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与太  作者: うちょん
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おまけ①【呼び出し】


 おまけ①【呼び出し】














 調は例によって学校に呼びだされていた。

 なんでも、大地が同級生の顔にボールをぶつけて謝らないのだそうだ。

 欠伸をしながら学校に向かえば、そこには重々しい空気しかない。

 着いて早々に、相手の親からなんか色々言われるし、その子供は子供で痛い痛いと騒いでいるし、先生たちは調を見て顔を引き攣らせているし。

 面倒臭いなー、と正直思っていた調だが、とりあえず大地に話を聞いた。

 「オレは鉄棒にぶら下がってただけ。あいつらがサッカーしながら近づいてきて、オレを的だって言いながら蹴ってきた」

 何が楽しいのかはわからないが、大地は校庭にある鉄棒にぷらん、とぶら下がって遊んでいただけのようだ。

 そこに子供らがやってきて、いつもぶら下がっている大地に当てるというゲームというか勝負をしていたという。

 大地が器用に避けたため、子供らは面白くなくて、大地を動けに用にする奴と蹴る奴で分かれたという。

 確かに大地の顔や服にはボールが当たった跡がある。

 チャイムが鳴って教室へ戻ろうとしたのだが、ボールは大地に片づけておけと命令したとかで、大地はボールを蹴って子供らに当てた、という話らしい。

 「それなのに謝らないんですよ!?どういう教育してるんです!?」

 「可哀想に。痛いって言ってます!」

 「早く謝りなさい!」

 キャンキャンと喚いている母親たちに呆れていると、先生が大地に近づいて行く。

 励ますのかと思っていると、こんなことを言った。

 「大地くん、君はお友達を怪我させたんだよ?痛いって泣いてるんだよ?君は心が痛まないのかい?悪いことをしたら謝るって、それくらい分かるよね?」

 「・・・・・・」

 言い返すのかと思っていたが、大地は何も言わなかった。

 「お友達にごめんね、って言ってごらん。先生も一緒に言ってあげるから。プールで大地くんが溺れそうになったときも、この前ランドセルが泥に落ちちゃったときも、近くにここにいるお友達がいたから、大地くんはこうして学校に来れてるんだよ?わかるよね?」

 

 「は?」




 「え?お兄さん?どうしましたか?」

 大人しくしていた調だったが、耳を疑うことを次々に言われ、今にもプッチンしてしまいそうだった。

 家を出る時、白波に「プリンにならないで」と言われて意味がわからなかったが、このことだったのかと今になって理解する。

 「あ、そうなんですよ。実は、大地君はお友達に何度も助けられて・・・」

 「あんた馬鹿なの?」

 「え・・・」

 「は?」

 先生は勿論のこと、保護者たちもぽかんとした表情で調のことを見ていた。

 調はなるべく愛想よくしようと笑みを浮かべるが、いつものようにはいかない。

 「あの、えと、馬鹿とは?」

 おどおどとした様子の先生は、調に説明を求めているようだった。

 どこまで本性を出していいものかと思った調だが、どのみち、白波や星羅のときにも同じようなことがあったのだから、と諦めてため息を吐く。

 「あの、お兄さん・・・?」

 「あのよ、別に俺は学があるわけじゃねえから勉強に関してはとやかく言うつもりはねぇんだけど、あんたその状況で大地が助けてもらってたって本気で思ってるわけ?」

 「え、あの、だって、この子たちがそう言っているんです」

 「あー、そう。じゃあ当然、大地からも話聞いたんだ?」

 「それは・・・」

 「明らかにそいつら大地のこといじめてんじゃねえか。プールで溺れる?ランドセルが泥に落ちる?そんときそいつらがいつもいた?状況証拠完全に揃ってんじゃねえか」

 「いえ、しかし」

 「まあ百歩譲って、じゃあそれはいじめじゃねえとする。俺は認めねえけど。けど、今回は見ればわかるだろ。大地の顔にも服にもボールのあとがくっきりついてんじゃねえか。1回や2回どこじゃねえぞ。それがなんだ?たかが1回当たったくらいで痛いだぁ?それで泣いた?ふざけんじゃねえ。大地がどれだけ泣くの我慢してると思ってんだよ。こいつは我慢強いから普段から滅多に泣かねえけどな、今必死に我慢してることくらいはわかんだよ」

