殴打された万慈
陽春と花村、宮藤は教室で雑談をしていた。
「霞ちゃん、ぶっちゃけ、最空と付き合ってる?」
花村の言葉に、陽春は一瞬右上を見た。
「えっ!? さぁ、ご想像にお任せしまぁ〜す」
「遅い!」
宮藤がむくれている。
「?」
何を言われたのか分からず、陽春は混乱し、黙ってしまった。
「遅いわ!」
「ああ、万慈くん? 確かに遅いね」
「どうしよう! 誰かに告られてるとかだったら」
宮藤の声は、苛立ちを隠せないトーンで、しかも早口だった。
「まあ、それは百パーありえないから大丈夫よ〜」
釣り上がった目で陽春を睨む宮藤を見て、花村が慌てて割り込む。
「霞ちゃん、その言い方はいくらなんでも失礼よ。それより、鈴木くん、ホントに殴られて倒れてるかもしれないから、三人で裏門に行かない?」
「行き違いにならないようにしなきゃ」
宮藤が鈴木のカバンをもち、三人は帰れる格好で裏門へ向かった。
校舎の角を曲がり、裏門に出ると、宮藤が走った。
「万慈!」
花村が言った通り、鈴木が倒れていたのだ。
宮藤が抱き起こすと、鈴木は言った。
「いててて」
鈴木は後頭部を手で押さえている。
「大丈夫!? 誰にやられたの?」
「それが、後ろから叩かれたんで」
近づいてきた花村が言う。
「鈴木くんが気を失うほど叩くなんて」
「棒で殴ってきたんだと思うけど、もし、本当に気を失うほど叩かれたら、俺、今死んでるだろうね」
気を失っていたと思っていた宮藤は、驚いて言う。
「えっ!? だって、倒れてたじゃん」
「相手の反応をみるために『死んだフリ』してみたんだけどさ。逃げてしまったみたいで……」
花村は鈴木が転がっていた場所を指さして言う。
「じゃあ、なんでそこに倒れて……」
「もしかしたら犯人が戻ってくるかと思って、この状態で待ってんだけど、退屈で寝ちゃったんだよね」
陽春は『くすくす』と笑った。
宮藤が怒った。
「ちょっと、笑い事じゃないよ!」
「ご、ごめん」
「宮藤ちゃん、良いんだよ、大したことないんだから」
宮藤は怒りが収まらない。
「先生に言って誰が万慈を叩いたか調べてもらいます」
「無理だよ」
宮藤は校舎の壁についている監視カメラを指さす。
「ほら、あそこにカメラが」
「ああ、あれはダミーカメラ」
「何それ?」
鈴木は残念、といった感じに項垂れる。
ダミーカメラと言って話が通じないのか。
「監視してますよ、って脅かすだけのカメラってこと、あのカメラはカメラの格好をしたおもちゃ。何も映しちゃいないんだよ」
「めちゃリアルなカメラだけど…… けど、悔しい。私、万慈を叩いた犯人を突き止めたい」
鈴木は立ち上がって、腕を組んだ。
「宮藤ちゃんじゃない女子が『犯人を探して』って、俺に依頼するなら、俺がこの事件を調べるけど」
「なんで私じゃダメなのよ」
鈴木は、人差し指を立てて言った。
「宮藤ちゃんに頼まれても、報告しがいがないから」
鈴木の目線は、陽春に向けられていた。
花村もそれを察して、陽春に向き直る。
宮藤が渋々陽春に向かって手を合わせる。
「あ、あの…… 鈴木くん、鈴木くんを叩いた犯人を探してくれない?」
なぜこんなことを言わされているのか、といった風に戸惑う陽春。
その言葉を聞くと、鈴木が満面の笑顔を浮かべる。
「喜んで引き受けます!!」