原紙
ゴミ袋を持ったまま、三人が教室に戻ると、掃除当番の連中すら帰っていて、教室には誰もいなかった。
「……」
「万慈、どうするのそのゴミ」
「そりゃ、もう一度倉庫にいく」
花村は帰る支度を始めた。
「ごめん、私はもういられないから帰るわ」
「美子ちゃん、ありがとうね」
「さよなら」
二人の間に、不思議な空気が流れる。
宮藤は疲れたのか、やることがなくて暇なのか、自席に座った。
「万慈、何か計算があるの?」
「ないよ」
「じゃ、何時になったらいくの?」
鈴木は教室の中をうろうろと歩き回っている。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いているよ。やっぱり、誰も証拠は残してないようだな」
「やっぱり聞いてないじゃない。なんの『証拠』を探していたの?」
鈴木は机を指して言った。
「鍵を持っている人物がまだ帰り支度をしていなかったら、ここにカバンや何かを残しているはずじゃないか。だがそんな人は誰一人いない」
「つまり?」
「帰り支度をしてから倉庫の鍵を借りた」
「教室をうろうろしても、そんなことしか分からないのね」
宮藤の言い方は、鈴木を馬鹿にしているものではなく、苦労の割に益が少ないということがいいたいようだった。
「さあ、じゃあ行ってみようか」
鈴木の声に宮藤は立ち上がった。
二人は再び職員室にいき、ゴミ倉庫の鍵を借りようと先生に話しかけた。
「鍵返ってます?」
鍵のボックスを開ける先生が変わっていた。
「倉庫の鍵だよね」
入っていたらしく、取り出すと鈴木の方へ持ってきた。
「これ、返しに来たの誰だかわかりませんか?」
「いや、今日、鍵のボックス開けるの初めてだよ」
鈴木は思った。
普通鍵の貸し借りするんだから、台帳のようなものをつけるだろう。無くされたらどうするつもりなのだ? いくら無名崎高校だからと言って、鍵の管理がずさんで良いわけないのだ。
「……そうなんですね。じゃ、鍵、借りていきます」
二人は半屋外の渡り廊下を歩きながら話した。
「宮藤ちゃんは『最空が陽春に告った』紙は見ているんだよね?」
「見てるわよ」
「どこまで覚えている?」
「国語の課題の紙だった、ってところまで…… かな」
鈴木は少々不安になった。
こういったクラスの『噂』が大好きな花村ならもっといっぱい覚えているだろう。だから花村も誘っていたのに……
「まあ、原紙が見つけられれば思い出すよね?」
「自信はないけど、多分」
倉庫の前に着くと、鈴木はまずハンドルを操作してみた。
「うん、鍵はかかってる」
そして借りた鍵を使って開ける。
倉庫の中は扉から入る光で多少は見えるが、ほとんどは暗く、鈴木は扉沿いの壁に手を伸ばし、灯りのスイッチを探した。
「!」
灯りが着くと、部屋一面のゴミ袋が目に入った。
「何驚いているの?」
「いや、誰かが俺たちの邪魔をしているのだとしたら、もっと袋が乱れているのかと思ったんだ。あまりに整然と袋が並んでる感じなので」
「じゃあ、やっぱり鍵を返すの忘れて、慌てて戻ってきたドジっ子の仕業?」
鈴木は宮藤が言った通りのことを想像して、ため息をついた。
「さあ、例のメッセージを探そうか」
「うん」
袋にはクラス番号が書いてあって、同じクラスの袋が複数置かれていた。
宮藤と鈴木で、自分たちのクラスの袋を一つずつ開けて、中身をあさっていく。
「メッセージって、どんな感じで教室を飛んでいるの?」
「大体の場合は丸めてボールみたいにするわよね」
「そうなんだ」
鈴木は思った。
であれば、ゴミ袋の中でも『丸まって』入っているはずだ。
わざわざシワを伸ばして、畳むような几帳面なことはしないだろう。
「いや、伸ばして捨てているかも」
一つ目の袋をお互い探し終えたが、それらしい紙はなかった。
宮藤が次の袋を取り上げて中を見ていると、言った。
「これじゃない?」
そのまま広げた紙の内容を確認していた。