放課後の倉庫
鈴木は放課後にゴミを出す倉庫に行って、最空が告った内容が書かれた課題の紙を探すことにしていた。
放課後になると、鈴木は掃除当番に話しかけた。
「ゴミ捨ては俺が代わりにやってもいい?」
「当番でもないのにゴミ捨ててくれるのは助かるな」
「どうぞどうぞ」
ゴミ箱から袋を取り出すと縛って、教室を出た。
教室の外で待っていた宮藤と花村に声をかける。
「行こうか」
宮藤と花村は頷くと、鈴木の後ろをついて歩く。
鈴木はそのまま、職員室に立ち寄る。
「ゴミ置きに行くので倉庫の鍵をください」
「ちょっと待ってろ」
職員室にいた教師が、金属ボックスを開けると鍵を探した。
「あれ? 鍵がないな」
全ての教室が同時にゴミを倉庫に持っていくことはないだろう、ということで考えられた仕組みだ。
ゴミ箱がいっぱいになったクラスだけが鍵を借りて、捨てにいくわけだ。
「確かについさっき、誰か鍵借りにきたな」
他の教師がそういうと、鈴木のために鍵のボックスを開けた先生が、
「ほら、急げば追いつくんじゃないかな?」
鈴木は鍵がないまま、倉庫に向かった。
誰とも会わないまま、倉庫に着いてしまう。
「……」
試しに扉のレバーを押し下げようとするが、鍵がかかっている。
「開いてない」
鈴木は考える。
鍵を借りる職員室とゴミを置く倉庫の間の道は、今来た道が最短だし、普通に通る道筋のはずだ。それなのに誰ともすれ違わないで、鍵がかかっていると言うことはどういうことだろう。
「鍵を借りた人物が、俺たちとは違う経路を通ったと言うことになる」
宮藤が意見を述べる。
「なんでわざわざそんなことするの? 遠回りだよね」
「それもそうだけど、遠回りしたのだとしたらその理由が問題だ」
花村が左の手のひらを、右の拳で『トン』と叩く。
「誰かに目撃される、もしくは出会うことを想定して『遠回り』した」
「美子ちゃんするどい!」
「急いで職員室に戻るぞ。もしかしたら鍵を返すところに遭遇するかも」
鈴木の意見に従い、三人は許容されるギリギリの速度で職員室に戻った。
宮藤が職員室に入ろうとするところを、鈴木が止める。
「待って、中に入るんじゃなくて、近くで隠れていよう」
職員室の中では長時間待つことが出来ない。先生方に不審に思われてしまうからだ。
鈴木はキョロキョロと周りを見回して、階段の角に身を潜めることにした。
宮藤が言う。
「誰が来るのかな?」
花村が冷静に考える。
「一人が職員室に入って鍵が戻ってるか確かめようよ。鍵が戻っていたら待つの無駄でしょ」
「花村さん……」
花村は頷くと、周りの様子を見ながら、静かに職員室に入る。
しばらくして、花村が戻ってきた。
「どうだった?」
「まだ鍵は戻ってない」
宮藤が首を傾げる。
「そもそも、誰が鍵を持って職員室に戻ってくるか分からないのに、見張ってて意味あるの?」
「そりゃあ……」
鈴木は腕を組んで首を捻った。
職員室には勉強で分からないことを聞きにきたり、先生に渡すものがあったり、呼び出されたり、教室の備品をとりに来たりと様々な理由で出入りする。
倉庫の鍵を持っていく可能性があるのは、他の学年、他のクラスという、ほぼ学校にいる生徒全員が対象になる。
「だけど、今回の件は、俺たちにわざと鍵を与えないように仕組んだことに思えるんだよ」
「鍵を借りたまま部活に行っちゃった…… とかそういうドジっ子のことは考えないの?」
「物語をぶち壊すようなドジっ子がいたら推理小説は成り立たないんだよ。推理小説のなkでは無駄なことは一つもない。全ての出来事は必然で動いているはずなんだ」
宮藤は両手を開いて『お手上げ』というポーズをする。
「まるで私たちが推理小説のワンシーンにいるみたいね」
「……」
鈴木は『ここは推理小説の中なんだよ』という言葉が出かかっていたが飲み込んだ。
人間は巨大なシミュレータの中で生きている『かも』しれないのに、そういった意識や認識が出来ないまま、生きている人がほとんどだ。本当に自分たちの肉体がシミュレータ上のデータであっても、本人は違いに気づくことは出来ないのだから、同じことなのに、だ。
「こんな時間か」
鈴木はそう言うと、
「一旦、教室に戻ろう」