捜査開始
鈴木は裏門で何か棒状のもので殴られた。
その翌日、鈴木は宮藤と一緒に登校するなり、花村に話しかけた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
花村はちらっと宮藤の顔を見てから、
「静香、鈴木くんと話してもいいかしら?」
と言った。
「どうぞどうぞ」
そうは言いながらも、宮藤の顔はムッとしている。
「あのさ、俺が叩かれた日に課題の紙を見て『陽春が告られた』ことを伝えた紙と一緒だ、って言ったよね」
「ええ。見れば一発でわかるわよ」
「あのさ、俺『陽春が告られた』っていう紙を知らないんだよね」
花村は笑った。
「まあ、鈴木くんだからね。回ってこなくても仕方ないわ。だって、回し方もよく分からないでしょう?」
「えっ、そんなやり方あるの」
花村がさらに笑う。
「ほら、それが嘘なのかも分からないでしょ?」
「騙したの?」
宮藤が鈴木の頭を撫でてきた。
「万慈は純粋なんだから、騙す方が悪いのよ」
「とにかく、その紙見れないかな?」
花村は首を横に振った。
「証拠写真を撮っておこうかと思ったけど、授業中シャッター音がしても困るから、撮らなかったわ」
「万慈、どうしてもその紙を探したいなら、収集の倉庫に行けばまだ残ってるかもよ」
そう言いながら宮藤は鈴木の袖をつまむように持つと、引っ張った。
無名崎高校ではゴミは業者が一定間隔で引き取りに来ている。
生徒は掃除当番が分別した袋を倉庫に運ぶだけだ。
「じゃあ、放課後にその倉庫に行けばいいのか」
「うん、一緒に行こ」
宮藤は嬉しそうに胸の前で手を合わせた。
花村は首を傾げた。
「けどなんでその紙なの? 犯人探しは『鈴木くんを叩いた』人なんでしょ? けど調べるその紙は『最空が陽春に告った』と言う内容。関連性がわからないんだけど」
「その同じ紙だ、って言うところが少々引っかかっていて」
花村は首を傾げた。
「美子は『平凡』なんだから、万慈の考えていることなんか分からないわよ」
「けど、ほぼ無関係でしょ」
花村は意見を変えなかった。
「ま、そうだね。正直、無関係かもしれないし、調べなくてもいいんだけどね」
「もう、そんなんじゃなくて、もっと言ってやってよ」
「そう言われましても」
そんなことを話している間にも、教室には次々と生徒が入って来ていた。
「優橋くん、なんで今度は『陽春』なのよ」
綺麗な縦ロールした巻き髪をした女生徒がそう言いながら、教室に入ってくる。
「白鳥さん、なぜそんなことを言うんだい?」
後ろを付いてくるように、優橋と呼ばれた男子が入ってくる。
「あんなボーっとした女、付き合ったって面白くないわよ、って言っているのよ」
鈴木が、宮藤に耳打ちした。
「(あの二人って結局どういう関係?)」
「(白鳥さんがずっとアプローチしてるんだけど、優橋って男がアホだからそのことに気づかないのよ。とっても歯がゆいわ)」
鈴木は目で二人を追った。
「陽春さんのあのボケた感じに癒されるんじゃないか」
「……」
白鳥が歯軋りしているように見えた。
白鳥は鈴木の視線に気づいて、睨んできた。
鈴木は視線を外さず、宮藤に声をかける。
「(ちょっと聞き込みする必要があるな)」
「(白鳥さんに? やめた方がいいわよ。取り巻きに格闘技習ってる女子がいるわよ)」
「(ああ、なんかそんなだったね)」
不破浦の事件を調べている時のことを思い出していた。
白鳥玲の取り巻きに、ベリーショートで、いつもオープンフィンガーのグローブを嵌めている青空本気と言う女生徒がいた。
「ちょっと、人の顔見て何ブツブツ言ってんのよ」
気づくと鈴木の前に白鳥と青空がいた。
「面かしな」
「イテテテ……」
鈴木は青空に耳を引っ張られながら教室を出て行った。