下校途中
鈴木と宮藤はいつものように一緒に下校した。
二人は家が隣で幼馴染なのだ。
宮藤が訊ねる。
「なぜこのメッセージが重要なの?」
「俺を叩いた奴は、きっとこのメッセージの出し主が『俺』だと思っているんだ」
宮藤は首を傾げる。
「えっ、そんなわけないじゃん」
「それは宮藤ちゃんだからそう思うんだよ。この紙には俺が出したと思わせる何か秘密があるんだ」
歩きながら鈴木は紙を掲げて透かしてみるような仕草をした。
「そ、それにさ。このメッセージを出したからって棒で叩くってどういう理屈なの?」
「犯人にとっては、このメッセージがもたらした結果が、重要なことだったんだよ」
「全然わからない」
鈴木は当然と言わんばかりに頷いた。
「だから、そこを突き止めるんだ」
「だってさ、メッセージ自体は随分前に出回っているのよ。それを今になって出した人を叩くなんてさ」
顎に指を当て、鈴木は考えるように目を伏せた。
「……何か、重要なことを言っている気がする」
「でしょう?」
宮藤は自慢げに胸を張る。
「まだ重要と決まった訳ではないのだから、そう自慢げな表情を浮かべられても、反応に困るけど」
鈴木はそう言った後、歩きながら考え込んだ。
つまりこういうことだ。
メッセージが流れた。その時は誰も叩こうなんて思わなかった。だが、そのメッセージの効果が後から現れた。そのせいで、犯人は叩いてやろうと思った。
その効果とはなんだ?
例えば、優橋が陽春に興味を持ってしまったことだ。
だが、それはかなり前から効果を発揮していたように思える。
メッセージが持つ意味。
単純に『エーがビーに告った』という意味ではないのだろうか。
何かの暗号? バカな。
それと、この紙が俺が出したものだ、と思った点も気になる。
課題はまだ答えが記されていない。
おそらく配られた直後の紙をコピーしたのだろう。
コピーしたものでないとすると、何度も国語教師から課題の紙を貰わなければならないからだ。
「?」
あれ、何か気になることがある。
いつの話だろう。
うっすら記憶がある。
「ねぇ、今LINKでお母さんが、とんかついっぱい作ったって連絡きたの。晩御飯、家に食べにこない?」
「ああ、いいよ。どうせいつも一人だし、とんかつは好きだし」
鈴木は思い出そうとしていた何かが、記憶の海に沈んでいくのを感じた。
「……」
鈴木は思い出そうと空を見上げるが、何も出てこない。
「とんかつ楽しみね」
「ああ」
二人はそのまま通学路をゆっくり歩いて行った。