11話 辛い過去
それから、涼は精神科で入院することが決まり、学校では誹謗中傷の手紙を書いた生徒を生徒指導部の先生が説教し、それぞれのクラスで担任から2度とこんな事はしないようにと強く注意を促すことになった。
茜は美月から言われたことをずっと考えていた。そして、涼の姉である麗子にもっと詳しい話を聞かなければいと思い、放課後、その人のところへ話を聞きに行くことにした。
放課後、麗子のクラスへ行くと、麗子から話しかけてきた。
「そろそろ私のところに来ると思ってたよ♪」
その後、麗子おすすめのケーキ屋に立ち寄り、そこで話すことに。
「どこまで知ってるのかな?」
「その、美月さんから涼くんと涼くんのお母さんが精神科で入院した話までは聞きました。それとバイト先の店長からも母親の事を少しだけ。」
「それじゃ、話すね。」
「..はい。」
「涼は入院してから、心に鎖をするように、口を閉ざすようになったわ。家族でさえもね。お見舞いに行った際に、お母さんとは話はできたんだけど、涼に話しかけても無視されるか一言、うん、そうとかだけの返事だけだったな。私やお父さんでさえも敵対するような怖い感じだったかな。1週間くらいして病院から呼び出されて今後どうするかを相談されたんだ。医者の判断で同じ病院にいさせるよりも引き離したほうがいいのかもしれませんって言われて、私とお父さんでどうするか話し合った。そして、お母さんだけを病院に残すことにしたの。お母さんは時々、自殺しようとまで考えていたし、お父さんは仕事、私が学校で目につけない時間もあるから病院のほうが安全だろうって。涼は自殺しようとするほどまではなかったし、お母さんと同じ病院にいるのが辛そうだったから、涼だけを家で預かることにしたの。その間、私とお父さんは仕事休むか学校休むか悩んだんだけど、今は一人の時間が多いほうが涼も気が楽だろうから、そっちのほうがいいだろうって判断で学校休んだりとかはしなかったかな。部活は時折、休んでたくらいで。
涼が家で暮らすようになって1週間くらいして今のバイトを見つけたのかな。多分、私達がお見舞いに行く前からもう誰も信用しない、自分の力だけでやるんだって決めてたんでしょうね。あの子は。家でも全く話さなかったし、食事の時間とかもできる限り早く済ませて、極端に私とお父さん避けてたからね。3週間くらいして涼も学校に通い始めたかなぁ。ちょうどそのくらいにお母さんの誕生日が近くて、私はこのタイミングで涼とお母さんを仲直りしようって考えたの。それに涼も少しでもいいから私やお父さんに心開いてほしくて、お母さんの誕生日祝いもかねて良くならないかなって。
でも、それがいけなかった。誕生日祝いさえなければこんな事にならなかったのかもしれない。」
「......」
「一応、事前に涼にもお母さんが今日だけうちに誕生日祝いで帰ってくることは伝えてて、涼は好きにすればって他人事のような返事で、少し怖かったんだけど、とりあえず、することにしたの。
涼はその日、バイトがあったから、私とお父さん、お母さんで涼の帰りを待つことにしたの。
涼はその日は夜の9時過ぎに帰ってきたかな。
多分バイトはもっと前に終わってたはずだけど、
涼自身もこの機会に仲良くなろうかどうか迷ってたんだと思う。」
当時の状況
母親は声を震わせながら、涼に声を掛ける
「おつかれさま..偉い...ね..バイト..」
涼は無視してそのままお風呂場へ行く。
「ごめん。やっぱり私はいないほうが...」
姉が必死に慰める。
「きっと疲れてるだけだよ♪先、ケーキ切り分けとこうよ♪すぐ食べれるように」
涼はシャワーから浴び終わり、家族とは目も合わせないままテーブルへ座る。
母親は切り分けたケーキを手を震わせながら涼にあげる。
「おい....しそう..だね」
涼は嫌味を放つ。
「被害者ぶるのはやめろよ。気持ち悪ぃ」
父親はムードを切り替えようとする。
「人気店のケーキだから、きっとうまいぞ!!」
麗子も明るく振舞う。
「2時間待ったもんね♪」
「..すごいねぇ...」
皆が重い空気の中をケーキを食べ始める。
最初の一口を口にした頃、涼が涙を流し始める。
麗子は心配する。
「ごめん、大丈夫?」
涼は思ってることをぶちまける。
「なんだよ、この気持ち悪い空間は...
姉貴も、親父も、クソババアも、顔見るだけで吐き気すんだよ」
「ごめんね..私のせいで」
「悪いと思ってるなら、消えろよ。お前がこの世に存在するってだけで、俺が俺じゃなくなんだよ」
「涼!言い過ぎよ!」
「バカにすんじゃねぇよ!」
父親は喧嘩になりそうなのを止めようとする
「2人とも落ち着いて!」
涼はやりきれない気持ちを家族にぶつける
「俺に反論するやつはお前らでも容赦しねぇぞ!!!」
と涙を浮かべながら、家を出る。
そして、家族は必死で辺りを探したが涼の姿は見えず、2時間ほどして、バイト先の店長から父親に電話がありうちで預かっていると報告がありそのまま、その日は預かってもらうことに。バイト先の店長がたまたま泣いている涼を見つけ、声を掛けていたのだ。
そして涼は朝方、家に帰ることにする。
もう少しで家に着くころ、遠目に母親が見え、トラックも同時にくる。
涼は嫌な予感がした。そして、気付くと勝手に体が走り出し、
「母さん!!母さん!!!逃げて!!!」
と叫んでいた。
母親はニコッと笑っていた。
そのままトラックが母親がはね、血しぶきとともに涼の足元に母親が転がってくる。
「これが当時の状況で今に至るって感じかな」
茜はあまりの重さに自分が本当にどうすればいいかわからず、姉の麗子の判断を聞くことにした。
「私は別れるべきですか?どうすればいいですか?」
姉は少し雰囲気を変える。
「なんか、期待外れだな
まだ、誰かに助けを求める気なんだ、期待してたのになぁ、茜ちゃんには...」
「いや....」
「同じことだよ。茜ちゃんが助けを求めなくても、求めようとしなくても、涼は自分のすべてを投げ払って助ける。今の茜ちゃんのままだと、この繰り返し、何も変わらない。」
「知ってます...だから、変わりたいんです!!」
「答えを誰かに求めるような覚悟しか持ってない茜ちゃんには無理よ。変わろうと言い聞かせるだけして、心のどこかで涼の助けを待っている。」
「...そんなつもりは..」
「私の大切な弟をあなたの言い訳に使わないで!」
「....」
「そんな言い方しなくても...」
「知らないわよ。そんなの。まだ甘えるつもりなの?私、涼みたいに優しくないわよ♪」
茜はグズグズ泣き始める。
「...」
「まだ、言いたいことある?」
茜は苛立ちのあまり、水をぶっかける!
「わかりました!別れます!!」