17話 クラスマッチ 後半戦
残り3分で選手交代。涼と副会長が交代する。
点差は34‐0
麗子は点差、できるだけ広げないことで精一杯だった。
「ごめん。予想以上に取られちゃった」
「いいよ。別に。俺とお前ならこんな点差、ないのと一緒だろ♪」
「ふっ、言うようになったじゃん♪」
「一応、俺の足だけは引っ張んなよ、バカ姉貴♪」
「こっちのセリフよ♪」
隼人は涼が出てくるなり、涼にヤジを飛ばす。
「フッ、さっきキスしてた、ノロケが出たとこで何が変わんだよ!もうこの勝負は俺の勝ちで決まりなんだよ!」
涼は隼人の前に立ち、構える。
「騒ぐな、下手くそ。これからが本当の勝負だ!」
「何だと!てめぇ!」
試合再開!
隼人ボールのスタートで始まる。
隼人は涼の明らかな雰囲気の変化に少し恐怖を感じる。それはプレーしてた皆が感じるほどに。
冷気を放つような冷たいオーラとともに鋭い眼光。その眼光は獲物を狩るチーターのような目をしていた。
隼人は自分のドリブルか、仲間に一旦パスを出し、連携で抜くか悩みつつ、涼に対する注意がおろそかになる。周りのチームの位置を確認しようと視線を離した一瞬の隙を涼は逃さなかった。涼は隼人のボールをカットし、前に走り込む。
そして、麗子も涼を信じており、誰よりも早く前線へと駆け上がる。
涼はダンクシュート位置まで来るが、何とか隼人も追いつく。
「やってみろよ!カスが!!」
「バスケは1人じゃねぇ!」
涼は麗子にノールックパスを出す。
「ナイスパス!涼!」
麗子は華麗にスリーポイントを放つ。
バスケ経験者は確信した。涼は覚醒状態に近いと。
隼人チームは一旦タイムを挟む。隼人チームはかなり動揺していた。
「隼人!今のはたまたまだよな!」
「ノールックパスなんて、偶然いただけだろ!」
「うるせぇ!ちょっと静かにしろ!」
一方、涼チームは冷静に状況を整理していた。
「あんた今、どんな感じ?」
「体が空気みたいに軽くて、反射で動く感じ」
「マジか!?覚醒状態って親父から聞いたことあるけど、やっぱりすげぇな。」
「涼は元々のセンスもあるから、現状として止められるものは誰一人としていないだろうね」
「とりあえず、皆、チャンスがあったら、前に出て積極的にシュート狙え。リバウンドは全部取れるし、多少の無理があっても今の俺ならどうにかできそうな気がする。」
生徒会長は確認したいことを聞く。
「走り出すのは分かったが、合図とかいるのか?」
麗子は今の涼の状態を軽く話す。
「ホントに恐ろしい弟だわ..今の涼は空中からバスケコートを見ているような感覚なんでしょう?だから、あんなパス私に投げたんでしょ?」
「まぁ、そうだな。今はなんとなく周りの位置、全部わかる」
「まぁ、涼くんの感覚もすごいけど、それに合わせる麗子の感覚もヤバいよね?」
「私も多分だけど、さっきのパスで覚醒状態に入ったかな。涼ほどじゃないけど、体がいつも以上に軽くなった。」
涼は次の作戦を皆に伝える。
「次の隼人にダンク打たせるから、皆、外に展開してくれ。」
「はっ!?なんでだよ!?今、いい調子なのに、なんでそんな賭けすんだよ!」
「オッケー、了解!」
「だから、やるんだよ。相手チームはまだ、俺の力を信用しきってるわけじゃない。ここで隼人よりも完全に強いって証明すれば相手チームは必ず崩壊する。攻めるのはそこからだ。」
「もし、失敗したら、どうすんだよ!」
「バカね、あんた♪今の涼が失敗するわけないじゃない♪」
「その後で、ダンクシュート俺決めるから、パスよろしくな、麗子」
「そんなこといちいち言わなくても分かるわよ♪」
2人は今までが嘘のように仲のいい兄弟のような雰囲気を出しつつ、コートへ足を運ぶ。
タイム休憩が終わり、試合が再開される。
隼人チームからのスタートだ。
「さっきは油断したが、もうしねぇ。本気で潰してやるよ!」
「一度だけチャンスやってやるよ♪」
「チャンス?」
「ダンクシュート打たせてやるよ♪」
「はっ?」
「このまま何もできずに倒すのは可哀想だから、一度だけシュートのチャンスあげるつってんだよ♪」
「てめぇ!潰してやる!」
何がなんでも勝ってやる!こんなヤツに負けてたまるか!!
隼人はドリブルで中に切り込み、ダンクシュートを構える。隼人は渾身のダンクシュートを決めようとする。
「これで終わりだ!!」
やっぱりスゴイな...茜の力は...今でも背中がジンジンしてやがる..だからこそ負けられねぇ!
