チラホラと就職活動なるものを初めている不届きな輩がおりまして」
「二年の冬からか。確かに、熱心な層はこれぐらいから始めたりしていたね」僕は大学の時同じクラスにいた島田くんを思い出す。島田くんはずいぶん早くから自己分析やエントリーシートやらの話をよくしていた気がする。島田くんの就職活動がうまく行ったと良いのだが。
「そうなんですよ。そういうけしからん奴らを見ていると、俺も今のままで良いのかと不安になってきたりしてしまうわけで。大学の講義室で周りの会話の内容に耳を傾ければ、やれ早期インターンだなんだとの会話が聞こえてくるわけですよ。ああやって人の青春に水を差す、いやあれは火ですね。人の青春に火をつけて焦らせてくる連中はどうにかして取り締まれないものですかね。何かの罪で」
「人は思わぬところで他人を不快にさせてしまう生き物だからね。けど焦ったのなら、君も就活を始めれば良いじゃないか」僕はつまらない正論を返す。
「先生、つまらないことを言いますね」
「けど、つまらないことって役に立つと思うんだ」
「それはそうかもです。けどまあ、俺も得手してつまらない人間なので、就職活動につま先でツンツンしてみたわけですよ」竹内くんがこたつの中で、僕の足をツンツンしてくる。
「せめて指先でツンツンしてあげなよ」
「手始めに業界分析やら何やらを始めたわけですよ。現状行きたい業界など無なので、興味のある分野を探そうと」
「良い試みだと思うよ」僕は心の底からそう思った。僕の大学生活はひたすら怠惰なだけで抑揚を欠いていたので、時間の切れ目がほとんど分からず、自分が大学二年の時に何をしていたかなど思い出せない。
「そしたらどの業界もですよ。A Iの脅威が何たらみたいのが出てきて。で、今度はA Iの方が気になってA Iを調べ始めたら、もうA Iにできないことはないんじゃないかと思えてきたんですよ」
「それこそA Iエンジニアになれば良いじゃないか。文系だとしても大学二年からしっかり勉強すれば、立派なエンジニアとして就職できるよ」
竹内くんはため息をつく。
「甘いですね先生。A IエンジニアもA Iの発展によって職を奪われているんですよ」竹内くんがそう言って見せてきたスマホの画面には、アメリカの有名企業でA Iの発展によりA Iエンジニアの半数が首になったという記事が載っていた。
「マッドサイエンティストが自ら生み出した怪物に殺される展開じゃないか」
「A Iエンジニアをマッドサイエンティストにしないで下さいよ」
「それはそうだね。ごめんA Iエンジニア」僕は全世界のA Iエンジニアに謝る。けど何人かはマッドなサイエンティストがいそうな気がする。
「で、A Iが発達したなら俺のような何の才もない大衆は、もう働けなくなるのではないかと思った訳ですよ」
僕は自分の仕事を想像してみる。コンビニの定員はA Iでもできてしまう気がする。A Iですらない、ただの無人レジだっているのだから。あいつも立派な店員として役割を全うしている。
「詳しいことは分からないけどさ、ウタさんに聞いてみるのが良いんじゃないかな。あの人の住んでた星、地球より大分ハイテクそうだし。もうA Iもとんでもない広がりを見せてそうじゃん」
「確かに、それこそジャンプを読みたいんじゃなくて、A Iに星が乗っ取られたのかもしれないですしね。そうと決まれば先生、あの公園に行きましょう」
「いや、寒いからここで良いよ。僕ウタさんに電話するから」僕はスマホを取り出した。
「先生ウタさんの連絡先持ってたんですか?」
「あの人、うちのコンビニによく来るんだよね。それで連絡先を交換した」
「なるほど」
自分から聞いたんだから、もっと興味のある感じのリアクションをとってほしいと思う。僕は少ない連絡先の中からウタさんを見つけ、電話をかける。何となくスピーカーにした。ウタさんはすぐに電話に出た。
「はいもしもし」
「どうも田中です」
「おー田中っち。どしたどした?」
「いやちょっとウタさんに聞きたいことがありましてね、電話で長々と話すのもあれですから、ちょっとうちに遊びにきませんか?ジャパニーズトラディショナル文化の餅も紹介しますよ」
「えー餅!まじ上がるんですけど!行く行く!」
「喜んでもらえそうでよかったです。じゃあうちの住所送るんで。待ってます」
「超チョベリグなんだけど。了解」ウタさんはそう言うと電話を切った。
「ウタさんって、現実では見たことのないコッテコテのギャルみたいな話し方してましたっけ?こないだ会った時は、日本語を覚えたての中国人みたいな話し方してませんでした?」
「キャラ付けに迷走中なんじゃないかな?そもそもウタさんって何であんなに日本語上手なんだろうね」僕はウタさんに住所を送った。すぐにアニメのキャラクターのスタンプが返ってきた。
「まあ宇宙人ですからね」
「確かに、宇宙人なら何とかなるか。なんかすごい翻訳機とかありそうだしね」
「あーありそうですね。それかもう頭良すぎて一瞬で理解できちゃうとか」
「あーありそうだね」そんなこんなでダラダラと話を続けていると、インターフォンが鳴った。モニターを確認するとウタさんだ。僕は「入ってください」と声をかけた。今更になり、初めて女性が自分の部屋に入ることに僕は少し緊張し始めた。
「お邪魔するよ」ウタさんが玄関から入ってきた。
「どうぞどうぞ」と僕。
「汚いところですいません」と竹内くん。僕は竹内くんに一応軽蔑の目を向けておく。
「いやー田中っちの家に読んでくれるなんて感激だわ。マジ感謝!」
「ウタさん、その話し方気になるんで元に戻してください」
「分かったよ。細かい男ね、田中は」ウタさんはそう言うとこたつの前まで移動した。
「このUFOみたいな形したやつ、私知ってるよ。これコタツね」
「さすがウタさん、日本文化のプロですね。これがこの間俺と先生が買いに行ったやつですね」
「足入れてみていいの?」
「もちろん」竹内くん、きっとそれは僕のセリフだ。寛大な大人の心で許してはやるが。
ウタさんはこたつの布団を捲り、中を覗いてる。
「何もいないから大丈夫ですよ」僕はウタさんに声をかける。
ウタさんは座ると恐る恐る足をこたつの中に入れた。僕と竹内くんはその姿をじっと見ていた。ウタさんはコタツに足を入れ数秒固まると、
「温い。温すぎるよ。これは完璧だよ」と言った。
「そうでしょう。これがジャパニーズコタツですよ。俺が先生にこれを買うよう説得したんですよ」確かに竹内くんが気づかせてくれたが、買ったのはあくまで僕だ。なので、竹内くんに偉そうにする権利はない。
「みんなであったまりましょう」僕と竹内くんもコタツの中に足を入れた。一度コタツの外に出ると、再びコタツのありがたみに気づかされる。人間というのは得てして、常にあるもののありがたみに気づける人はほとんどいない。そんな人間が大多数を占めてしまったら、きっと資本主義社会は崩壊してしまう。
「田中、餅食べようよ」ウタさんが急かしてくる。
「良いですよ。準備します」僕は再びコタツから足を抜かねばならなくなった。けどこのコタツとの別れが、コタツへの愛をより一層高めることになるのだ。
結局この後、A Iが将来どうなるかという知的でインテリジェンスを香らせる話はせずに、今週のジャンプの話をして終わった。生涯楽しくジャンプの話ができれば、きっとその人の人生は安泰なのだろう。そのためには、ジャンプが面白くあり続けることと、僕が少年の心を失わないこと、ジャンプの話をすることができる友人がいることが必要だ。




