不審点
宮藤はゴミ袋から見つけた紙を広げ、内容を確認する。
国語の課題の紙に書かれた文字に、丸印と矢印がついて、順番に読むような指示になっている。
『さい空 が 用しゆんに こくつた』
課題の紙に表現したい漢字と同じものがあるとは限らないので、読みが同じなら良しとしているようだ。
鈴木は紙を受け取ると、宮藤に訊ねた。
「これ、どういう状態で見つけた?」
宮藤は手でこねるようにして、球を示した。
「こんなふうに丸めてあった」
鈴木は頷いた。
そして渡された紙をじっくりと見ていくと、名前を書く欄が破られているのに気づく。
「当日って、これが飛んできていたの?」
「えっ、どういうこと?」
「よーく見て。当日と形は同じかな?」
宮藤は鈴木が問うている言葉の意図が理解できていなかった。いや理解はしていたかもしれないが、目の前の紙を見て気付くことができなかった。
「うーん」
「ほら、ここ破れているよね」
「本当だ…… えっ、これが当日もそうだったかってこと?」
鈴木の目を見ると、宮藤は手を振った。
「ごめん、流石にそこまで覚えてないよ!!」
「そうだよね」
やっぱり噂とかゴシップに興味がない宮藤では、出来事に対する集中力が違うのだろう。
「これ、もらっちゃおう」
ここにいない花村に見せてどう反応するかを確認するべきだ、と鈴木は考えた。
「えっ? それゴミじゃん」
「これは重要な証拠品だよ」
「なんの事件の? 万慈を殴ったのと、この紙は何も関係ないでしょ?」
確かにその通りだ。
現時点では。
「絶対に関係ある…… はずだから」
「万慈がそういうなら信じる」
鈴木は紙をカバンにしまった。
ゴミの袋を元通りに閉じて、綺麗に並べた。
倉庫を出ようとして、立ち止まった。
「もしかして、鍵を持っていった連中は、ずっと倉庫の中にいたのかな?」
「どういうこと?」
「だってさっき鍵かかかっていたじゃないか。なのに鍵は持ち出されていた。返すのを忘れたんじゃなくて、中にいたのだとしたら……」
鈴木は思った。これは『そうしたことも可能だ』ということを示したにすぎない。実際のアリバイや中にいた証拠を何か見つけられないだろうか。
誰かがしばらくの間ここでゴミ漁りしていたのなら、証拠の品を落としたりしていないだろうか。それが特定の人物の指し示すものであればもっと良いのだが。
鈴木は周囲を見まわし、何か落ちていないか確認した。
ゴミ袋を持ち上げ、暗いところはスマホのライトで照らしても見た。
「無いね」
「無いわね。私の観察力が足りないのかもしれないけど」
「……」
あとは職員室で鍵を渡した先生を見つけ出し『誰が』取りに来たのかを調べるしかないが……
鈴木は明日の昼にでも職員室に言って確認するしかないと思った。
「もし鍵を持ち出した人物が、俺たちと同じことをしていたら? 俺たち二人がかりで探し出すのに、これだけの時間がかかっている。鍵を返しにくるのを待っていた時間ぐらいあっという間だ」
「そうかもしれないけど、それなら、私たちが探して、証拠の品が出てくるのはおかしいじゃない?」
鈴木が考えたのは、犯人が『同じ証拠の品を探していた』という前提だ。もしかしたら、気づかれたらまずい別のものがあったのかもしれない。
だが、別のものだった場合、まだ存在にすら気づいていないのだ。放っておいても、業者がゴミ処理場に持って行ったかもしれない。つまり、同じものを探していたということで考えるべきだ。
「けど、証拠の品が出てこないのもおかしいだろう。袋の内容からこれらの袋の中に入っているだろうという推測は成り立つ。見つからない、入っていない、のは逆に変だ」
「じゃあ、証拠品をすり替えた?」
鈴木は、宮藤に向かって『それだ』という感じに指をさした。
「そうだ! すり替えたか、加工して戻した」
宮藤は腕を腰に当てて、胸を張った。
「すごいでしょう」
「じゃ、帰ろう」
鈴木は扉のレバーに手をかけた。
「もっと褒めてよ」
「えらいえらい」
鈴木は宮藤の頭を撫でた。