「こっちのセリフだ!!」
涼は見事に隼人のダンクシュートをブロック。
こぼれ球を麗子が取り、涼へ繋ぐ。隼人は負けたことに対して頭の整理が追いつかず、その場から全く微動だにしない。
涼はゴール下へ向かい、走り出す。
そうはさせまいと、隼人以外の全員が涼のマークに入る。当然、マークにはつくが、隼人じゃないと相手にならないことは分かっていたので、隼人が追いつくまでの時間稼ぎとしてカバーに入りつつ、微動だにしない隼人に必死に呼びかける。
「隼人!早く戻れ!」
「隼人!!」
「俺達じゃ、相手にならない!!」
涼自身、すぐに抜くこともできたが、隼人自身にしっかりと勝つところを見せつける必要があったので、わざと手こずっているように見せる。
隼人は仲間の呼びかけで、我に帰り、やっと涼を止めに走り出す。
そのタイミングで涼はドリブルで抜き去り、隼人とワンオンワンの状態をゴール下で作る。
「今からダンクシュートを打つ。そして、お前らには残りクウォーター1点も取らせねぇ!」
「1回止めくらいで調子のんじゃねぇ!」
「だったら止めてみろ!!」
涼は精一杯、足に力を込めてジャンプ。
隼人も精一杯の力を込める。
結果は涼が隼人の力を振り切る形で決める。
隼人チームは一気に窮地に陥る。周りも明らかに動揺しており、涼の狙い通りとなった。
涼は隼人チームに追い打ちをかけるため、絶望的な言葉を放つ。
「お前らがどう足掻こうが、俺は止められねぇ。」
このダンクシュートで相手チームは乱れ、隼人自身もパスミスや無理なシュートが多くなり、涼チームの一方的な逆襲が始まる。
第2クウォーター終わり、34-15半分近くまで縮めることに成功した。
休憩中、隼人チームは完全にチームの輪が崩れ始める。
「おい!どうすんだよ!ヤバイよ!」
「あと、19点もあるんだ!大丈夫に決まってる!」
「どこが大丈夫なんだよ!?そんな点差あってないようなもんだろうがよ!!」
「俺にキレんなよ!お前のパスミスが多すぎるからだろうがよ!!」
「お前もシュート外しまくってたじゃねぇーか!!なんだよ、あの変なフォームはよ!」
隼人はチームをまとめようと必死になる。
「黙れ!!お前ら!!喧嘩してる場合じゃないだろ!!!」
チームの一人がボヤく。それが隼人の逆鱗に触れる。
「...俺、副キャプテンに付いていっとけば良かった....」
隼人はボヤいたチームメイトを殴る。休憩終わりのブザーがなる。隼人の人を殴るという最低な行動がチームとしての形を完全に崩壊させた。それに比べ、涼チームの勢いは止まらず、残り1分程ついに逆転する。
34-35,
隼人は禁じ手に出ることを決意する。残り35秒、ダンクシュートの位置まで何とかこぎつける。
隼人は審判には見えないように涼の足を思いっきり踏みつける。
「これでお前の負けだ!」
「うっ...」
隼人のジャンプに涼が遅れてジャンプするが、上手く力が入らず決められてしまう。
点差は36-35。
隼人チームが歓喜する一方で、涼はその場にうずくまる。
残り30秒。麗子はタイムを挟む。
麗子はすぐさま駆け寄り、太一と共に涼の肩を担いで、ベンチへ運ぶ。
麗子は隼人が何をしたのかすぐに察しがついた。
「涼、足を見せなさい!」
「いいよ。別に。何もないから」
「いいから、早く!」
ここで見せたら、絶対に試合に出れなくなる。あとちょっとで勝てるのに、そんなの絶対に嫌だ!
茜は涼の靴下をそっと脱がす。涼も茜には抵抗できなかった。
涼の足は痛々しいほど、腫れており、青い内出血のような色をしていた。
「あんた、もういいんじゃない?反則した時点であいつの負けよ。正直、許せないけど、あんな奴、相手にするほうが間違ってる。」
「違う。間違ってるとか間違ってないとかどうでもいい。俺はちゃんと勝ちたいんだ。ちゃんと勝って、ちゃんと克服したい。だから、俺は今戦ってるんだ!何があっても残り30秒、試合に出るよ!」
茜は麗子に自分の思い、涼の思いを改めて強く伝える。
「このまま涼くんを試合に出してください!!」
「もし、これ以上、ケガしたらどうするつもりなの?」
「私が責任取って花嫁になります!!」
太一は茜の発言が麗子の質問の答えに噛み合ってなく、思ったことを口に出す。
「それのどこが答えなの?」
その太一の言葉がきっかけで皆がフフッと笑い出す。
「ププッこいつ、正真正銘のバカだ。やっぱり最高だよ、茜♪」
「あなたが好きなった理由なんとなく、わかったわ。ププッ」
茜は我に返り、自分の言ったことが恥ずかしくなり訂正する。
「いや、これは違うんです!占いのアプリ取ってて、こういうときはこう言えって書いてあったんです!!!」
おかしな発言にさらに皆は笑い和やかな雰囲気になる。
「茜、ありがとう。なんか笑ったら力出てきたわ。とりあえず、今からの作戦伝えるからちゃんと聞いてくれ。これが、俺達の最後のゴールになる!ラスト30秒のうち25秒くらいは俺にボールを集中させて、そして、残り5秒くらいで、1回ボールを麗子か太一に預ける。そしたら、隼人は俺の足が限界で仲間にボールを託したって油断するだろ。そのタイミングで俺が裏をかいて前に突っ走る。周りもそれに合わせて前に走れ。一応、最後のゴールは絶対オレが決めるから、アリウープでダンクか俺がそのまま決めれそうならオレが決める」
タイム休憩終わり、試合再開!!
