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将棋と投資セミナー-3

「先生ってブラックコーヒー飲むのが格好良いと思うタイプですか?」喫茶店の中で竹内くんがオレンジジュースを飲みながら聞いてくる。

「典型的なそのタイプだね。けど不思議なもので、格好つけて飲んでいたブラックコーヒーに、いつの間にか舌がなじみ始めちゃったんだ。だから今は格好つけが6割、美味しさが4割ってとこかな」僕はそう言うとアイスコーヒーを一口すすった。

「始まりはいつだって格好良さから始まりますよね」

「タバコと一緒だね」

「なんとも言えない格好良さがありますよね」

「嫌煙家の僕も、死に際はタバコと共にと思うもんね。雨に打たれたコンクリートの上で、胸元から血を流しながら、くしゃくしゃになったタバコに火をつけるんだ。悪くなかったってね」

「何かの映画のワンシーンにありそうですね」

「きっと僕も何かの映画のワンシーンに影響を受けたんだと思うよ」自分の記憶を軽く漁ってみるが、残念ながらその映画のタイトルも場面も思い出すことができない。たぶん洋画だろう。

「人格ってそういうものの集積なんでしょうね」

「人は取り込んだもので形成されるだろうからね。何も食べ物だけが人を作るわけじゃない」

「島田は何を食べてマルチにのめり込んだんですかね」

「キラキラした世界を観すぎたのかな。島田にも島田なりの事情があるんだよ。僕らは結果だけにフォーカスをしてしまうけど、結果を見るならせめて過程も見てあげないとね」

「島田は来ると思いますか?」竹内くんはスマホで時間を確認した。約束の時間からはもう5分過ぎている。

「来ないかもしれないね。来なかったらさっぱり諦めればよいじゃない」

「そうなったら、島田の悲しい過去でも想像しておきます」

「僕も脚本を手伝うよ。というか、なんて言って島田を呼び出したの」

「だましやがって、俺の二万円返しやがれです」

「それは来るわけないじゃないか」僕は少し大きな声を出してしまう。

「違う理由で呼び出して説得するより、最初から結論ファーストで言った方がシンプルで良いかなって。人生はシンプルにした方が良いって、まずは行動だって若くして成功した感じの人が言ってたきがするので」

「シンプルすぎるよ。竹内くんはもうちょっと丁寧に複雑にものごとを進めなよ。シンプルと行動が前を走りすぎてるんだから」

「なるほど。もっと将棋のように人生を歩めってことですか?」

「そうだよ。そういうことだよ」将棋のように人生を歩むとはどういうことかよくわからなかったが、僕は適当に返事をした。

「島田が来るまで将棋でもやりませんか?」竹内くんはそう言って、トートバックから将棋盤を取り出した。

「別に良いけどさ。こんな場所でわざわざアナログな手法でやらなくて良いじゃない。アプリでやろうよ」

竹内くんは僕の言葉に肩をすくめた。

「先生、見損ないましたよ。画面越しで将棋と向き合うようになったら、棋士としてはもう終わりですよ」

「僕は棋士じゃないし、現代の棋士は絶対にアプリを活用してるって」

「アナログならではの良さってあるじゃないですか。それにせっかく二人でこうやっているのに、互いにスマホの画面を見てるっているのは、なんだか寂しいですよ」

「今の言葉をすべての現代人に聞いてほしいね。僕が間違っていたよ」

「分かってくれたようで嬉しいです。将棋は魂だってことです」僕と竹内くんは、将棋盤を広げその上に駒を並べ始めた。

 将棋は僕が圧勝し、竹内くんは棋士としての引退を決断し、島田は喫茶店に来なかった。

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