最空と陽春
昼休みになった。
それぞれが食事をとって、午後の授業まで思い思いの時間を過ごしている時だった。
鈴木は最空が自席でスマホを見ている横に立った。
「最空、ちょっと話があるんだけど」
「俺、ゲーム中なんだけど」
最空は視線すら動かさなかった。
「やりながら受け答えできない?」
「何? 早くして」
集中しているのか、スマホを見つめたままだ。
「最空って陽春と付き合ってる?」
教室の周囲の視線が、鈴木と最空に集まった。
その視線の中には、相田の視線も入っていた。
一瞬、最空は鈴木を見て、スマホに視線を戻した。
「こんなオープンなところで聞く質問?」
「早くしてって言うから、いいのかと思ったんだけど」
「だからハブられるんだろ」
鈴木は動じない。いつも言われていることだからだ。
「で、どっち」
周囲の視線はそれとなく散らばったが、聞き耳は立てられているに違いなかった。
会話の声などが小さくなり、静かになっていた。
「言わない」
「じゃあ、質問を変える。告ったってのは本当?」
「言わない!」
鈴木はため息をついた。
そして最空に聞かせるかのように、言う。
「やっぱり最初のきっかけになった『課題の紙』を探すか」
その時、鈴木は別の視線に気づいた。
周囲の生徒でも、相田でもない。
鈴木の視線に気づいたその人物は、手を振って近づいてきた。
「どうしたの鈴木くん、私の方をみて」
陽春本人だった。
「いや、最空に陽春と付き合っているのか聞いたんだけど答えないからさ」
「ああ、それなら付き合ってるよ」
周囲がざわめいた。
相田は、怒ったように教室を出ていく。
「じゃあ、あのメッセージは本当だったんだ?」
「なんのこと?」
「ほら、課題の紙に『最空が陽春に告った』って」
その時、机を叩く音がした。
最空だった。
「ゲーム終わった」
そう言うなり、立ち上がると陽春の手を掴んだ。
「陽春さん、ちょっと話したいことが」
二人はそのまま教室を出て行こうとする。
「待ってよ」
「お前との話は終わった」
「ごめんね〜 鈴木くん」
そう言って手を振る陽春。
「あいつに謝る必要あるか!?」
最空は完全にキレていた。
鈴木は二人を追いかけるのをやめた。
「万慈、だめだよ、愛し合う二人の邪魔しちゃ」
振り返ると宮藤がいた。
宮藤の影から、花村も現れた。
「あの様子なら、間違いなく付き合ってるね」
「……いや、分からないぞ。だって、今『陽春さん』って言ったし。だから本人の口から聞きたかったんだけど」
宮藤は首を傾げた。
「周りの目があるからあえて『陽春さん』って呼んだともいえなくない?」
「周りにまだ知られたくないってことは、付き合ってるのかどうかが微妙な時期とかさ」
花村がニヤリと笑う。
「そうだよね。堂々と付き合ってれば『万慈』とか下の名前で呼ぶし」
宮藤は頬を赤くした。
「美子、私が万慈と付き合っているのは内緒」
「宮藤ちゃんと俺は、そもそも付き合ってないが」
「けど、なんで陽春のことに首突っ込んでるの? 叩いた人を探さなきゃならないんじゃない?」
鈴木は答える。
「叩いた人を見つけるだけなら、俺が振り返っていればよかったんだよね……」
『!』
宮藤と花村はまるで今気づいたように驚いた。
「そうよ、万慈。なぜ、後ろを振り返らなかったの」
「なぜだと思う?」
「犯人探しを楽しみたいからでしょ」
その言葉に、鈴木は一瞬でむくれた。
「図星ね」