涼は作戦通り実行し、残り6秒といったところで、麗子にボールを預ける。
隼人はニヤリつく。
「終わったな、お前♪」
涼は二ヒッと笑みを浮かべる
「お前がな♪」
「なに!?」
涼は隼人の一瞬の油断を見逃さず、一気に走る。
麗子もドリブルで、抜き去り、前線へと走る。
残り2秒で涼にパスを出す。
涼はダンクシュートを決めようとするが足の痛みが影響し、一旦麗子にボールを預ける。
残り1秒。
やることは一つしかなくなった。アリウープからのダンクシュート。麗子は涼に全てを託す。
涼、隼人は同時にジャンプする。
「勝つ!!」
「負けねぇ!!!」
結果は隼人が涼のダンクシュートを防ぎ、36-35で試合終了となった。隼人チームは歓喜する。隼人自身は内心、複雑ではあったが周りに合わせる。麗子はあんな卑怯までしておいて、謝りもせず、周りと喜ぶ隼人がどうしても許せなく、怒りをぶつける。
「隼人!!」
「ん?」
麗子は手を挙げようとするが、それを太一が止める。
「ここで手を出したらこいつと同じになりますよ。いいんですか?」
「それは...」
隼人は太一の物言いに少し腹を立てる。
「はっ?副キャプテンの立場でキャプテンの俺をバカにしてんの?」
太一も我慢の限界であり、不意に思いっきり殴る。
「だったら退部しますわ。これであんたと同学年。平等の立場で問題ないっしょ♪」
「お前!何様だ!」
「こっちのセリフだ!!涼くんや麗子ちゃんにとっては大事な試合だったんだ!!大事な家族に関わる大事な試合だったんだ!!お前が汚していい試合じゃねぇんだよ!!!」
隼人は太一の言葉を聞いて、反省する。
その揉め事をしている間、涼はまた、トラウマに陥りそうになっていた。涼は自分の想像しているお母さんと対話していた。
「母さん....」
「あんたなんか産まなきゃ良かった....」
「待って!母さん!行かないで!」
「私を殺したのはあなたよ」
「違う..俺は...母さんに生きて欲しかったんだ、どこにも行って欲しくなかったんだ...」
「もう遅いわよ..」
「また失うんだ...母さん...母さん...茜もいなくなる...俺が大切に思うものが全部、消えてく...
もう嫌だ..こんな人生...もう嫌だ...嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
涼は体育座りで頭を抱え込み始め、嫌だの声が徐々に大きくなっていった。
「嫌だ!!嫌だ!!!嫌だ!!!!」
麗子はすぐに涼に駆け寄ろうとしたが、誰よりも早く茜が涼に向けて走り出していた。茜は涼が頭を抱え込むのを見て、誰よりも早く、動き出していた。そして涼の頭をあげて、キスをする。
「ごめん、ごめんね。今まで苦しかったよね、もう大丈夫だから。もう1人にはさせないから。ずっと私がそばにいるから。」
「茜..茜..ホントにそばにいてくれるのか?」
「うん、ずっとそばにいる。誰が周りが何を言っても私はそばにいるよ。悲しい時も辛い時も楽しい時もどんな時だって離れたりしない、約束するよ」
「ホントに...?どこにもいかない?」
「私は涼くんのお母さんと同じ事は出来ない。けど、私は誰よりも涼くんを愛してるんだって事は分かる。涼くんは私のことどう思ってる?」
「俺もそうだよ...」
「嬉しい。私、今まで生きてきた中で1番嬉しい♪」
「...うん。俺も嬉しいよ...」
「泣いていいんだよ。私をお母さんだと思って。」
「母さん..会いたいよ...母さん...」
「....」
涼は自分の抱えていた全ての思いを茜に預ける。
麗子はその様子を見て梓に抱きつく。
「良かった。私、間違ってなかった。ホントは怖かった。茜ちゃんに託してホントに良かったよ...」
梓は子どものように泣く麗子を見て、そっと頭を撫でる。
「頑張ったね。麗子もよく頑張った!」