 「な、何よあなた!失礼なこと言って!」

 「そうよ!一緒に遊んでいただけじゃないの!?」

 「一緒に遊んでたなら、大地が1回当てたくらいで泣くなよ」

 「だいたい!!!なんで親じゃなくてあなたが来るのよ!?親にちゃんと教育されてないからこんなことになるのよ!!」

 「そうよ!あなた不良でしょ!?」

 次々飛んでくる保護者の言葉にも、調は強気な態度を崩さない。

 それから、先生の方を見る。

 思わずビクッと身体を震わせた先生に、調は舌打ちをしたくなるが耐える。

 「先生も先生だ。いいか、こういう喧嘩ってのは両者から話を聞くもんなんだよ。片方から聞いたって意味がねえ。こんくらいの子供だってな、保身のために幾らだって嘘吐くんだからよ。それくらい覚えとけ」

 「す、すみません・・・」

 「なんなんですかあなた!!!PTA役員で話し合わせていただきますよ!?」

 「問題にしますからね!!!」

 調は平然と大地に近づくと、そのまま大地の手を握り、片方の腕でランドセルを持つと扉へ向かう。

 「逃げるの!?」

 「これから貧しい家の子供は嫌なのよ!!」

 「・・・兄者」

 「・・・・・・」

 調を見上げる大地に、調はただいつものように笑って見せる。

 扉で大地を待たせ、大地のランドセルを手に持ったまま、調は子供たちの方へと向かっていく。

 手を出されると思ったのか、保護者は子供たちの前に自分の腕を置く。

 「・・・・・・」

 「なっ、なんだよ」

 調に見下ろされた子供は、母親に隠れながらも、不安そうな顔で調を見ている。

 調は両膝を曲げて子供たちの目線に近い高さを保つと、睨むわけでもなく、やる気のない様な、わかりやすく言うと白波のような目つきを向ける。

 そして、先程とは違う、少し柔らかい声で言う。

 「お前ら、母ちゃんの後ろに隠れてて恥ずかしくねぇのか?」

 「なんだと?!」

 「大地は、隠れなかったぞ」

 「・・・・・・」

 「男なら、正々堂々勝負しろよ。嘘も吐かず、誰も傷つけず、自分だけの力でな」

 「・・・・・・」

 「うちの子に説教なんて!!」

 「問題です!校長先生!この生徒をやめさせてください!!!」

 「じゃあ、失礼しまーす」




 帰り道、調も大地も黙ったままだった。

 半分くらい歩いたところで、大地が小さい声で言う。

 「兄者」

 「ん?」

 「ごめん」

 「何が?」

 「・・・いっぱい」

 「・・・・・・」

 調は大地の頭を鷲掴みすると、そのままワシャワシャと撫でまわした。

 「もう泣いてもいいぞ」

 「・・・泣かない」

 「頑固だな。誰に似たんだか」

 「次男白波」

 「ああ、確かにあいつもすげぇ頑固だ」

 ケタケタ笑っている調の顔をちらっと見たあと、大地は握っている調の手のぎゅ、と掴んだ。

 「・・・学校、無理に行かなくてもいいんだぞ」

 「ううん、行く」

 「・・・そっか。ま、何かあったら兄ちゃん呼べ。いつでも迎えに行ってやっから」

 「うん」

 「何があったって、兄ちゃんたちが守ってやっから」

 「うん」

 「ずーっとずーーーーっと。大地のことも、林人のことも、星羅も白波も、俺が守ってやっから」

 「うん」

 「・・・・・・」

 ふと下を向いて鼻をすすった大地に、調は気付かないフリをして「おー夕陽だー」なんて呑気なことを呟いた。

 そして家に帰ってから、ふと思うのだ。

 「そういや、林人で学校呼ばれたことねぇな。え?あいつ学校では優秀なの?それとも相手にされてねぇの?」




 ―翌日

 「おう、おはよう」

 「・・・・・・」

 「昨日はごめんな」

 「・・・・・・」

 「聞いてんのかよ!ごめんな!!」

 「・・・聞こえてる。なに急に」

 「・・・別に」

 「・・・まだ何か用?もういいよ。過ぎたことだから」

 「・・・お前の兄ちゃん、かっけぇな」

 「・・・うん。知ってる」

 それから、なぜか大地はその子たちと一緒に遊ぶようになったそうだ。

 一方、林人は昨日も今日もそして明日も明後日も、ダンゴムシごっこをしていたそうだ。



 「兄者、なんか兄者のサインが欲しいって言われた」

 「・・・・・・は?」




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