白鳥たちの恋愛模様
人気のない階段の踊り場にくると、青空は言った。
「お前、白鳥さんの悪口言ってたな」
「言ってないよ。仮に言ってたとして、なんで宮藤ちゃんは連れてこないんだよ」
「お前が一番怪しいんだよ」
白鳥が前髪をいじりながら鈴木を睨んでいる。
「そもそも、聞こえてないのになんで悪口だって思うんだよ」
「それは……」
困った表情の青空を下がらせると、白鳥が言う。
「そこら辺はどうでもいいのよ。鈴木、あなたに相談があるの」
「へ?」
全く思いもしない展開に、鈴木は呆けたような顔になった。
「優橋の気を引きたいの。どうしたらいいのかしら?」
「あの、それ、俺に相談するんで合ってます?」
青空のオープンフィンガーのグローブ飛んできて、鈴木は襟を掴まれ、締め上げられる。
「つべこべいわず考えろや!」
鈴木は思う。確かにこの青空に恋愛の相談はできないな……
「待って待って、順番に行こうか。以前、優橋は本田単車と付き合ってる不破浦さんが好きだって宣言してなかったっけ」
「そうよ。彼女が好きと、堂々と公言してた」
「なんのきっかけで陽春になっちゃったの?」
まあ、そもそも本田と不破浦が付き合っているなら、入り込む余地はないのだから、別の人を好きになっても無りはないのだが、と鈴木は思った。
「この前『最空が陽春に告った』ってあのメッセージよ。どう考えてもあのメッセージから優橋の様子がおかしくなった」
「はぁ? 何それ。訳わからないんだけど……」
すかさず青空のツッコミが入る。
「こっちも訳がわからねぇんだよ」
首が締まり、鈴木はこのままでは危険だと考えると、頭をフル回転させる。
そもそも苦手な『恋愛』関連の話なので、本当にフルに働かせないと、答えが出てこない。
「あ…… あれかな。普段は気にして無かったのに『誰かが告った』と聞くと急に気になっちゃうことってあるんじゃない。締切間近、と表示されると興味を持ってしまう感じでさ」
「そうなの?」
「こら、本当にそんなことになるんか!」
青空の手が鈴木の頬を叩いた。
「そういう心理もあるってこと。もう一つあるとすれば『人のモノ』が欲しくなるという心理かな」
「適当言ってんじゃねぇぞ」
「苦しいよ!」
白鳥は腕を組んで考え込んでしまった。
目を閉じ何か思い出しながら、頷いている。
「その可能性はあるわね」
白鳥は目を開く。
「……で、対策は!?」
しまった、と鈴木は思った。先回りして考えておくべきことを忘れていた。
「えっと……」
言いながら考える鈴木。
「俺と白鳥さんが付き合っちゃう!?」
「バカ」
白鳥は照れて顔を背けた。
その反応を見てから、青空が鈴木の頬を叩いた。
「白鳥さんがお前と付き合うわけないだろう」
鈴木は気になっていたことを尋ねようと思った。
「そういえば、昨日の放課後って二人は何してたの?」
「なんだ急に。質問返しか?」
「二人で一緒に帰ったわよ。それが何?」
鈴木は叩かれた時の二人のアリバイを確認しておきたかったのだ。
アリバイとしては弱いが、格闘技ができる青空がわざわざ後ろから棒状のもので叩くと言う卑怯な真似はしない気がする。
鈴木が青空に目を向けると、言った。
「昨日の帰りも、ずっとどうやって優橋の気を引くかを……」
「余計なことまで言わないでいいの」
「わかった。ありがとう」
この二人に叩かれた訳ではなさそうだ、真剣に優橋のことを考えているっぽいし、と鈴木は考えた。
優橋や白鳥、青空までも『最空が陽春に告った』メッセージのせいで、平和な生活が乱されている。鈴木には、このメッセージが鍵を握っているように思えてならなかった。